中国の自動車市場「価格競争白熱化」の時代に突入~BYDは「ガソリン車より安いEV」を強調

中国では春節明け、自動車の値下げ競争が一段と激化している。今回の値下げの先陣を切ったのはBYD。「ガソリン車よりも安い電気自動車(EV)」と銘打ち、EVの値下げ攻勢を強めた。これに対し、合弁を中心とした従来型自動車メーカーもガソリン車の価格を引き下げ。2023年が自動車業界の「価格競争元年」だとすれば、2024年は「価格競争白熱期」に突入するとの見方も出ている。

 

■BYDが値下げで先陣
中国の自動車市場は新エネルギー車(NEV)を中心に昨年から価格競争が激化している。2023年初頭に価格引き下げで先陣を切ったのはテスラだったが、今回はBYDが主導。BYDは2月19日、「秦PLUS EV栄誉版」と「駆逐艦05栄誉版」の2つの新モデルについて、「ガソリン車よりも安いEV」をスローガンに価格を引き下げ。秦PLUSの価格は過去最低の7万9800元とした。

BYDの値下げを受け、他のNEVも値下げに追随している。最初に追随したのは低価格で知られる五菱汽車。五菱は、「秦PLUS」と同クラスのモデルである「五菱星光PHEV 150 進化版」の価格を6000元引き下げて9万9800元に設定。初めて10万を割り込んだ設定となった。

哪吒汽車(Neta)、吉利汽車、長安汽車も相次いで値下げを実施。うち、Netaは多くの車種で値下げし、「Neta X」は発売当初の12万元超から2万2000元引き下げて、こちらも10万元を割り込む価格に。「長安A05」は1万1000元下げて7万8900元とした。吉利汽車は「亭豪 L HiP 龍騰版」の発売価格を8万9800元からとしている。

BYDの値下げ対象となった「秦PLUS」は2023年年初にもガソリン車の対抗馬として価格を9万9800元に引き下げた経緯があり、ガソリン車とほぼ同じ価格帯の初めてのEVとなった。そして1年後の今年2月、さらに2万元を引き下げた。

■ガソリン車も対抗
EVの価格は徐々に下がっている。当初は「ガソリン車より高いEV」から、昨年は「ガソリン車と同価格のEV」、そして今年は「ガソリン車より安いEV」と変遷。ガソリン車の価格優位性は失われつつある。

こうした中、NEVの値下げを受け、合弁ブランドを中心にガソリン車の値下げも実施されている。北京現代は最近、Aクラスセダン「エラントラ」の価格を24,000元引き下げて75,800元とした。 「エラントラ」の2023年の年間販売台数は10万9,000台。北京現代の全体の販売の45%を占める重要車種だ。上海通用(SAIC-GM)の「別克(ビュイック)」ブランドも値下げを発表。「别克君越」、「威朗Pro」、「昂科威Plus」をそれぞれ3万5000元、5万5000元、6万5000元値下げした。

 

■「Aクラス」市場が焦点
今回の価格競争の主戦場はAクラス(小型セダン)で、BYDも五菱も売れ行きが好調な車種で値下げした。BYDが値下げした「秦PLUS」の2023年の年間販売台数は45万6,000台で、前年比40%以上の伸びを記録。Aクラスの乗用車市場で最多の販売台数だった。「五菱星光」は発売以来、月次の販売台数が増加を続け、1万台以上の販売台数となっている。

では、BYDなど売れ行きが決して悪くない車種の値下げに踏み切ったのはなぜか。一因として挙げられているのはNEVの販売ペース鈍化が予想されていること。中国のNEV販売は2021年、2022年と爆発的に伸び、その後、2023年は伸び悩む局面に入った。 全国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)によると、NEV販売台数の前年比伸び率は2022年が90%、2021年が169%。対して2023年は36.2%で、2024年は一段の鈍化が予想されている。

全体の販売台数は鈍化が予想されているが、細分化した市場でみると、Aクラスの市場はNEVの販売拡大余地が残っている。Aクラス全体の市場ではNEV比率は、なお相対的に低いためだ。乗聯会によると、2023年のAクラスの年間販売台数は958万台で、自動車販売全体の44.2%を占めた。うちガソリン車のAクラスの販売台数は732万台、NEVが226万台。NEVの比率は24%で、自動車市場全体のNEV比率(35.7%)を下回っている。

 

市場全体の成長率は鈍化しているものの、主要自動車メーカーの目標は依然として高い。 BYDは2024年の販売目標を450万台に設定。これは2023年比で約50%の増加という強気の目標だ。

NEVという新興市場に多くの企業が参戦している中国の自動車市場。最近では高級EVブランドの「高合」が操業停止を余儀なくされるなど、退出する企業は今後も出る見込みで、「将来的に生き残れるのは数社程度」とみる向きもある。環境変化も激しい中で、スピーディーで柔軟な対応力が問われることになりそうだ。

 

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