中国女性への権限付与とは
中国女性の力は、世界からしばしば注目されてきた。
中国初の女性宇宙飛行士・劉洋(リウ・ヤン)は神舟14号に搭乗し、半年間の宇宙滞在を経て地球に帰還した。高暁力(ガオ・シアオリー)は国連上訴裁判所初の中国籍裁判官に選出された。中国女子サッカーチーム初の女性監督・水慶霞(シュイ・チンシア)は 第20回女子アジアカップでチームを優勝に導き、16年ぶりの頂点に輝いた。
現在、政治・経済・文化・外交・科学技術など多くの分野で中国女性が優れた貢献をし、大きな役割を果たしている。多くの人の目には、この数十年、中国女性の地位が高まり続け、都市部の家庭では女性の地位が男性より高いとさえ見えているだろう。しかし「男は外、女は中」という伝統的な考え方は依然として根強く、実際に女性は子育てや家事の責任を負い、ジェンダー平等と女性の社会進出には多くの課題がある。権限付与(empowerment)は管理学の概念で、抑圧や社会の不公正に抵抗する末端の闘争に使われていた。女性主義の理論において、権限付与は、客観的な環境や条件によって強いコントロール権限を与え、無力感を取り除くことと理解される。
女性への権限付与は技術的な作業であり、複雑な政治的任務であり、社会規範と権力構造が様々な集団の暮らしや機会にどのように影響を与えるかを見るための方法でもある。女性への権限付与は「開発における女性」(WID)、「女性と開発」(WAD)、「ジェンダーと開発」(GAD)などの理論の運用であり、その上で概念化可能なジェンダー平等を実現する重要なプロセスである。持続可能な発展という視点で、主体としての女性の地位を認め、外部からの力と内発的な自己への権限付与により、権力のアンバランスを調整し、資源分配、機会の選択、暮らしのコントロールなどの平等化を実現する。
女性への権限付与は社会の発展において最も注目すべきトピックの1つである。ジェンダー平等は持続可能な発展の必須条件であり、持続可能な発展に不可欠な要素でもある。国連は女性への権限付与に非常に注目している。国連開発計画(UNDP)は、女性への権限付与は女性自身が感じる価値観を意味していると言う。女性は、自身の選択を決定することができるし、機会と資源を得る権利がある。家でも社会でも、自身の生活をコントロールする権利がある。女性は社会変革の方向性に影響し、国と世界のためにより公平な社会と経済的秩序を生み出す能力を持っている。
国連は、女性への権限付与に関して具体的な措置も取っている。2015年に国連が発表した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の17の持続可能な開発目標(通称SDGs)には「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」がある。その意図は、女性は教育、就業、自己形成の過程で、経済と政治から発展と向上を享受することができるというものだ。また国連は、ジェンダー平等の実現は、貧困撲滅、働きがい、質の高い教育、持続可能な都市・コミュニティなどの目標達成にも役立つとしている。
新中国成立以降、中国は女性への権限付与について様々なレベルで成果を上げてきた。まず、制度からの権限付与である。中国の女性解放は党と国の事業と終始密接に関係してきた。中国共産党は男女平等という政治主張を堅持し、女性解放と男女平等の表現を努力目標とし、女性に関する事業を中国共産党の重要な事業の一部としてきた。中国は国連SDGsを積極的に支持し、持続可能な発展目標を「中華人民共和国国民経済・社会発展第14次5カ年計画及び2035年までの長期目標綱要』、『中国女性開発綱要(2021〜2030年)』などの政策に盛り込んでいる。
次に、経済力の付与である。国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」では、男女は「経済、社会及び文化において平等な権利を有する」と強調している。中国は経済分野でのジェンダー平等に取り組み、教育向上によって就業構造の最適化を進め、資源投入によって技能訓練機会の拡大を保障し、法律によって女性の就業を促進してきた。女性の経済への参加は増え続けており、経済面で参加できる分野は広がり続け、自由に選択できる分野も広がり続けている。社会保障と労働保護について、中国は女性の労働と就業の環境を改善し、性別による賃金格差を徐々になくしている。
貧困脱却プロジェクトにおいては、土地に関する女性の権益保障と貧困女性の減少を優先事項とし、貧困女性への資源供給を保障し、貧困女性への支援プロジェクトを実施し、農村での情報収集・データバンク構築により就業を補助している。これらの措置は、女性の労働参加を確保し、「女性解放の第一条件は、すべての女性を再び公共事業に戻すことである」を実現するための確固たる基礎となっている。さらには、社会における文化の付与である。文明社会とは、女性が進歩し、発展する社会に他ならない。女性に権限を付与し、有利な社会環境を作るためには、社会各界からの幅広い支持が不可欠である。
教育について、中国は教育で国民に資する政策を継続し、都市と農村の教育格差を縮小し、女性の教育状況を改善し、教育を受ける人口の割合を大幅に向上させた。健康については、「中国を健康にするアクション」と「中国の母親を健康にするアクション」を実施して、質が高く、効率的で、負担可能な範囲の医療と保健サービスを女性に提供している。様々なルートで女性の健康事業を発展させ、女性特有のニーズに注目しているのである。社会参加については、女性の社会事業参加と民主的な管理に関する意識と能力を向上させ、意思決定と管理への女性の参加を後押ししている。社会保障については、女性が持続可能で多層的な年金を享受できるようにし、生活に困っている女性をもれなく保障する社会支援を強化し、多面的・長期的な保障制度の確立を模索し、女性ケアサービスのレベルを向上させている。婚姻については、男女平等の婚姻制度を整備し、家庭と女性の発展を支持する政策体系を確立し、家庭を作る上での女性ならではの役割に注目し、男女が共に家庭での教育責任を担うという意識と能力を強化し、全社会に向けて女性を尊重して思いやり、女性の自立を奨励して支持するよう、提唱している。
注目すべきは、ジェンダー平等と女性への権限付与に関して、デジタル革命が無限の潜在力を持っていることだ。技術の進歩による科学ボーナスが労働や就業、公共サービスなどの分野に多くの機会と条件を生み出している。しかし、性別によるデジタルデバイド、新技術が生み出すネット上の性暴力、ネット犯罪、ネット上での人身売買といった新たな問題とリスクによって、女性への暴力と差別が交錯する状況が生まれている。ある意味では、技術が女性の社会進出の困難を助長しているのである。
ジェンダー平等は基本的人権の1つである。これは、持続可能な発展という視点から、ジェンダー平等を技術革新の中心的位置に置く必要があることを意味する。そうすることで、ジェンダーの壁を打ち破るアルゴリズムを作り出し、ジェンダーの視点から文明的で友好的な倫理の要素をデジタル利用に提供し、女性の発展が直面する「デジタルデバイド」を取り除き、どんな人も取り残さない」という発展の約束を守らなければならないのである。
文/西南政法大学人権研究院教授・趙樹坤 翻訳/及川佳織
【プロフィール】
趙樹坤(ジャオ・シュークン)
法学博士、西南政法大学教授、博士課程指導教員。『人権法学』副主編、中央宣伝部「文化名家・4 分野の優秀人材」、国家社会科学基金重要プロジェクト首席専門家、中国法理学研究会理事、中国人権研究会理事。ケンブリッジ大学、コーネル大学への訪問研究がある。主な研究分野は法理学、人権法学。国家社会科学重要プロジェクト1 件のほか、省や国家機関のトップ級プロジェクトを多数主催し、国連人権理事会会議やサイドイベントにも多数参加している。