華為鴻蒙、米国の独占打破なるか

華為(ファーウェイ)は2021年、鴻蒙(ハーモニー)モバイルオペレーティングシステム( OS)の最新バージョン「Harmony OS2」を正式に発表した。スマートフォン、自動車内ディスプレイ、ウェアラブルデバイス、テレビなど多様な端末に対応できるものであり、異なるデバイスのスマート化、相互接続、協同に向けて統一した言語を提供し、万物のインターネット(IoE)を実現することになる。Harmony OS は完全なオープンソースを提供することになるが、モバイル市場を独占する Android(アンドロイド)とアップルの iOS にどんな影響をもたらすのか。Harmony OS は果たして米国の市場独占を打破することができるだろうか。

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清華大学ジャーナリズムとコミュニケーション学部教授の瀋陽氏は中国新聞社の「東西問」の取材に応じ、次のように話した。中国はローエンド・ミドルレンジ製品の生産能力が世界一であるため、万物のインターネット(IoE) のオペレーティングシステム( OS)が加わり、人工知能(AI)、ビッグデータ、インターネットと従来の製造業の融合を実現することができれば、Harmony OS は必ず生き残り、スマホのオペレーティングシステム( OS)の革新、アップデートにつながるというナマズ効果が期待される。もっとも、中国とアメリカは平和的な競争が必要とされる。

インタビューの実録は下記の通りです。


中国新聞社記者 「今は万物のインターネット(IoE)時代に入っているが、だれひとり『孤島』状態の人間ではない。」と、ファーウェイ常務取締役 で、消費者向け端末事業部の最高経営責任者(CEO)の余承東氏が語りました。瀋先生はかつてコンピューター、情報管理という二つの学科の准教授、教授を担当され、ご専門は人工知能(AI)、ビッグデータ、ニューメディア、ネット世論ですね。Android と iOS に比べて、Harmony OS はどんな技術革新をもたらすのでしょうか。


瀋陽氏 モバイルのオペレーティングシステム( OS)の中で、Android とiOS に対して、Harmony OS は次世代のものになります。モノのインターネット(IoT)においては、初代となるので、Harmony OS は多種多様なメリットを持っています。

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まず、Harmony OS はフルシーンの分散型オペレーティングシステムであるため、多様な端末に対応できるものです。128KB のメモリデバイスから大容量メモリーへと大小さまざまなデバイスをサポートすることができます。これは Harmony OS の強みの一つです。


次に、Harmony OS は分散型ソフトウェアバスというコンセプトを有しているため、ソフトウェアにおいて異なるデバイスを統合して、仮想化した、モノのインターネット(IoT)の世界を構築することができます。極めて価値のあるものです。

第三は、iOS や Android と違って、Harmony OS は人工知能(AI)においてよりパワフルなパフォーマンスが期待されます。iOS や Android が出現した時、人工知能(AI)は今ほど発達していませんでした。近年、スマートホームなどのようなスマートデバイスが現れていますが、人工知能(AI)はHarmony OS が誕生した時点ですでに組み込まれ、万物と接続することができる中心的な装置になると予想されます。


四番目は、Harmony OS は intelligent interaction において、より良いパフォーマンスが期待されるということです。中国では、その需要の切迫性や中国人の勤労精神により、Harmony OS は iOS、Android 及び FuchsiaOS よりもっと速いペースで進化していくのでしょう。この中で、重要なのは、いかにして、人工知能(AI)技術とオペレーティングシステム( OS)の融合を深化させ、ユーザーにはより多くの実用性と新鮮感を提供するかということです。この数年間、華為スマホはソフトウェアとハードウェアにおいて速いペースで前進しています。よって、華為のオペレーティングシステム( OS)の開発においては人工知能(AI)技術が大いに活用されると確信できます。


アップルが取り組んでいるのはソフトウェアとハードウェアを一体化したシステムで、抽象的に言えば「我即ち宇宙」となるのに対し て、グーグルが目指しているのは汎用的でオープンなシステムで、いわゆる「宇宙即ち我」ということです。一方、華為は優れた生産能力を有しているため、この Harmony OS が「我と宇宙」という理念を持つことになります。


