中国経済、インフレ、デフレを巡る議論
中国はインフレかデフレかーーを巡る議論が広がっている。中国経済にとってこれまで、長期にわたる懸念事項はインフレだったが、ここにきてデフレを懸念する向きも出ている。一方で、デフレではなく依然としてインフレに警戒すべきと一石を投じる声も上がっている。
■商品価格高騰に警戒
インフレかデフレかをめぐる議論が広がっている背景の一つは燃料価格と商品価格の高騰。中国では今年に入り石油製品価格が幾度となく引き上げられ、9月21日からは今年10回目となるガソリンと軽油の値上げが実施された。
足元では商品価格も高騰している。商務部の「景気予測」によると、9月第3週の中国商品価格指数(CCPI)は189.7ポイントで、前週より1.6ポイント(0.9%)、年初より5.5ポイント(3%)上昇している。分類別指数では、主要9品目のうち上昇が5品目、下落が4品目。その中でもエネルギー、鉱物、ゴム類の上昇が顕著となっている。
こうした商品価格の高騰は企業の生産コスト上昇につながるだけに、インフレに警戒すべきとの声が上がっている。
インフレ懸念を示す一人が学者である孫立平氏。孫氏がこのほど公表した、「あなたはデフレを懸念し、わたしはインフレを懸念する」との文章はインフレ・デフレ論争に一石を投じるものとなっている。
孫氏はまず、「中国は長年にわたって過剰な通貨発行を行ってきたが、なぜ鮮明なインフレを招かなかったのか?」という点を分析。その主な理由として、不動産と株式市場という2つの貯水池があった(資金の受け皿があった)こと、社会全体の生産能力が過剰な状態にあったことの2つを挙げている。この2つがなかったら、通貨が過剰に発行されていた状況下、いつでもインフレが出現する可能性があったという。
ただ、孫氏は現在は状況が異なる点を指摘。「不動産セクターはもはや貯水池としての役割を果たせず、株式市場も同様」という。
孫氏はまた、足元の商品価格の高騰についても企業の生産コスト上昇につながり、コスト・プッシュ型のインフレを招きかねないと警戒している。実際、前述の通り、最近の商品価格の上昇は著しく、化学品や鉄鋼などの工業製品、砂糖など衣食住や交通など生活に密接にかかわる製品の高騰も鮮明となり、昨年の最安値に比べ70%以上も上昇した商品もある。国際市場では原油価格が上昇し、米価も高騰している。孫氏は、「コスト・プッシュ型インフレは、生産能力が過剰な状況の下でも起こり得る」とし、インフレへの警戒を示している。
■スタグフレーションへの懸念も
孫氏はさらに、デフレはインフレよりも恐ろしいが、最も恐ろしいのはスタグフレーションである点に言及している。スタグフレーションとは、簡単に言えばインフレ下での景気停滞のことで、すでにスタグフレーションの兆候は出始めているとみる。
そのうえで、供給サイドが過剰な状態の中国では、投資主導から消費主導の発展のシフトが必至であると主張。中でも国民の購買力引き上げは急務であると訴える。深刻なインフレが起これば、ただでさえ低迷している国民の購買力はさらに打撃を受け、景気が一段と悪化するという悪循環を招きかねないためだ。
孫氏の新たな理論の提出により、様々なインフレ・デフレ論が展開されている。例えば、「内部デフレ、外部インフレ」論。これは中国経済の内部はデフレだが、外部はインフレであるという主旨のもの。また、「貧困層インフレ、富裕層デフレ」論。これは、富の多寡によってインフレかデフレかの認識が異なるというもの。さらに、「短期デフレ、長期インフレ」論もあり、短期的にはデフレだが長期的にはインフレの傾向にあるという主張だ。
様々な見方が交錯し複雑な様相を呈する中国経済。より広範な視点でみる必要がある。