縦に見た世界と、横に見た世界と、如何なる大きな相違があろうか

――縦版世界地図作成者の郝暁光氏に独占インタビューする

今から約 400 年余り前、イタリア人の宣教師マテオ・リッチ(利馬竇)が中国を中心 とした『坤輿萬國全圖』を作成した。それ以来、伝統的な横版世界地図が 400 年以上に渡り、歴史を「横行」し、世界地理に対する大衆の認識は烙印を押され、固定化された。


20 年前から、中国の学者郝暁光氏は縦版世界地図の作成に工夫を凝らし、従来の東西半球を浮き彫りにした横版世界地図に基づき、より明晰に南北半球と世界地理との関係を究明することを目指してきた。今迄 10 年以上の努力を積み重ねてきた結果、郝暁光氏により、新しく作成された縦版世界地図が 2013 年を以て、ようやく世に問うようになった。

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縦に見た世界と、横に見た世界と、如何なる大きな相違があるのであろうか。この話題をめぐり、このたび中国科学院精密測量科学及び技術革新研究院の郝暁光研究員が中 国新聞社記者の独占インタビューを受け、自分の縦版世界地図との筆舌に尽くしがたいご縁を詳しく述べた。


縦版の世界地図を作成する理由とは?

郝暁光氏は今人々が見慣れている伝統的な横版世界地図は最初のモデルが 1584 年イタリア人のキリスト教宣教師マテオ・リッチの作成したものであると紹介した。「このバー ジョンの地図は東西半球の地理関係を表現するのには適しているものの、南北半球が大 いに変形し、周縁地域との相互関係がそれほど明確ではないという欠点がある」と郝氏は指摘した。


例えば、横版地図では、南極大陸の延べ面積がオーストラリアの 3.8 倍にもなってい るし,かつまた、南極大陸は南アメリカ、アフリカ、オーストラリアと、この 3 つの大 陸と平行関係にあるようにみえる。 一方、縦版地図から見ると、南極大陸の面積はわず かオーストラリアの 1.8 倍に過ぎず、しかも、この 3 つの大陸に取り囲まれているように見える。

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このように、視覚による誤差が普通の人々に認知の食い違いをもたらすばかりでな く、一部の専門分野にまで影響を及ぼしかねないと言えよう。


郝暁光氏によると、世界地図は東西半球のバージョンがあれば、南北半球のバージョ ンも必要となり、そうでなければ、地球の全貌を完全に表示できない恐れがあるとのこ とである。本人が今まで縦版世界地図の作成に性根を据えて取り組んできたのは、伝統 的な世界地図に覆われたその実の有り様を顕わにし、各角度から多元的に中国と世界と の地理関係をより一層明確にする初心にあるものだという。


従来の地球儀だけでも十分にはっきり識別できるのではないのか。地球儀さえあれ ば、そんなに精根を傾けて平面の世界地図を作成する必要がないのではないだろうか。 これらは郝暁光氏が最もよく直面し、対応しなければならない質問である。これに対し て、彼は「確かに地球儀を通して、正確に世界を把握できる。しかし、その全貌を一覧するのは無理なのだ。なぜなら、地球儀のどちらの角度から見ても、地球の半分しか見られないからである」と答えた。


伝統的な横版世界地図は太平洋を中心とする APAC(アジア太平洋の略称)版にしても、大西洋を中心とする欧米版にしても、いずれも「経線世界地図」であり、東半球と西半球 の地理関係を表すのに適している。


郝暁光氏は、「経線分割投影法というのは、あたかも一つのリンゴを垂直方向に切って 平らにするようなものである。それがゆえに、南北両極地方の図面を変形させるのも必 然であろうし、その周縁地域との相互関係をぼんやりさせる恐れもある」と指摘した。 したがって、正確かつ明晰に南北半球の地理関係を表すことのできる縦版の地図を作成 することによって、南北両極の図面変形の問題も解決でき、大多数の国や民衆にとって も納得できるため、どうしても必要であろう。

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いかに縦版世界地図を作成するのか


ここ十何年間にわたる探索及び研究をもとに、郝暁光氏は、「双経(線)双緯(線)」 で『世界地図のシリーズ』を作成する設計案を提出した。1 セットは四版からなっている。その中、伝統的な横版の東半球版(APAC 版)と西半球版(欧米版)がいわゆる
「経線世界地図」であり、郝氏が革新的に作成した縦版の北半球版及び南半球版が、い わゆる「緯線世界地図」である。


