新型コロナのパンデミックの中、アジア系に対するヘイトクライムがなぜアメリカで蔓延しているのか
アメリカNBCニュースによると、今年2月、ニューヨークの白人男性がけんかを売られたわけでもないのに、19歳から57歳のアジア系女性7人を、2時間以内に次々と襲った。中国国務院新聞弁公室が発表した『米国人権侵害報告書2021』によると、アメリカではエスニック・マイノリティ、特にアジア系を狙った人種差別的攻撃が激しさを増しており、ニューヨーク市だけでもアジア系を標的とする暴力犯罪事件が2020年と比べて361%急増している。
『The Making of Asian America: A History』の翻訳者である東北師範大学アメリカ研究所に所属する伍斌准教授は中国メディアの取材に応じ、「中国人排斥法」が実施されていた頃からすでに150年以上経過しても、人種差別主義と外国人嫌悪の偏見は依然としてアメリカで頻繁に見られており、アメリカの「白人至上主義」の根深さを反映していると指摘した。パンデミックの中、アジア系への暴力は、アメリカの人種差別主義と不当な扱いの新たな現出であり、外国人憎悪感情の現れでもあり、アジア系アメリカ人の悲惨な歴史的記憶を呼び起こした。
ここで、インタビューの内容を以下のように要約する。
記者:今アメリカでは起こっているアジア系などへのヘイトクライムの共通した特徴は何だと思いますか。
伍斌:新型コロナウイルス感染症が大規模に発生して以来、アジア系アメリカ人も新型コロナウイルスの感染拡大によって「人種差別主義」と「アジア系ヘイト」という二次的な脅威に直面し、保守的なアジア系嫌悪の人たちが嫌がらせや攻撃を続ける標的になっています。反アジア系的言動が飛び交い、激しさを増しています。
一つ目は、弱い立場の人たちが攻撃されやすいことです。ヘイトクライムと見られる人種差別的攻撃事件では、ほとんどアジア系の高齢者や女性を標的にしています。アメリカの公民権団体「Stop AAPI Hate」が発表したデータによると、2020年3月19日から2021年3月31日までに記録されたアジア系を狙った差別的攻撃事件6603件のうち、64.8%が女性からの報告でした。二つ目は、アジア系に対するヘイトクライムのうち、言葉による侮辱が中心で、突き飛ばしたり攻撃を加えたりすることを含めた身体的接触のある暴力の割合が低いことです。三つ目は、いわれのないアジア系攻撃事件の多くが公共の場で発生していることです。アジア系住民を狙った暴力事件のほとんどは、アジア系住民が挑発していない状況で発生しています。四つ目は、アジア系住民が集まる地域では、反アジア系暴力がより頻発していることです。報道されたアジア系へのヘイトクライムのうち、カリフォルニア州での事件が44%近くでした。そして、主に中国人が標的にされました。
記者:アジア系を狙った人種差別的攻撃事件はどのような問題を引き起こしましたか。アメリカ社会にどのような影響を与えていますか。
伍斌:アメリカ社会のアジア系住民に対する暴力は、アメリカのアジア系のパニックと精神的なトラウマを引き起こしました。アジア系が再び「外国人」(aliens)となり、アメリカへの帰属意識が再び打撃を受けました。一方で、このパニックはアジア系の日常生活を狂わせています。アメリカにおける反アジア感情は、アジア系アメリカ人が日増しに深刻化する敵意にさらされているとの懸念を引き起こし、アメリカ社会におけるアジア系の立場の脆弱性も示しています。
また、アジア系へのヘイトクライムはアメリカ社会が引き裂かれていることを示すものでもあります。あからさまな人種差別主義を帯びたアジア系ヘイトは、アメリカ社会の正常な秩序をひどく乱しただけでなく、アメリカの国際的イメージとソフトパワーにも大きな損失を被りました。
アメリカの根深いレイシズムは歴史的伝統の継承であると同時に、国際的な重荷でもあります。アメリカが国外で唱えている「崇高な理想」と「人権」は、国内の情勢と強烈なコントラストをなしています。アメリカが外交の重心をアジア太平洋に移す中、反アジア感情がアメリカの外交目標の達成を阻むことは間違いないです。アジア系への暴力事件の急増は、アジア系移民の母国からの同情を呼び起こし、他国からの施策要請や、あるいは激しい外交的非難が巻き起こっています。
実際、アメリカが公言した「人権」の理想は完全に実現されたことはなく、一部の政治家がこの理想と現実の間の溝をさらに著しく引き裂いただけです。そして、このような引き裂きがアメリカの信用やイメージに与えた悪影響も短期間では回復できません。
記者:アメリカのアジア系ヘイトの歴史文化の根本及び今のアメリカ社会の一部の人の反アジア感情の原因は何だと思いますか。
伍斌:現在のアメリカの反アジア感情は偶然のように見えますが、実際には多くの要素から生まれたものです。第一に、アメリカの歴史上に蔓延するアジア系ヘイトと「白人至上主義」(white supremacy)によるものです。アジア系ヘイトは目新しいものではなく、アメリカのシステミックな人種差別主義の一部です。19世紀半ば以降、この人種差別主義は「アメリカ例外」の人種や文化を「神聖化」し、その「純潔性」を守る外国嫌悪のナショナリズムに発展しました。ここ2世紀以来の反アジア系人種差別主義とナショナリズムは、現在のアメリカのアジア嫌悪感情の根源となっています。アジア系へのヘイトクライムは「白人至上主義」の現れです。