Harmony OS はアップルとグーグルとの中間状態に介在するものと言っていいでしょう。華為は力強いスマート製品出荷能力と統合力を保有しているため、自社という「小宇宙」のほかに、また、数多くのスマートファクトリーを持つ「大宇宙」が存在しています。華為は分業化をはっきりとさせ、他のメーカーとの協力提携を強化する方針を取るべきです。中間状態にあるとはいうものの、結局、華為は二者択一しなければなりません。「我即ち宇宙」にするか。それとも、「宇宙即ち我」を選ぶかであります。完全にオープンなシステムを作り上げることができればこそ、世界トップに登りつめることができるのです。


Harmony OS は世界モバイル OS の革新やアップデートを促進することができます。いわゆる「ナマズ効果」というものです。グーグルやアップルにとっては、決して悪いことではありません。競争相手がいればこそ、もっと大きな潜在力を引き出すことができ、斬新なテクノロジーやアイデアの投入・活用を加速させることができるのです。ユーザーが期待を寄せるのは、アップデートが速く、より多く、よりスムーズ、より安全で、プライバシー保護がより堅牢なオペレーティングシステム( OS)です。もちろん、競争は公正で平等なルールの下で行われるべきです。

ナマズ効果により、グーグルはグローバルなモノのインターネット(IoT) OS 連盟の構築を加速させるでしょう。中国もモノのインターネット(IoT) OS 連盟の構築を加速するべきです。殊に業界団体やアカデミック連盟が先頭に立って数多くのメーカーを育成支援し、より良い生態圏を築き、国内の結合力を形成することが求められます。

中国新聞社記者 モバイルに搭載される OS の世界市場シェアを見ると、Android は 68.63%、iOS は 30.99%を占めていますが、華為の Harmony OSは、この二大 OS の独占状態を打破できるのでしょうか。


瀋陽氏 Harmony OS は誕生したばかりなため、現段階においは、生き残るにはどうすればいいかを考えなければなりません。また、その「青春期」をうまく乗り切らなければなりません。


華為のスマホは、世界各国において一定の市場シェアを保有しており、また中国本土における市場占有率もトップとなっています。そのため、Harmony OS の搭載量に関しては、まず問題ないと思われますが、一方、中国国内の他機種のスマホ(GMS にかかわらない他機種に限る)の製造メーカーにも搭載を要請することも考えるべきです。さらに、HMS のようなネットサービスが向上すればするほど、Harmony OS は世界市場において、他のオペレーティングシステム( OS)に追い付き、追い越すことが可能となります。


ローエンド・ミドルレンジ製品の生産能力においては、中国は世界一位であり、また、万物のインターネット(IoE)のオペレーティングシステム( OS)も加わって、もし人工知能( AI)、ビッグデータ、インターネットと従来の製造業との融合を深化させることができれば、Harmony OS は必ず生き残るのであり、三者鼎立の勢いになるのは、もはや時間の問題です。


Harmony OS は、単なるオペレーティングシステム( OS)だけではないため、まず、一番最初に取り組むべき課題はその生態圏の構築です。中国本土では、巨大な市場があり、また業界の未来も明るいし、国内の各メーカーがすぐにでも Harmony OS に適合・互換できるようにするのであろうから、中国国内における生態圏の構築は心配無用です。

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Harmony OS は中国国内の市場にとどまるべきではなく、海外市場へも目を向けなければなりません。国外の生態圏を構築するには様々な制約が予想されます。したがって、まず、Harmony OS は生き残らなければなりません。次に、しかるべき市場シェアを獲得しなければなりません。そのうえ、持久戦で臨むべきです。


良いスタートを切りましたが、これからやるべきことは、長期間にわたり努力を続けることです。Harmony OS がスピーディーにアップデートしていけば、市場がますます明るくなるのです。5G(第 5 世代移動通信システム)においては、華為は欧米勢よりリードしているため、たいへん参考になると考えられます。


一方、オペレーティングシステム( OS) の中身を深く考えてみると、その地域の文化と密接な関係があるということが分かります。場合によっては、優れたソフトが必ずしも売れるとは限りません。例えば、断片化の問題を抱える Android は、プライバシー保護を強く求める欧米諸国のユーザーから、しばしば疑問視されています。個人情報の安全管理に関して、もしAndroid より優れた技術を開発することができれば、Harmony OS は世界市場で優位に立つようになります。

