中国の自動車とスマホメーカーの異業種連携が相次いでいる。7月4日には吉利汽車が傘下企業によるスマホメーカー買収を正式に発表。同日、華為(ファーウェイ)は自動車製造の小康(セレス)との共同開発の電気自動車「問界M7」を公開した。自動車メーカーとスマホメーカーの連携が増える中、将来的に自動車は大きなスマート端末として新たなビジネスチャンスを生み出すとみられている。 ■吉利の創業者・李書福氏、車とスマホの融合に意欲 吉利の創業者である李書福氏が設立した星紀時代科技有限公司(以下、「星紀時代」)は7月4日、スマホメーカーの魅族科技有限公司(以下、「魅族科技」)と戦略投資の契約を締結。星紀時代が魅族科技の株式79.09%を取得し、魅族科技に対する単独支配権を持つと正式に発表した。両社はユーザーにマルチ端末から様々なシーンで活用できるコア製品に注力する。 星紀時代は2021年9月に設立。李書福氏が董事長を務め、事業範囲はインターネットゲームサービス、モバイル端末機器の製造、集積回路チップおよび製品の製造、ビッグデータサービスなど。吉利集団が筆頭株主となっている。李書福氏は、「携帯電話事業の買収を通じて、自動車と携帯端末の融合を実現したい」と意欲を示す。 魅族科技は、当初出稼ぎで深圳に来て電子業界に入った黄章氏が2003年に魅族ブランドを立ち上げ。2009年に「魅族M8」を発売した。国内初のスマートフォンとして、マイクロソフトのWindows CEシステムを搭載し、発売後2カ月で約10万台を販売した。2015年から2017年にかけて、魅族とその傘下の魅藍ブランドは計25機種の携帯電話を投入し、年平均出荷台数は約2,000万台だった。 両社の契約によると、星紀時代の戦略投資後も、魅族科技は独立ブランドとして運営を継続。両社はブランドの独立性を維持した上で、異なるコンシューマー・エレクトロニクス市場をカバーする。同時に、業界の垣根を越えてユーザーのエコシステムを構築し、シナジーを実現したい考え。黄章氏は魅族科技の製品戦略顧問として、引き続き魅族科技に貢献する予定で、魅族科技のマネジメントチームの安定は維持されるという。 吉利は魅族科技について、「20年近くコンシューマー・エレクトロニクス業界に携わり、中国のスマホ業界の先駆者」と指摘。スマホOS「Flyme」は1億人以上のユーザーを抱えており、双方の提携に向けたユーザー基盤が構築されている点に目を付けている。一方、魅族科技は吉利の産業チェーン、エコシステムのリソースを活用して「Flyme」のアップグレードを続け、進化するスマホを提供する計画。同時に、スマホと自動車のクロスプラットフォーム、クロス端末の融合を実現し、ユーザーに様々なモノをつなげるIoTの体験を提供したい考えだ。 ■ファーウェイ、「ハーモニーOS」のアプリすべて搭載した電気自動車発表 同じく7月4日、ファーウェイは新製品発表会を開催。その最大の主役は携帯電話などの電子製品ではなく、ファーウェイと小康が共同でつくったスマート新エネルギー車ブランド「AITO」シリーズ第2弾の「問界M7」だった。 「ファーウェイ独自のスマホOS鴻蒙(ハーモニー)のアプリをすべて搭載した世界で初めての自動車」。ファーウェイ常務取締役の余承東氏はこう強調した。ハーモニーOSのアプリをすべて搭載したことで車内の機能を拡充。新たにスーパーデスクトップ機能を追加し、「問界M7」からスマホアプリに直接接続でき、ユーザーは大画面でスマホアプリを操作できる。また、大画面を利用して微信(Wechat)の文書を編集したり、搭載されたカメラでVlogをとることができる。 システムの運用面では、車内はファーウェイ端末の利便性が発揮できるつくり。「問界M7」には複数のデバイスが相互に接続でき、その中のPetal Mapsナビゲーションは異なるデバイスでシームレスに同期できるなどの機能を有する。 新車発表会場に登場した小康の創業者である張興海氏は、「ファーウェイと小康は共同製造、共同販売を行い、ファーウェイのスマートテクノロジー、小康の自動車製造の技術を融合。AITO問界ブランドが示しているのは、業界を越えた自動車製造の力だ」と強調した。 張興海氏によると、ファーウェイのハーモニーOS搭載に伴うスマートコックピットの拡充により、2022年6月のAITO「問界M5」の販売台数は前月比40.2%増の7,021台に拡大したという。 ■自動車とスマホメーカーの連携、双方のユーザーがターゲットに 自動車とスマホメーカーの連携はこのところ注目を集めている。「未来の自動車は4輪を組み込んだスマートフォン」と主張する専門家もいるほどだ。テスラ創業者のイーロン・マスク氏も、テスラがスマートフォンをつくると明かしている。 李書福氏もコンシューマー・エレクトロニクス業界への参入について何年も考えてきた。7月4日の調印式では、「新たな科学技術、産業イノベーションは多くの新業態、新モデルを生み出してきた」と指摘。「コンシューマー・エレクトロニクス業界と自動車業界の技術革新とエコシステムの融合は必然的な流れ。携帯電話事業に参入することで、コンシューマー・エレクトロニクス産業と自動車産業が深く融合し、業界を超えたユーザーのエコスステムを構築し、シナジーを発揮できる」と意欲を示している。 魅族科技董事長の沈子瑜氏も、「携帯電話会社が自動車をつくり、自動車メーカーが携帯電話をつくるというのは大勢の流れ。将来的には自動車業界と携帯電話業界の競争は同じレール上で行われることはない」との見方を示している。 今後、自動車とスマホメーカーの連携が一段と進む可能性がある中、カギとなるのは自動車と携帯電話の双方のユーザーにどのようなサービス、体験を提供できるのかという点だ。そもそも、自動車と携帯電話のユーザー数は大きく異なる。中国の年間販売台数は、携帯電話が約3億3,000万台。これに対して、自動車は約2,000万台。消費者が1日に費やす時間は、携帯電話が約4、5時間、自動車が約1時間。「異なる端末からあらゆる場面に対応できるようにすることが重要課題だ」と沈子瑜氏は述べている。 自動車と携帯電話のスマートな融合でユーザーに一体化した体験を提供できるのか。大きなスマート端末としての自動車が生み出すビジネスチャンスが注目される。