第二に、今のアメリカ社会の反アジア系的言動は、アジア系が新型コロナウイルスによる肺炎感染爆発の「スケープゴート」とみなされていることと直接関係があります。アメリカの人種差別主義者の潜在意識では彼らを病気の運び屋だと考えています。これはアメリカの歴史上にもしばしば起こっていることです。中国人移民は、天然痘、梅毒、ハンセン病、ペストなどの感染症の爆発的な発生に対する責任を問われることが多いほか、チャイナタウンはこれらの病気がはびこる「温床」とされるまでです。
第三に、アメリカ政府関係者や一部メディアの誤解を招く言動が、アメリカ社会の反アジア感情を助長し、アジア系を狙った攻撃事件を激化させています。「Stop AAPI Hate」の共同発起人の一人であるサンフランシスコ州立大学の張華耀教授は、「政治家の外国人嫌悪発言」がアジア系アメリカ人に対する人種差別主義的暴力をより多く煽動していることを調査によって立証しました。
第四に、アジア系へのヘイトクライムは、アメリカの国内問題のように見えますが、国際情勢と深くかかわっています。アメリカ社会の特定の民族集団に対する敵意は、国際情勢の変化とともに激増することが多いのです。アメリカにいるアジア系の状況はアメリカのアジア諸国との関係によって影響されています。トランプ政権下での米中関係の急激な悪化はアメリカの華人、さらにアジア系にも影響を及ぼしました。バイデン政権はトランプ氏の中国「切り離し」と対抗の戦略を受け継いでいます。中国の総合国力は大幅に上昇しているにもかかわらず、キッシンジャー氏が述べたように、価値観の違いが大きいことにより、中米間には「共通の国際秩序観が形成されていない」と言います。
第五に、アジア系は異なる人種や民族からなっており、さらに結束力を高める必要があります。今アメリカにいるアジア系はほぼアジアのすべての国や地域の30以上の民族から来ており、人口が2000万人超えています。同じ民族内でも、地域の方言、宗教、階級背景、教育程度、政治的観点だけでなく、世代、性別、生活様式などの面において際立った違いがあります。全体的に見ると、アメリカのアジア系内部の貧富の差異がアメリカの人種民族の中で最も大きいです。集団内部には鋭い対立と衝突さえ存在しているため、アジア系の異なる集団間の利害関係を一致させることが難しく、利益と権利を獲得するのに必要な影響力をもつパワーが形成されにくいです。
第六に、アメリカの法執行機関やメディアは、アジア系に対する従来の人種差別的犯罪や暴力などほとんど取り上げずに見過ごすことにしています。これはアジア系アメリカ人にとって目に見えない損害であり、アジア系へのヘイトクライムを助長することになります。
また、アメリカにおける「アイデンティティ政治」の台頭、保守主義の再興、経済の相対的衰退に起因する一連の社会問題、「白人至上主義」の進行、「ポリティカル・コレクトネス」に起因するアイデンティティのストレスなども、現在のアメリカに激増している反アジア系暴力を生み出す要因として無視できないものとなっています。
記者:現在のアジア系、及びアメリカ社会のアジア系に対するヘイトクライムの対応策及びその効果についてどう思いますか。
伍斌:アジア系を標的とする差別的攻撃事件はアメリカでは珍しいことではありませんが、現在アメリカ社会でますます激しくなっているアジア系ヘイトは、アジア系アメリカ人の未来を决定する「重要な岐路」となっています。アジア系を狙った人種差別的暴力事件はアメリカ社会の構造的な桎梏であり、短期的に解決することが困難でしょう。これはアメリカ社会を長期にわたって苦しめるに違いありません。
アジア系は全体的に見れば、すでに目覚めており、彼ら自身の経済、政治、文化、教育といった面の資源を利用して、積極的にアメリカの反アジア系暴力に対応しています。集会やデモ、女性や高齢者など弱者に対する保護の重視、護身用武器の購入、アジア系の活動と声の強化など、アジア系の権利を守り、正義を促進するように多くの組織を設立しています。アメリカの連邦政府、州政府、地方政府に圧力をかけるように、ソーシャルメディアを通じて積極的に参加し、ビジネス業界や公民権組織の活動にも取り計らって、アジア系は様々対応策を取っています。
反アジア系感情もアメリカ社会の多くの関心を引き起こしています。アメリカの連邦政府、州政府及び地方政府は反アジア系的言動を非難するとともに、アジア系の正当な権益と生活秩序を守るための政策や法律を打ち出しています。連邦政府では、バイデン氏は大統領就任後最初の週にアジア系へのヘイトクライム撲滅を約束する行政命令に署名しました。これは人種間の平等を中心とした一連の行政的イニシアチブの一環と思われます。
米議会では30年以上ぶりにアジア系へのヘイトクライムに関する公聴会が開かれ、激増しているアジア系ヘイトについて議論し、緩和策を模索しています。州政府も反アジア系暴力の激化に対応する政策を取っています。地元当局者や市民からは、警察力の強化やボランティアによるパトロール、専用回線の設置などの措置も提案されています。アジア系のヘイトクライム撲滅と自身の権利擁護の活動はほかの民族や組織からもエールを受けています。(終)
(翻訳:華僑大学外国語学院)