モノのインターネット(IoT)の通信技術に関して、アメリカは世界市場で優位を占めています。しかし、完全に市場を掌握できるか否かはテクノロジーのみによって決められているわけではありません。コストも重要な要素のひとつです。例えば、アメリカのボストン・ダイナミクス社が開発した犬型ロボットは一時期その小売価格が 53 万 RMB にも上ったことがありますが、中国の会社が開発したロボット犬は 1.6 万 RMB から売り出されているというのです。

中国新聞社記者 幾年も前に発表された iOS、Android に比べ、Harmony OS の生態圏は現段階の最大の弱みであると言えます。何かいいアドバイスがあればお願いします。


瀋陽氏 5 月 25 日、Harmony OS が発表される前に、グーグルは FuchsiaOS を発表しました。これにより、万物のインターネット(IoE)時代の発展の機先を制したい構えだと思われます。一方、アップルも万物のインターネット(IoE)を推奨しており、傘下企業の製品がいずれも同時発売・相互接続できるようになっています。


だが、グーグルにとって、FuchsiaOS は Android の代替にすぎないので、まさに自ら自社の命を革めたとも言えます。原動力がやや不足していて、慌てて対処したとも受け取れます。それに対して、華為はもともと汎用的なオペレーティングシステム( OS)を持っていないため、アメリカによる「首絞め」を受けて、自ら自社の命を助けたのです。


Harmony OS の誕生は、まさに「天の時、地の利、人の和」がそろったからこそ成し遂げられたのだと思います。まず、「天の時」から見れば、中国は今や世界第二位の経済大国になっており、自主的なオペレーティングシステム( OS)への需要がますます高まり、欠かせない必需品となりました。中国テクノロジー企業へのアメリカによる「首絞め」を受けて、我々中国人は独自のオペレーティングシステム( OS)を保有すべきだと認識するようになりました。


また、中国は、ローエンド・ミドルレンジ製品の生産能力において世界一位で、ミドルレンジ・ハイエンド製品の製造業も猛スピードで発展しています。世界インターネットサービス TOP10 社のうち、アメリカは 6 社、中国は 4 社を占めています。中国とアメリカを除く地域では、中国の家電製品、スマート製品、モバイルなどの売れ行きがとても好調で、需要も大きいものです。特に、GMS 組み込み不要のスマートデバイスには、Harmony OS を搭載することができます。まさに「地の利」と言えます。


最後に、中国では、国産品、国産ブランド、国産品のトレンド「国潮」への支持は一種の社会風潮となっています。「人の和」というものです。


グーグル、アップルと華為は、それぞれ異なる戦略を取っていると思われます。ストレージ変換が完了した後、華為はモバイル以外のスマート製造分野にも力を入れ、持久戦で臨むべきです。半導体チップの供給が不足してはいるものの、チップや GMS の精度がそれほど求められていない他のスマート設備について、中国は完全に 100%国産化できるのです。ハーモニーはこれから、大いにこれらの製造メーカーと事業提携し、独自の生態圏を構築しなければなりません。スマホメーカーの Harmony OS 適合問題について、ある程度の時間を要するのです。一定の時間が経てば、Android、iOS、Harmony OS それぞれの勢力圏が定まると考えられます。

中国新聞社記者 アメリカはテクノロジーの問題を政治問題化し、対中国抑止政策の切り札として使用しています。どんなダメージをもたらしているのでしょうか。万物のインターネット(IoE)の時代では、それぞれ異なる発想に基づくHarmony OS、Android と iOS は果たして共存し、融合し、「美美与共、天下大同」(素晴らしい理想が共有されれば、世の中は一つにな る)という世界を作り上げることができるのでしょうか。


瀋陽氏 産業界における中米両国の競争は、どちらが世界各国の知恵を総動員できるかにかかっています。この中で、中国はアメリカ人を含む世界各国の人々をひとつに結ぶようにすべきです。中国が世界規模の力を結集することができれば、中米両国間のゲームはわれわれにとって有利な方に向かわせていくことが可能となるのです。


