東西の文化が集まる香港、如何にソフトパワーを発揮するのか
東西の文化が融合する香港は、地理的優位性、「一国二制度」という制度的優位性を有するが、「文化砂漠」と言われることがある。香港は中国と海外の文化・芸術交流センターとしての新しい使命をどのように担うべきか。またどのように自身のソフトパワーを活用し、発揮すべきか。これについて、中国民間芸術家協会香港分会主席で、香港城市大学中国文化センター主任の鄭培凱氏が中国新聞社の「東西問」の独占インタビューに応じた。
インタビューの要約は以下の通り:
中国新聞社:東西の文化が集まる香港は、その社会においてどのような文化の特徴があるのか?「文化砂漠」という言い方は適切か?
鄭培凱:香港はかつて英国の植民地支配の下、東西の文化交流が取り立てて強調されることなく、エリート層は全般的に英国人、英国文化を追いかけていた。一般庶民の文化はあまり重視されてこなかったため、中国の伝統文化は大衆の間のみで引き継がれてきただけで、英国統治の文化に比べ継承などの面で弱いといえる。その上、香港は100年以上にわたり、「借りた時間、借りた場所」の中で経済発展を主体としてきた。それ故、「文化砂漠」と呼ばれることもある。この説には歴史的な背景、理由があり、英国統治下の香港は中国文化の発展にとって「文化砂漠」だったといえる。
しかし、香港にも非常に優秀な文化人が多く集まっていたことを忘れてはならない。これは中国本土の政治、社会の歴史、変化と関係があり、多くの文化人が香港に逃れてきた経緯がある。そうした文化人はそれぞれ強み、見識を持ち、別の形で文化問題を考え、発展させることができた。その意味では、香港には隠れた才能が潜んでいるともいえる。1950年代以降、香港には本土から来た「南来文人」と呼ばれる人や学者がいる。こうした人は、香港のメディアや文化の発展、学術界での中国の文化伝統の発展に貢献。新しい儒家として、中国文化の継承、発展において重要な役割を果たした。このため、香港は「砂漠の中にオアシスがある」ともいえる。香港に「文化のオアシス」が現れたのは、長期的な歴史において重要な意義があるといえる。また、香港はアジアの中でも社会が相対的に安定している。これは、中国と西洋の文化の融合発展に有利で、中国の伝統文化は歴史の変遷の中で、香港において新たな要素を派生、発展させるチャンスがあろう。
中国新聞社:西九龍文化区、香港故宮文化博物館は香港の文化の発展においてどのような役割を担うのか?
鄭培凱:中国返還以降20年余り、香港政府は政治の安定、経済の繁栄継続に力を入れる必要があったため、文化・芸術面は手薄だった。文化の発展には目下、より基礎的な教育の面から着手すべきで、香港の「文化のオアシス」を小さくしてはならない。近年、文化・芸術に対する関心が高まっているのは良い現象だ。西九龍文化区は東西文化が交わる役割を果たし、中国の伝統文化と香港に残っている西洋文化の優位性を相互に補完し合って発展していくだろう。この2つの基礎を築いてこそ、中国と海外の文化交流において香港は重要な役割を果たすことができる。西九龍文化区の重点は文化伝統の真髄を発掘すること、中国と西洋の優れた文化を発展させることである。21世紀の現在、中国の伝統文化を一層盛んにするには、多くの人の知恵と努力が必要である。国際化というのは口先だけで達成できるものではないためだ。かつては世界の様々な文化を認識せず、英国の優れた文化のみに触れて、これこそ世界の文化の先端、潮流だと感じ、中国の伝統文化を重視してこなかった人もいた。このことは、過去の香港のエリート層の思考、意識の中で文化・芸術の発展を阻害していた要因ともいえる。
香港故宮文化博物館は、香港という東西文化の集まる場所で中国の過去の栄光を展示するだけでなく、来場者が展示品の中から中国の伝統文化の美しさを理解することで、中国の伝統文化をさらに広げ、発展させるにはどうすればよいかを考えるきっかけになる場とすべきである。故宮博物館の多くの展示品は宋・元・明・清時代のもので、それらは数百年以上前からの芸術品である。このような優れたコレクションを見て、21世紀を生きる現代人は、伝統と現在を結びつけ、未来をどう発展させていくのか、そして文化・芸術の面で何を残すことができるのかを考える必要があろう。こうしたことこそ、偉大な伝統にふさわしいといえる。
中国新聞社:香港の映画、テレビ、歌などの流行文化の影響力をどうみているか?これらは、香港の文化芸術事業の発展においてどのような役割を果たしているのか?
