BYD、2023年販売台数は300万台突破~今後は「テクノロジー企業」への脱皮がカギ
中国のBYDは2023年の自動車販売台数が300万台を突破した。同社は新エネルギー車(NEV)で世界をリード。全体の自動車販売台数でも世界9位にランクインした。2024年もNEV市場でのリード継続が予想される同社だが、ソフト分野での競争が激化する中国の自動車市場で一段の高みを目指すには「テクノロジー企業」に脱皮できるかが一つのカギとなっている。
■シリーズ別年間販売
BYDの年間販売台数はここ数年、急激に増加。2021年下半期以降、月次販売台数は新記録を更新し続けている。年間販売台数は2021年が74万台、2022年が186万台。2023年は前年比61.8%増の302万4000台と300万台を突破。中国のNEV販売を押し上げに寄与している。
BYDの製品ラインナップは、「王朝」、「海洋」、「騰勢(DENZA)」、「方程豹」、「仰望」の5シリーズあり、主力は「海洋」と「王朝」の2シリーズ。「王朝」シリーズ傘下のブランドは「泰」、「漢」、「元」など歴代王朝の、「海洋」シリーズ傘下のブランドは、「海豚(Dolphine)」など海洋関連のそれぞれ名前を冠しているのが特徴だ。
「王朝」と「海洋」を併せた2023年の販売台数は約287万台で、BYDの全体の販売台数の95%を占めた。うち、「王朝」の販売台数は31.8%増の149万台。その中で「泰」ブランドの販売台数は48万台超で、「王朝」シリーズの販売台数の約3分の1を占めている。
「海洋」の販売台数は96.5%増の183.29万台。「海洋」シリーズは主な購入者が若年層で、中でも小型EVの「海豚(Dolphine)」は若年層の通勤利用のニーズに対応している製品。2023年の「海豚」の販売台数は約37万台だった。
■2023年は「王朝」と「海洋」シリーズで10万元下回る製品投入
BYDは2023年初頭、「内燃機関(エンジン)車と電気自動車の同一価格戦略」を打ち出した。この戦略を踏まえ、同年は「王朝」、「海洋」シリーズでそれぞれ10万元を切る低価格帯のブランドを投入。「王朝」シリーズの低価格帯新製品は「秦PLUS DM-i 冠軍版」で、価格は9.98万元からとなっている。「海洋」シリーズでは3月に「海鷗(シーガル)」を発売。こちらも10万元を割り込む低価格の設定で、2023年の販売台数は2万8000台だった。
■価格帯は20万元以下でシェアトップ
価格帯でみると、BYDは20万元以下の市場で強みがある。中国メディアによると、2023年1~11月は、10万~15万元の価格帯でシェアが11.6%、15万~20万元の価格帯では20.2%で、ともに市場シェアでトップだった。
20万元を超える価格帯の市場では、BYDのシェアは必ずしも高くなく、基盤を固めている状況にある。その中でブランドイメージの転換を狙って投入したのが「王朝」シリーズの「漢」と「唐」。どちらも価格帯は20万~30万元で、月次販売台数は「漢」が約2万台、「唐」が約1万台となっている。
また価格が40万元を超える「騰勢(DENZA)」シリーズの「騰勢D9」は2023年の販売台数が11万9000台。中国のMPV(多目的乗用車)で最大の販売台数を誇った。
一方、2023年にBYDの高級ブランドとして投入した「仰望」シリーズの「仰望U8」。100万元を超える価格だが、12月の販売台数は1593台どまり。今後の販売動向を注視する必要がある。
■コスト優位性
低価格帯の市場で強みを持つBYD。低価格製品が投入できる背景の一つに、垂直統合モデル採用によるコスト抑制がある。電池メーカーから出発したBYDは、部品の多くを他のメーカーに外注する自動車メーカーと異なり、部品の少なくとも70%を自社生産。バッテリー、モーター、電子部品、パワー半導体等の部品を自社生産し、独自の垂直サプライチェーンを形成して、コストを抑えている。また、創業者でCEOの王伝福氏は、エンジニア出身。技術革新を重視するとともに、技術者文化の確立にも努めている。
■新たな価値創出へ
ただ、自動車はいまや単純な移動手段ではなく、消費者に新たな体験を提供するなど新たな価値の創出が求められる時代。それだけに、ハードの技術だけでなく、ソフトウェアやアルゴリズムなどの分野に競争はシフトしいている。競合愛知も従来の自動車メーカーだけでなく、華為(ファーウェイ)なども出現する中、BYDが今後もNEV市場でトップの座を維持するには、「テクノロジー企業」に脱皮できるのかがカギの一つといえそうだ。