共生共栄、コネクティビティを実現するには、発言権とルールを定義する権利が必要とされます。その前提として、充分な技術革新能力を保有しなければなりません。近代以降、西洋諸国は彼らが発明・発見した技術と理論を駆使してルールを定義してきたのです。

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徹底的に「首絞め」問題を解決するには、ソフト面とハード面の協力を必要とし、また、独立して生きていかなければなりません。そうしなければまた重大な挑戦に直面せざるを得ません。長い道のりを歩まなければなりません。


科学技術の発展は動態的なプロセスで、世界各国は追いつ追われつの展開を見せています。技術進歩の特徴は下記の通りです。初期はゆっくりした技術進歩ですが、いわゆる線形成長というものです。いったん新技術が生まれた途端、技術進歩は飛躍的に、指数関数的に伸びていきます。その過程において、数多くの変量があります。


欧米諸国とのゲームの中で、中国は果たして現在の革新状態を保ち続けることができるのでしょうか。甚だ難しい課題ですが、そのために多大な努力を払うべきです。


技術革新能力において、アメリカに比べ、中国はまだ大きな開きがあります。特に破壊的イノベーションは中国にとって極めて難しい課題です。「1点から100点へ」と成績を上げるために、努力すればできるものです。しかし、「0から1へ」と一気に得点を出すには、良好な革新環境を必要とするのです。


そういう局面を変えるには、中国は各方面において結合力を形成しなければなりません。最も重要なことは、社会の生態を改善し、革新思想を阻害する様々な束縛を打ち破り、オープンな社会環境を作り上げ、自主的な革新を促進することです。

若者が才能を余すところなく発揮できるよう激励しなければなりません。若者の研究開発を支援助成する政策にもっと力を入れるべきです。ゆったりとした研究環境、研究者を尊重する社会環境の造成を促進しなければなりません。科学研究システムの再構築を推進し、産・学・研が連携して、その質と効果を高めていくべきです。成功すれば激励し、ミスを犯したり失敗したりしても寛容な態度で見守る環境を作り上げなければなりません。

中国新聞社記者 近年、アメリカが「華為技術が国家の安全を脅かす」というデマを流しているため、少なからぬ国が一方的に契約を破棄し、5G 通信網への華為の参入を拒否しました。二年前、アメリカ商務省は華為を「エンティティー・リスト」に入れ、米企業との情報通信技術・サービスの取引を禁止しました。アメリカの「技術封鎖」に対し、中国のテクノロジー企業はいかにして自力成長していけばよいでしょうか。


瀋陽氏 「首絞め」問題を解決するには、近道はないため、一番基本的なことから始めなければなりません。社会全体の協調力を生かして、人材、資本及び政策をその分野へ導入していくべきです。一日も早く、内外双循 環、相互促進という新発展モデルの構築を急がなければなりません。イノベーションを起こすためには、「外部から人材を招聘し、自ら外部へ進出する」という政策を実施し、外部から優秀な人材を招集しなければなりません。


テクノロジー企業は現状に甘んじてはなりません。常に開放的な環境の中でイノベーションを推し進め、より多くの、産業界のパイオニアとなる技術者を育成しなければなりません。緊迫した状況の中で、その開放性がより一層求められるのです。開放性はこのゲームの中で中国が対戦相手と戦うために使用できる根本的な「武器」です。固定観念にとらわれては、行き先の道がますます狭まっていくのです。

現在、数多くの企業が巨大化を目指す風潮があります。だが、実力のある企業は必ずしも大きいとは限りません。あるテクノロジーが世界産業チェーンにおいて欠かせないものになれば、その企業はそれなりの発言権を持つことになります。

テクノロジーに含まれる文化的要素も知名度も高めなければなりません。中国の伝統文化、現代的精神と新技術が融合すればこそ、ユニークな、唯一無二の、国産品、国産ブランド、国産品のトレンド「国潮」を創り出すことができるのです。

中米両国に競合ゲームがあるのは決して悪いことではありません。両国の良好な発展を促進できるのです。過去 40 年間、中国は急速に発展してきましたが、これからも改革と進取の精神を貫いて行かなければなりません。もちろん、世界共同利益の下で、中米両国は平和的な競合を目指すべきです。
(訳者 黄慶法 華僑大学准教授)

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