鄭培凱:19世紀の西洋で印象派が現れた当初は、重要視されず、貶められたこともあった。しかし100年後、200年後、印象派に大きな芸術的価値があることが広まった。しかし、当時の人々は保守的な観念に固執し、革新的な文化・芸術についてはあまり理解していなかった。こうした過去の教訓を踏まえると、文化・芸術の発展には、発展させる「空間」をつくり、発展の道筋をつけることが重要である。
香港の流行文化の影響は大きいといえる。大衆文化、特に映画、テレビの文化は、基本的に市場動向を見てつくられるため、低俗なものもある。しかし、非常に工夫を凝らした傑作もある。市場主導の下では、こうした文化の発展を抑制しない限り、政府はリソースや力を過剰に投入する必要がない。しかし、文化の発展には長い過程があり、経済的利益だけに目を向ければ、大衆文化の発展に深刻な問題が生じ得る。長期的な文化の発展には、多くの人の努力と同時に、鑑識眼を持つ人のサポートも必要で、目先の利益だけを追及してはならない。
香港は文化・芸術の発展において重要な役割を担うことができる。西洋文化に広く深く接していると同時に、中国の奥深さもあるからだ。中国の伝統文化の素晴らしさを香港の特性として生かすことが期待されている。それには香港に暮らす私たちのような人々がしっかりと努力する必要がある。
中国新聞社:香港での中国の伝統文化の継承状況はどうか?中国と海外の文化・芸術交流センターとしての香港の発展はどのような基盤、優位勢があるか?将来の課題とチャンスはどこにあるか?
鄭培凱:香港における中国の伝統文化の発展は2つに分けられる。一つは香港のエリート層、もう一つは一般の層の中国の伝統文化の広がりである。英国の植民地支配の下、中国の伝統文化は香港のエリート層の間ではあまり発展しなかった。それらの文化人の多くは比較的孤立していたためで、文化人が愛で信仰する文化・芸術を広げることが難しかった。むしろ、孤立した文化人の姿が、文化の発展をリードする社会の象徴となった。一方、香港に住んでいる多くは中国人のため、その日常生活の文化・伝統は中国式で、特に嶺南文化の風習が受け継がれてきた。香港の無形文化遺産にも、中国の伝統文化の慣習や特色が多く残っている。今後は両者の融合が必要である。香港の強みは、国際的な環境と嶺南文化の基盤を同時に持っていることにあり、この基盤の下、さらなる発展を信じている。
中国新聞社:香港の文化・芸術事業の発展に向けて、どうすれば「東方の真珠」というソフトパワーを発揮できるのか?
鄭培凱:まず優れた中国の伝統文化を認識すること。香港の一般の人が認識している伝統は、最も基礎的な部分にすぎず、文化の復興、刷新を実現するには十分でない。また、人文学者は国際的な論文を発表し、西洋的思考基準で中国の文化・芸術を評定することだけに捉われるべきではない。西洋の文化・芸術の真髄は参考として、吸収できる部分は吸収して活用すべきだが、これは全てにおいて西洋を模倣することを意味するわけではない。
香港で生活しているというチャンスを活かして、長所を発揮し、東西の文化を融合し、新しいものを創造していかなければならない。具体的には、各人が自分の方法でできる限りのことを行い、レンガを1枚ずつ、瓦を1枚ずつ積み重ねていくことである。他の分野の専門家は、人類の将来を見据えた歴史的、長期的な視点から、中国の伝統文化と西洋文化を広く吸収し、自身の専門分野に投入するよう努力する必要がある。また香港政府は、より寛大で長い目線で、文化・芸術の発展を考え、そのためにより良い環境、資源を提供する必要があろう。(翻訳:香港ポスト)