「中国天眼」はなぜ世界の注目を集めることができるのか?
「天何所沓?十二焉分?日月安属?列星安陈?(天はどこで地と交わるのか?黄道はどのように十二等分するのか?日月天体はどのように繋がれているのか?星は天でどのように陳列しているのか?――訳者注)」中国戦国時代の詩人屈原は、彼の長い詩『天問』の中にて、宇宙の星空に対し、仰天の声をあげた。未知なる宇宙の星空を前に、古今東西の科学者たちは精巧で壮大かつ上品な天文機器を次々と作り出している。中国漢代の落下閎による「渾儀」や、1608 年にオランダ人のハンスが水晶で作った最初の望遠鏡、アレシボ電波望遠鏡、「中国天眼」など、人類と星空の距離を縮めてきた。
貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県大窝凼にある 500 メートル球面電波望遠鏡(略称 FAST)は、「中国天眼」の美名を持つ。世界最大かつ最も感度の高い単口径電波望遠鏡である「中国天眼」はなぜ世界の注目を集めることができるのか?中国科学院国家天文台研究員、「中国天眼」チーフエンジニアの姜鵬氏は、このほど 中国新聞社の「東西問」独占インタビューを受け、上述した問題に ついて回答を行った。
以下にインタビューの実録を要約する:
中国新聞社記者:「中国天眼」建設の初志は何でしょうか?
姜鵬氏:FAST は当初に、国際天文連合が使用をやめた後、中国は独立・自主開発の道を歩み始めました。南仁東氏を代表とする中国人科学者は FAST の建設模索を開始し、「不可能を可能にする」という征途に就きました。最初は「第11次五ヵ年計画」大科学装置の発展・推進からプロジェクトを立ち上げ、現在では世界最大かつ最も感度の高い単口径電波望遠鏡にまでなりました。
FAST 建設の当初の目的は、地球の電磁波環境で天文観測がまだ可能なうちに天文研究を行うことでした。FAST は国際共同プロジェクトから始まりました。1993 年に京都で開催された国際無線科学連合において、中国を含む多くの国が、地球の電磁波環境が破壊される前に、次世代大電波望遠鏡を建設したいと提唱しており、FAST はそのプランの一つでした。
当時は主に 2 つの論点がありました。1 つは口径 10 メートル、20 メートルの小さいものを多く建てること、もう一つは FAST のような大型望遠鏡の建設でした。国際的には単口径の大電波望遠鏡はリスクが大きく、エリア制限があるなどとされており、FAST は「LT」(大口径電波望遠鏡)実施プランに選ばれませんでした。その後、「SKA」スクエア・キロメートル・アレイのような、小さな望遠鏡を多く建設することが国際的な主流となりました。
中国新聞社記者:海外の異なるタイプの天体望遠鏡と比べ、「中国天眼」の特色と優位性はどこにあるのでしょうか?
姜鵬氏:FAST は今日の電波天文学の「重器」です。その基本原理とは何でしょうか?平行電磁波が放物面反射に遭遇すると焦点の位置に集まることはよく知られています。電波望遠鏡の場合、反射面を放物面の形にしてから、焦点位置に受信機を置くことで、天体からの電磁波信号を収集し、天体観測を行うことができます。放物面の面積が大きくなればなるほど、集約される信号が多くなり、より暗弱、より遠い天体を検出できるようになります。
FAST は全く新しい望遠鏡の概念で、その設計案はこれまでなかったものであり、従来の望遠鏡の口径 100 メートルプロジェクトの限界を突破できる前提となっています。望遠鏡にとって、感度は最も重要な指標の一つです。FAST の巨大口径は高感度をもたらし、暗弱放射源を探査する能力がより高まり、測定可能なサンプル数を大幅に拡大できると同時に、より遠くの天文学現象を見ることができます。
FAST の設計は世界にすでにある単口径電波望遠鏡と異なり、主に反射面とフィードキャビンシステムに体現されています。世界初となる FAST は主動反射面で、球面になったり放物面になったりと形状を変えることができます。6670 本のワイヤーケーブルで編まれたケーブル網は、50 本の巨大な鉄骨柱に支えられた直径 500 メートルの輪梁にぶら下がっています。ケーブル網には 4450 枚、380 種類以上の反射面ユニットが敷かれています。ケーブル網の下には2225 本のプルダウンケーブルがあり、それぞれが地上のアクチュエータに固定されており、アクチュエータを操作することで、プルダウンケーブルを引っ張り、ケーブル網の形状を変化させ、天文信号の収集・観測を行います。
フィードキャビンも大胆で画期的なデザインです。FAST は新たな軽量ケーブル駆動制御システムを採用しており、角度と位置を自在に変え、より豊富な宇宙電磁波をより効果的に収集・追跡・モニタリングすることができます。フィードキャビンの重さは約 30 トン。小型化は光路の遮蔽を効果的に減らし、干渉信号を減らすなど多方面のメリットをもたらし、天文観測により有利にします。
FAST は現在、追跡、ドリフト、運動スキャン、編込スキャンなどを実現しており、機能的な調整を事前に完了しています。性能調整の面では、FAST の直径は 500 メートルでありながら、ミリメートル級の精度を実現するのは、かなり難易度が高いです。測定基準網の精度は 1 ミリ以内に向上しており、うち、感度水準は世界第 2 位の望遠鏡(アレシボ、すでに 2020 年 12 月に倒壊)の 2.5 倍以上であり、これは中国が建造した電波望遠鏡が初めて感度で頂点を占めました。また、19 ビームの設置が完了しており、その意義も非常に大きいです。望遠鏡の視野を 19 倍に拡大し、望遠鏡のスカイサーベイ効率を大幅に高めることができます。
中国新聞社記者:国内外の科学者は「中国天眼」の落成・起用に大きな期待を寄せていますが、その成果は科学の最先端が重大なオリジナル突破を実現し、革新駆動型発展を加速する上でどのような意義があるのでしょうか?