「これはまるで服装の組み合わせのように、バランスやコーディネートに心を遣ってはじめて、オシャレな着こなしだと言えるようなものだ。地球を描く場合も同じく、東 西南北四枚の地図を合わせてはじめて、真と美のスタンダードにかなった調和だと言えよう」と郝暁光氏は話した。


郝暁光氏の目には、横版と縦版合わせてのこの四枚の地図は地球の「家族団らん写真」 みたいな存在であり、東西南北の各半球の国と国の間の関係ばかりでなく、海洋と陸地と の地理関係をも、太平洋、大西洋、インド洋、北極海を中心とした海洋中心のイデオロギ ーをも反映している。

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経線を「切る」横版に対し、縦版の南北半球地図は緯線を「切る」ことによるものであ る。地球を「切る」方法として、理論的には数え切れないほどある。それで、世界地図も 無数に描くことができる。とはいえ、世界各地に広く引き受けられる「完璧な切断線」を 探り出すのは決して容易なことではない。郝暁光氏は、一般的に広く受け入れられる世界 地図を作成するには、なるべく如何なる大陸や国をも切断しないようにと気配りが必要なうえに、タイムゾーンの完全性を保つべきであると強調して言った。


持続的な研究及び試行錯誤を重ねた結果、郝暁光氏はついに念願の「完璧な切断線」 を見出すのにたどり着いた。――北半球版では、南緯 60 度に沿って地球を「切り割り」 する。一方、南半球版では、北緯 15 度に沿い、切断する。すると、できたこの二枚の縦 版世界地図は大陸を切断することなしで済む。とりわけ、この北緯 15 度に沿った切断線 が、ほぼ南アメリカと北アメリカに挟まれた最も狭い所を貫通し、完璧に南北アメリカ 大陸の全貌を保つことができる。


新規の縦版北半球地図では、もともと世界地図の端側に位置していた北極海は、今は カナダ、アメリカ、ロシア、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、 アイスランドなどの国々に取り囲まれ、いかにも大型の「地中海」のようで、極めて重 要な地理的な位置になった。


郝暁光氏は、「横版と縦版合わせてのこの四枚の地図を通して、世界中の大陸、洲、す べての国々は大きさを問わず、いずれも完全に顕わになった。これはあたかも人間が初 めて地球表面の陸上メンバー全員に一枚のノーマルな「家族団らん写真」を撮ったよう な感じである」という。

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縦版世界地図のメリットとは?

郝暁光氏の目から見ると、縦版世界地図の最大のメリットは、従来の横版における南北半球の地理関係がうまく表れていないというデメリットを克服したことにある。具体 的に言うと、世界の 2/3 の陸地及び 4/5 の国が北半球に位置しているので、縦版世界地 図を通して、南北半球の地理関係がより明確に示されている。おかげで、人々の陸地や 国に対する理解もより一層深まり、国と国との往来や交流はなおさら順調に進むことが 望まれる。

通常の航空路は陸地から陸地へと、または国から国へとのルートなので、世界中の 2/3 の陸地並びに 4/5 の国をも占める北半球では、縦版の地図の取り柄が更にはっきり と見えてくる。郝暁光氏は、中国の北京からアメリカのニューヨークまでのフライトル ートを例に取ってみた。新規の縦版地図に示してある北極海の航路がただの 1.1 万kmに 対し、従来の横版地図の太平洋航路が約 1.9 万kmもあり、両者は 8000 kmの差も出たわけ である。その結果として、元来の片道のフライトタイムが大幅に短縮された。要するに、縦版の北半球地図において、北極海がアジア、ヨーロッパ、北アメリカなどの三つ の大陸を結ぶ最も短い経路となっている。

そればかりか、縦版の北半球地図では、北極海が北アメリカ大陸とユーラシア大陸に上 下に取り囲まれた中心地となっている。無論のこと、これによって、「氷上シルクロード」 の成り立ちや成り行きをより直観的に表すこともできるし、北極海沿岸の国々の「氷上シ ルクロード」をめぐる開発や協力をより有効に推し進めたり、奉仕したりすることもできる。


「縦版世界地図が中米間の距離を縮めたように見える」と言う説をめぐり、郝暁光氏は、 縦版世界地図が人々の慣れ親しんでいた横版地図による思惟パターンを一転して、目新しい視点で世界地理の真のあり様を見せており、北極海を南北にかけて横断するルートが中 米間の事実上の近道であり、従来の太平洋を東西にかけて横断するルートより遥かに近い と言い張った。


