中国自動車界にも「BAT」~ネット業界に続く

中国の自動車業界で「BAT」という言葉が頻繁に出てきている。中国の「BAT」といえば、一般的にインターネット分野の百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)の3社を指すが、自動車業界でも「BAT」が出現。自動車業界の「BAT」とは、比亜迪(BYD)、埃安(AION)、テスラ(Tesla)を指し、自動車業界の勢力図の移り変わりを反映している。


■変わる勢力図
もともと、中国の自動車業界の御三家といえば、「蔚小理」と呼ばれる蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(Xpeng Motors)、理想汽車(Li Auto)の3社が有名。「蔚小理」は、中国の新エネルギー車(NEV)業界の新興勢力として、車づくりの概念、製品定義、サービス、資本運営などの面から自動車産業の変革に新たな原動力を注入し、NEVに対する一般の認知度向上に大きく寄与した。
しかし、補助金政策が廃止される中、従来型の自動車メーカーや外資系企業などが電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHEV)などのNEVを相次いで投入。新興勢力と旧勢力の境界線がなくなりつつあり、業界再編が進んでいる。
新興勢力の「蔚小理」の3社自体もこのところ、販売台数などの面で差が開きつつある。今年4月の販売台数は、理想汽車が2万5700台だったのに対し、小鵬汽車が約7,079台、NIOが約6,658台にとどまった。業績でも理想が一歩リード。3社は依然として赤字だが、2022年12月期決算での損失額は、NIOが144億元、小鵬が91億元。これに対し、理想は20億元に抑えている。


■自動車業界の「BAT」登場
こうした中で自動車業界の新たな御三家ともいえる「BAT」が登場。全国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)によると、今年4月のNEVメーカーの小売販売台数のトップ3はBYD、AION、テスラの「BAT」。4月の小売販売台数は、BYDがトップで19万3,902台。2位はAIONで4万1,012台、3位がテスラで3万9,956台だった。
インターネット業界のBATがすべて民営企業に属するのに対し、自動車業界のBATは、BYDが民営企業、広州汽車傘下のAIONは国有企業、テスラは外資企業と、それぞれ異なる。
販売台数で2位を大きく引き離すBYD、そしてEVの先駆け的存在のテスラに関しては、御三家に名を連ねるのは想像に難くない。一方のAIONはここにきて急速に販売を伸ばし、前述の通り、4月の小売販売台数はテスラを上回っている。
AIONは広州汽車傘下のNEV部門で、2017年に設立。競争が激しい自動車業界では国有企業だからといって優位に立てるわけではないが、AIONは着実に足場を固めている。主力製品の価格帯は、BYDやテスラと同様、10万~30万元。この価格帯は現在、NEVで最も成長し、主流となっているマーケットだ。電池やエンジン、プラットフォームなどの技術面もBYDに遜色ない。
管理体制も整備されている。AIONは性質上は国有企業に属するが、非国有資本も受け入れる混合所有制改革を推進。研究・生産・販売の一体化、従業員持ち株制度、戦略投資家の導入など体制面での刷新も進めてきた。


■淘汰進む自動車業界
新興勢力「蔚小理」3社が業績などの面で明暗が分かれつつある中で「BAT」が登場。競争が激しい自動車業界の勢力図の移り変わりを示した格好だ。
実際、過去3年間、中国の自動車業界では75のブランドが営業停止や再編に追い込まれた。それでも依然として148の自動車ブランドが存在している。だが、上位20%の企業が販売台数全体の91%を占めているのが実情。これは、換言すれば、100近くの自動車ブランドがすでに淘汰の危機にさらされているともえいえる。
「BAT」3強の形成は、競争構造の再構築であると同時に、企業の優勝劣敗の加速ともいえるもの。「BAT」の3社が今の優位性を維持できるのか、日進月歩で進む環境変化への対応力など企業の力量が問われる。

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