姜鵬氏:FAST の落成・起用は国内外の科学者にチャンスを提供し、FAST は他人が見えない空間エリアを見る能力を持っています。例えば、現在 FAST が発見しているパルサーの数は 500 個を超えており、同時期に世界各国の他のすべての望遠鏡が発見した数の合計 の 4 倍以上となっています。パルサーは急速に回転している中性子星で、密度が非常に高く、1 立方センチメートル当たりの重さは1 億トンに達します。自転速度が速く、自転周期が正確で、宇宙で最 も正確な時計と言えます。そのためパルサー時間測定の研究に基づ き、人類が将来的に星間旅行の夢を実現するのに役立つ「宇宙航法 システム」を構築する可能性があるだけでなく、低周波重力波を発 見する可能性もあり、天文学観測の新たな窓が開くことになります。
現在、FAST に基づく高水準の研究成果は 100 編を超えており、4 編の研究成果はすでにネイチャー(Nature)で発表または受け入れられています。現在、影響力のある成果は高速電波バーストについてであり、これは高速電波バースト現象において磁気層が主導的な役割を果たしていることを示唆しています。また、発見された 500 個以上のパルサーは、巨大な宝でもあり、今後はそれらの後追い観測を続け、より深い秘密を明らかにしていきたいと考えています。
しかし、より重要な科学的発見も運の支えがなければならないことを理解しなければなりません。我々は観測可能なサンプルの数を増やしました。しかしそこにはパルサーブラックホール連星系やサブミリ秒パルサーなど、私たちが見つけたい特異な天体があるのではないか、さらには近隣の銀河M31 の観測を含め、本当に低周波の重力波を検出できるのか、最終的にダークマターの性質を理解する助けになるのか、最初の銀河系外電波パルサーを見つけることができるのか?これらは事実に基づいて検証される必要があります。
FAST については、新しい測定技術の発展、周波数の向上、新しい受信機技術の発展など、従来の基礎の上でさらに性能を向上させる技術面の研究を行っており、いくつかの難題を解決しています。測定技術の面でも、光測定システムの代わりにマイクロ波測距技術を採用し、全天候・高精度の測定・制御を可能にすることで、FAST の安定的な運行を確保するなど、いくつかの考慮がなされています。
中国新聞社記者:「中国天眼」はすでに世界の科学者に開放されていますが、現在の申請観測状況はどうなっていますか?今後、国内外の開放・共有の強化などについてどのような構想を持っていますか?
姜鵬氏:FAST の世界への全面的な開放は、中国と国際科学界が十分に協力するという理念を示しました。開放と協力の中で、中国の科学重器はより効果を発揮し、重大な成果の産出を促進し、全人類の宇宙探査と認識に貢献します。
現在までに、海外の科学者は 30 件余り、約 800 時間の機械時間を申請しており、すでに申請の半分ほどが支持されています。海外からの観測申請は主にパルサーの探査などで、基本的に国内で注目されている方向と一致しており、いずれも FAST の基本的な機能に基づくもので、研究方向から言えば海外での観測申請の分布は比較 的正常であり、具体的には観測の細部で中国内外の違いはあります。
国内外の科学者の FAST 使用及び観測における科学研究は相互学習の過程です。FAST の調整段階時点で、中国の科学研究チームはすでに海外の科学者と多くの接触を持っており、一部の著名な研究員も海外からの技術交流と協力を進めています。FAST の国際交流と協力は現在、比較的正常で理想的な状態にあると言えます。
国の指導の下、FAST は国際的に開放されたいくつかの任務を進めています。時間の経過に伴い、FAST の開放度はますます高まる可能性があり、科学者の FAST 性能への理解に伴い、今後海外出願の競争もさらに激しくなると信じています。
天文学は元々比較的に開放的な学科であり、それは人類の好奇心を満たす学科であるため、人類の現在の生存条件あるいは切実な利益と関連性があまりありません。FAST の国際協力は以前から行われており、現在の一部のプロジェクト研究も含め、海外のチームが支えている部分もあります。FAST のデータが協力・開放されれば、海外の科学者も同等の権利でデータの分析を行うことができます。
FAST の所期目標は、先端方向の模索を拡大し、国内外の開放と共有を強化し、重大な成果の産出を推進し、世界の科学技術のピークに勇躍することです。我々は「天眼」を「うまく使いこなし」、より多くの科学研究成果を生み出し、人類の宇宙に対する探索と認知を推進するよう努力してまいります。
(訳者 胡 連成 華僑大学准教授)