中国、地域間で消費格差~沿海大都市は低迷も中西部は堅調
中国では地域間で消費の二極化が進んでいる。沿海大都市では消費の低迷が続く一方、中西部では消費が堅調に推移している。中西部での堅調な消費が短期的な現象なのか、構造的な変化なのか、今後の推移が注視されている。
中国では地域間で消費の二極化が進んでいる。沿海大都市では消費の低迷が続く一方、中西部では消費が堅調に推移している。中西部での堅調な消費が短期的な現象なのか、構造的な変化なのか、今後の推移が注視されている。
中国はインフレかデフレかーーを巡る議論が広がっている。中国経済にとってこれまで、長期にわたる懸念事項はインフレだったが、ここにきてデフレを懸念する向きも出ている。一方で、デフレではなく依然としてインフレに警戒すべきと一石を投じる声も上がっている。
中国国家統計局が6月17日に発表した第2四半期(4~6月)の国内総生産(GDP)は前年同期比で6.3%増と、伸び率は市場予想を下回った。これは、消費と不動産の弱さという短期的な逆風が克服されていないことを反映している。 しかし、同日に発表された政府系メディアを通じた政府の公式見解では、中国政府が依然としてコロナ後の経済全体の回復に自信を示し、短期的な大規模な救済措置が再び必要でないことが示唆されている。中国政府は短期的な景気浮揚でなく、長期的な質の高い発展を睨んだ産業構造の高度化・転換の加速に注力するとみられている。
中国で消費刺激策の一環として戸籍制度改革の必要性を求める声が権威筋の間で上がっている。農村戸籍と都市戸籍の「二重戸籍制度」となっている中国では、農村戸籍保有者の医療や年金などの社会保障は都市戸籍保有者に比べて十分に整備されていない。農村戸籍が7億人以上いる中、戸籍制度改革を通じて農村戸籍保有者のセーフティネットを整備することで個人消費を活性化させる必要があると指摘されている。
中国では景気の下振れリスクに懸念がくすぶる中、今後の経済政策の行方に注目が集まっている。中でも政策決定に影響を与える有力経済学者の政策提言は、今後の政策を占ううえでの重要な手がかりとして注目されている。
中国共産党の中央財経委員会は4月26日、インフラ整備の強化の方針を正式決定した。インフラ整備の強化を「内需拡大」に結びつけることが強調されたことが大きな特徴だ。それ以外に、インフラ整備を経済の「国内国外のダブル循環」と「質の高い発展」に結びつけることも強調された。 ■中長期的国内外の情勢を念頭に、強い目的意識をもって判断 中国では、コロナウイルス感染症が増加したために3月末から上海市で人の移動の極めて厳しく制限するなど、各地で厳しい対応が続いている。感染症対策は経済にとって逆風になる。そのためか、中国国外ではインフラ整備の強化はコロナ対策の一環と理解された場合が多い。 しかし、「インフラ整備」の主たる目的がコロナ対策と理解することは不自然だ。その理由とは、中国当局によるかねてからの「内需拡大」の位置づけだ。 経済成長を実現させる三本柱は「輸出」、「投資」、」内需」とされる。そして中国政府は2010年代から、「内需の拡大」を特に強調してきた。また、米国のトランプ前政権とバイデン現政権による「中国締め出し」で、中国が経済を成長させるために輸出に過度に頼ったのではリスクが大きいことが、改めて鮮明に示された。 つまり、中国にとって内需拡大の重視は、長期的視野に基づく成長モデルの転換の一環であり続けてきた。新型コロナウィルス感染症が発生しているからには「さまざまな手を先に先に打つ」ことは当然考えられるだろうが、インフラ整備が単純なコロナ対策として位置付けられているとは考えにくい。 ■方向性を見定めた上でインフラ整備に注力 インフラ整備の強化について言及があった「国内国外のダブル循環」とは、20年5月に公式に表明された経済政策の大方針だ。まずは、「中国は市場規模が極めて大きく、今後も内需拡大の余地は大きい」と認識する。その内需がけん引する国内の経済循環を活性化し、その上で国内での経済循環を国際的な循環を接合させる方策だ。 つまり「国内国外のダブル循環」も内需拡大に直接関係している。これらのさまざまな施策を通じて実現を目指す、より健全な経済成長や社会の改善を一言で表現すれば「質の高い発展」ということになる。 インフラ整備に注力する上で、つねに問題になるのは財源だ。中央財経委員会はインフラ整備の強化について「大盤振る舞いはしない」と明言した。つまり効果がはっきりと期待できる分野や方向性に絞って、投資を進めるとの考えだ。 中国の最近の政策としては、貧困撲滅運動の際に「精準(ジンジュン、=極めて精確に)」という言葉が繰り返し使われた。すなわち資力や人力最も効率よく「ピンポイント」に近い方法で投入するということだ。インフラ建設についても同様に、「効果」を重視して長期に渡りきめ細かい取り組みを進めていくことになるはずだ。 ■共産党中央が示したインフラ整備の具体的分野とは 中央財経委員会は、インフラ整備で力を入れる分野について交通、エネルギー、水利などのネットワーク型インフラ建設を強化により、効率を高める努力をすべきと表明した。エネルギーについては分散型スマートグリッドの開発やグリーン・低炭素エネルギー拠点の構築、石油・ガスパイプラインネットワークの整備を加速させる。 人口1人当たりの降水量が少ない中国では、水資源利用の効率化が極めて重要だ。一方で、大陸国である関係で、河川の上流部分が増水あるいは氾濫すれば、影響は下流の極めて広い範囲に及ぶ。