なお、郝暁光氏は数年前に行われた二代目の北斗衛星測位システムの設計フォーラム のことを振り返ってみた。その時、彼は「アメリカは中国の北側に位置する」と主張 し、従来の横版世界地図による設計案を是正し、北極海方面を建設する意向を主催側に勧めた。中国の関係部門も直ちに郝氏の提案を取り入れ、二代目の北斗衛星測位システ ムの設計案を再検討した。


その後、縦版世界地図の際立った優位性がゆえに、郝暁光氏の新しく作成した『世界地図のシリーズ』が国の許可を得る前に、早くも航空宇宙、科学考察などの専門分野におい て、内部で応用され、広く好評を得ていたことが分かった。


こうした中で、北斗衛星測位システムは縦版世界地図に基づき、北斗衛星のカバー地域 を調整し、中国極地研究センターは縦版南半球の世界地図をもとに、2004 年に第 21 回目 の南極地域観測遠洋航行を行った。

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横版と縦版の世界地図はいかにお互いの優位性を補い合うのか?


縦版世界地図は優位性が際立っている以上は、従来の横版世界地図を完全に切り替える ことができるのか?


「これはとんでもない話だ。縦版世界地図ができたからと言って、従来の横版がダメ になったり、その地位が脅かされたりしたというわけではない。むしろ、縦版と横版は お互いに補い合ったり、採長補短したりする存在であるべきだ」と郝暁光氏が強調して 答えた。既に 400 年以上の歴史を有する横版世界地図が東西半球の地理関係を程よく表 しているものの、南北半球の地理関係を表示するには、わりと大きな欠陥がある。一 方、縦版地図は南北半球の地理関係をうまく表しているのに、東西半球の地理関係を表 すには、今一不十分である。


転じて横版と縦版世界地図の応用分野を比較してみれば、縦版の方は陸地や航空ルー トなどの面において、優れているのに対し、横版の方は、海洋や海上航行方面におい て、優位に立っている。これこそ両者の優位な態勢が相互に補い合っていることを証明 していると郝暁光氏はこのような見方を示した。


かつて人々は従来の横版の東西半球世界地図から影響を受け、主として環太平洋及び環 大西洋地域への認識が深まり、環北極海や環インド洋に対する認識が物足りなかった。そ の後、新規の縦版の南北半球世界地図で、陸地がはっきり表れているのみならず、環北極 海や環インド洋などの地域も一段と強調され、従来の世界地図の不足を補い埋めたと郝氏 は説明を付け加えた。


「縦版の北半球世界地図から見れば、2/3 の陸地並びに 4/5 の国々が北極海を囲んでおり、中米両国間ばかりでなく、中国と他の国々との地理関係も大きな変化が起こり、 いわゆる「人類運命共同体」の理念もより一層伝わっている」と郝暁光氏は述べた。今 まで注目を集めてきた中米両国は北極海を横断し、地理的にはますます近づいてきたの で、両国は、この横版と縦版の世界地図のように、相互に長所を取り入れ、短所を補い、お互いの交流を強め、協力し合い、ウインウイン関係を目指すべきではないかと。

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2021 年 2 月、郝暁光氏の作成した縦版世界地図が正式に出版されてからの 8 年後、ア メリカ学者は新しい両面投影法技術を用いて類似した地図を描き出し、同じく緯線分割法を使って、地球を半分に分け、一つの両面円を得た。郝暁光氏は、「アメリカ版の縦版世界地図は我々の考え筋とはほぼ同様で、明らかに南北半球をめぐる分割法を使っているが、中国版より七、八年も遅れている」と言う。

「世界地図の沿革は、世界地理に対する人類の再発見、再認識を語っている。一枚の素 晴らしい世界地図は、人々のより全面的な世界観を培い、世界に対する想像力を鍛え、 世界を探索する意欲をそそることができる」と郝暁光氏は述べた。今の郝暁光氏は縦版世界地図を革新的な特色とするこの新しく編成した『世界地図のシリーズ』を学校や教材に取り入れ、三次元の地球をこれまでになく完全に平面に披露し、世界の「もう一つの顔」を世間から認められ、人々によく知られるようにと励んでいる。


郝暁光氏は、数百年にわたる伝統的な認知を覆した縦版世界地図が出版され、しかも関係業界において広く応用されつつあるにもかかわらず、一般の人々に受け入れられるまで はまだまだ長い道のりがある。「東西半球なら横版、南北半球なら縦版」という認識を科学的に普及させるにも、なお長期にわたる過程が必要だという懸念を示した。
(訳者 杜 海懐 華僑大学准教授)

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