【西北大学シルクロード考古学センター 王建新主任インタビュー】シルクロード研究に 必要な東洋の視点

西北大学はシルクロード考古学に長年の蓄積がある。十数年にわたり中央アジア諸国と共同で考古学研究と遺跡の修復をおこなってきた。長期的な努力によって古代の月氏と康居の文化遺跡を確認し、中央アジア考古学研究における重要な飛躍となった。中国の側からのシルクロードの歴史解釈は実証的資料と科学的根拠を提供し、シルクロードの様子を復元するのに役立っている。西北大学シルクロード考古学センターの王建新(ワン・ジエンシン)主任に話を聞いた。

2015年、ビシュカパ遺跡の調査。写真提供/王建新

記者2000年もの時を経てから、大月氏の考古学遺跡を探すのにはどのような意味があるのでしょうか。これまでにどのような成果がありましたか。

王建新:月氏はかつて中国国内にいた遊牧民族です。秦末から漢の始めにかけて匈奴に敗れ、一部は西へ逃げて大月氏と称しました。月氏は、中国から中央アジアに向かった人々のうち、歴史に最初に記載された民族で、現地の経済や文化、その後の発展に大きな影響を及ぼしました。武帝時代の漢は、月氏と協力して匈奴に対抗しようとし、張騫を西域に派遣しました。月氏の西への移動と張騫の西域遠征はシルクロード交流史上、重要な出来事です。

長年、古代月氏の遺跡はその分布する場所や特徴なども確認されておらず、専門的に研究する考古学者もいませんでした。張騫の西域遠征から2000年たち、西北大学考古学チームがその足跡をたどって中国から中央アジアに向かい、月氏の考古学的遺跡を探したことは、古代シルクロードでの交流を探る上で大きな意義があります。

シルクロードという概念は西洋の学者が100年以上前に提起したもので、当然、西洋の視点によるものです。しかしシルクロードは東西交流の道であり、その研究に東洋の視点は不可欠です。月氏人は東から移動したので、月氏を対象にシルクロードを研究することで東西の視点を統合でき、シルクロードの認識も全面的になり、復元された歴史はより真実に近づきます。

2018年春、ウズベキスタンの考古学者と野外で話し合う。写真提供/王建新

2000年頃に西北大学考古学チームは、甘粛省の河西回廊から新疆の東天山地区までの大月氏探査を開始し、主に東天山地区を中心に広がる紀元前5世紀から2世紀の古代遊牧民の遺跡、つまり月氏人が残したものを確認しました。2009年には初めて中央アジア地域に入り、そこで月氏の古代遺跡を発見し、東天山地区に残された遺跡と同じ人々が残したものであることを証明しました。

学術的な問題だけでなく、考古学研究の理論と方法においてもブレイクスルーがありました。歴史的文献によれば、古代遊牧民は水と草を求めて転々としたとされていますが、考古学の発見によって、古代から現代までの遊牧民の通常の生活様式には定住もあり、遊牧民集落はよくあったことがわかりました。

冬には一般の遊牧民、貴族、統治者たちはほとんど定住したので、集落の遺跡は山の南側によく見られます。小規模集落が多いのですが、中・大型集落も多少あります。夏には一般の遊牧民は移動しますが、定住する人もおり、多くは貴族や統治者、さらには老人・弱者・病人・障害者・女性・子どもなど、遊牧生活に適さない人たちです。私たちは国際学界に遊牧民集落の考古学研究に関する理論と方法を提起し、現在は理論・方法と実践において世界のトップレベルにあります。

記者:シルクロード考古学の現実的な意義とは何ですか。中央アジアにもたらすものとは何でしょうか。

王建新:シルクロードは東西交流にとって重要な道です。これまでの発見によると、今から4~5000年前に東西の交流が始まっていました。シルクロード貿易は一般に考えられているより早く始まり、中国とインドからシルクが中央アジアに伝わりました。私たちは、ウズベキスタンで 4000年前の蚕のまゆを発見しています。考古学研究によって、シルクロードをより深く知ることができます。中国の考古学理論と方法は、ヨーロッパから入ったものですが、100年にわたる実践を経て、中国の特色が形成され、自分たちの作業方式や技術的手段が生まれました。これらは西洋の学術界にはあまり知られていません。

2019年、サークハラカット墓地 M01 の試掘。写真提供/王建新

21世紀に入って中国では遺跡保護の理念が確立され、私たちは、こうした遺跡保護の理念を中央アジア考古学研究に持ち込みました。中央アジアでは、西洋学術界は都市遺跡に注目し、「城内だけを発掘し、城外は発掘しない」ことが多いのです。私たちの研究は城内・城外、居住地区、墓地を含めた経済、政治、文化、軍事、宗教などを研究しようとするもので、これまでの研究の空白を埋めることができました。

記者:中央アジア考古学の今後のポイントは何ですか。中央アジアでの国際協力をどのように深めていきますか。

王建新:現在、西北大学では中央アジア5カ国のうちカザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンと協力をおこなっています。今後は二国間協力を拡大するほか、多国間協力を計画しており、たとえば、タジキスタン、キルギス、ウズベキスタンと協力してフェルガナ盆地で研究をおこないます。このほか、今年はトルクメニスタンとの協力を計画しており、すでに基本合意に達しています。西北大学は8つの国と地域の大学や研究機関17カ所とシルクロード考古学協力研究センター協定を結んでおり、9カ国から専門家26人を招聘して、センターの学術委員をしていただいています。今後は中央アジアを中心に、西アジア、南アジア、北アジアへ協力を拡大し、古代の様々な民族と文化の移動、融合、交流において生まれた影響などを研究の重点としていきます。

【プロフィール】
王建新(ワン・ジエンシン)


西北大学文化遺産学院教授、西北大学シルクロード考古学センター主任、シルクロード考古学協力研究センター首席科学者、西北大学中央アジア考古隊隊長。長年にわたり、北東アジア考古学、中央アジア考古学、仏教考古学、遊牧民集落考古学、文化遺産保護管理などに関する教育および研究に携わっている。

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