そのため、そのため、重要な水源、灌漑地域、洪水防止のための貯水地域の建設と近代化が促進されることになった。 もちろん、情報・技術・物流などの産業高度化のためのインフラ建設も強化される。さらに具体的には新世代のスーパーコンピューティング、クラウドコンピューティング、人工知能プラットフォーム、ブロードバンドインフラネットワークなどを配置や構築だ。 それ以外にも、都市インフラの建設を強化して、快適で安全な生活を確保する。スマート道路、スマート電源、スマート公共交通などのインテリジェント・インフラの建設も強化される。農村部の水利や交通も整備され、都市と農村のコールドチェーン物流施設の建設も加速する国家安全保障基盤の構築を強化し、極限状況への対応力強化も強化される。 中国では長年にわたりインフラ整備が進められており、大きな成果が達成されてきた。しかし、国土が広く人口も大きいだけに、いまだに「満足してよい状態」とまでは言えないのが現実だ。特に農村部でのインフラ整備では、まだやらねばならないことが多いとされる。また、最近になって重視されるようになった「デジタル化の推進」などについては、従来はなかった種類のインフラが多く必要となる。 インフラ整備には多くの企業が参画することになる。企業にとってはビジネスチャンスだ。中国でインフラ整備が加速されれば、日系企業にも恩恵がもたらされる可能性が出て来る。 中国各地では、地域の実情に沿う方向でインフラ整備が推進されることになる。中国でビジネスを展開するならば、それぞれの地方で求められている商品やサービスをいち早く察知して提供することが、極めて重要だ。 ■中国経済が、日本にも大きな影響 ここで、日本の「足元の状況」を見ると、中国での新型コロナ流行の影響を受けていることは事実だ。帝国データバンクが5月17日付で発表した日本企業に対するアンケート調査の結果によると、中国におけるロックダウンによって企業活動に「すでにマイナスの影響がある」あるいは「今後、マイナスの影響が出る見込み」と回答した企業が計48.8%だった。 日本で特に注目されているのは、上海でのロックダウンだが、それ以外の都市でもロックダウンが実施されている。例えば中国に製造拠点を置く日本の企業の場合、自社に直接関係する工場の所在地がロックダウンの対象にならなくても、中国各地で実施されるロックダウンの影響でサプライチェーンが寸断され、通常の操業が出来なくなる場合もある。 日本にとって、中国経済が順調に推移することは、極めて重要だ。コロナの影響であれ、それ以外の要因によるものであれ、中国経済が混乱すれば日本経済は大きな“打撃”を被ることになる。であるからには、中国が経済分野の困難をいかに乗り越えるかは、日本経済にとって、さらには世界経済にとって決して「対岸の出来事」ではない。(構成 / 如月隼人) 筆者プロフィール:如月隼人。東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒。1987年から91年にかけて北京に留学。帰国後は編集記者として活動。扱う内容は主に中国や中華圏の政治経済や社会情勢、科学技術など。歴史や文化、伝統芸術についても多く執筆してきた。
中国の今年1~3月期の国内総生産(GDP)をはじめとする経済指標が発表された翌4月19日、新華社は「中国経済の10大問題」と題する文章を掲載した。10の問題は(1)目下の経済情勢(2)防疫措置(3)雇用問題(4)内需(5)貿易、外資の動向(6)インフレ(7)産業・サプライチェーン(8)中小・零細企業(9)不動産市場(10)エネルギー、食糧問題――。このうち、以下では防疫措置、産業・サプライチェーン、中小・零細企業の課題、それに対する当局の方針を簡単に纏める。 ■防疫措置について 防疫措置ではまず、3月以降の新型コロナウィルス感染拡大の状況について「コロナ感染が30省・直轄市に波及し、その中には上海や深圳などGDP規模が大きい都市、吉林などの農業大省が含まれ、景気下押し圧力が徐々に拡大している」と指摘。感染拡大防止措置の強化は「短期的には経済に衝撃となる」と経済へのマイナス影響を認めている。但し、中国の人口14億人のうち60歳以上の人口が2億6,700万人を占めている点を挙げ、「厳格な予防措置を適時に行わなければ、集団感染リスクが高まる」と指摘。長期的な観点から「動態ゼロコロナ」政策を堅持する方針を示した。 ■サプライチェーンの混乱について サプライチェーンの一部混乱については、産業チェーンの安定にとって不確実性を増幅する要因になっていると認めながらも、これは「コロナがもたらしている短期的な衝撃という側面が強い」と指摘。「目下、重要なのは混乱を招いているポイントに焦点を当て、適宜その問題を解消し、短期的な困難が長期的な趨勢に発展するのを避けること」と、サプライチェーンの混乱の長期化を回避する必要性を強調した。同時に、「チェーン」上にある企業をしっかりと守ることが重要であるとしている。 ■中小企業問題について 中小・零細企業については、受注や売上の減少、未払い金の増加、原材料価格の高騰、人件費や輸送コストの上昇などの問題に直面していると指摘。生産が増えても売り上げが増えない、売り上げがあっても利益が出ないという矛盾が鮮明化し、企業の間の格差が拡大し続けているとしている。こうした中小・零細企業の救済においては、経営コスト引き下げのための減税や費用引き下げと同時に、キャッシュフローを増やすための金融支援が必要との認識を示している。
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