「模範的マイノリティー」であるにもかかわらず、米国のアジア系はなぜ差別されるのか

 新型コロナウイルスの流行で、米国の人種差別問題が再び浮上している。華人ないしアジア系がその先頭に立っている。アジア系アメリカ人と太平洋島嶼国先住民に対する憎悪を止める団体(STOP APPI Hate)の最新報告によると、2020年3月から2021年2月末までに、全米各地から計3795件の反アジア系の人種差別報告が寄せられた。


 これについて、中国新聞社の記者は香港理工大学応用社会科学科の厳海蓉准教授に取材した。厳海蓉氏は1993年から2007年まで米国で勉強と仕事をした。ワシントン大学の人類学博士、プリンストン大学のポスドクを修了している。

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 厳海蓉氏によると、米国で人種差別がなくなったことは一度もないようである。なにか事件があれば、人種差別が相次いだ。中国系アメリカ人ははっきりと中国への「悪者扱い」に反対の声をあげ、パートナーを探して団結し、人種差別主義に対して共同で反対しなければならない。
インタビューの抜粋は次の通りである。


アメリカから人種差別が消えたことはない
 中国新聞社記者:最近、アメリカなど一部の国で、中国系ないしアジア系に対する差別事件がクローズアップされています。中国系は米国史においても差別を受けてきました。現在、中国系が直面している差別は、以前と比べてどのように違うと思いますか?


 厳海蓉:大きな背景から言えば、今のアメリカの中国系住民が直面している差別は、以前とはかなり異なっています。「排中法案」時代(1882-1943)、中国系住民が直面した差別は、アメリカ社会における広範な差別の特殊なケースでした。当時のアメリカでは白人の間でも人種差別は非常に一般的であり、その範囲はマイノリティのほとんどを網羅しており、イタリア人、アイルランド人などの非アングロサクソン人(アングロサクソンとは、アメリカでは一般的にイギリス出身の白人を指す)の白人も含まれていました。中国系だけでなく、アジア系も基本的には差別を受けていました。排中法の後には1917年の排アジア法(Asiatic Barred Zone 1917-1952)が成立し、それまでの華人に対する排斥は太平洋のポリネシア島から南アジア、レバノン、トルコ、サウジアラビアに至る広大な地域に拡大しました。1924年(National Origins Act 1924-1952)には、南欧と東欧の移民、特にユダヤ人とスラヴ人に対する移民へと拡大しました。


 アメリカでは人種差別が続いており、内因性の腫瘍といってもいいです。
 アメリカに帰化したにもかかわらず、民族や文化が異なるため、多くの中国系アメリカ人は「あなたはどこから来たの?」と聞かれます。これは暗黙のうちにあなたが米国に属していないことを前提としていますが、白人はそのような質問をされる可能性は低いです。

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 しかし、昨今の風潮は違ってきています。まず、中国系の人口がアメリカでは以前に比べて大幅に増加しており、アジア系も同様です。以前はアジア系全体がアメリカの人口の1%にも満たなかったですが、今は6%に達しています。


 次に、今日アメリカの多くの産業にアジア系が存在し、アメリカ経済に大きく貢献しています。今、アジアからの移民が閉鎖されれば、米国経済は大きなダメージを受けかねません。


 第三に、中国、日本、韓国、インドを含むアジアの多くの国の影響力が以前とは大きく異なります。


 最後にアメリカの公民権運動の影響です。1960~70年代の民権運動では、アフリカ系アメリカ人が主体でしたが、アジア系も多く参加していました。権益を獲得する上で、彼らは多く学ぶとともに、公民権運働によって一部の白人、特に若者が反差別を支持するようになったことは、今日のアメリカにおける中国系、アジア系の反差別に役立っています。


 中国新聞社記者:人種差別が本当になくなったことはないのでしょうか? 歴史上、中国系住民も反差別のために努力したり抵抗したりしてきましたが、その成果はどうでしたか。


 厳海蓉:確かに、アメリカで人種差別がなくなったことはありません。しかもそれは静的なものではなく、事件の発生とともに相次いで横行しています。


 注目すべきは、アメリカの人種差別主義者によるアジア系への差別が、アメリカの対外戦争の影響と社会的な動員によってもたらされていることです。1950年代には朝鮮戦争、60~70年代にはベトナム戦争、そして80年代には日本の台頭の抑制がありました。アメリカのいわゆる「敵対的」国のほとんどはアジアにあります。アジア諸国を相手にした戦争への動員は、在米アジア系に影響を及ぼすことは間違いありません。アメリカ社会が両者をきちんと区別していないからです。

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 アメリカ社会の文化において人種差別は非常に構造的な問題で、アメリカ先住民の虐殺、アフリカ系の奴隷化、中国人の単純労働者扱いなどがあります。また、歴史的にも有色人種だけでなく、アイルランド人、イタリア人、ユダヤ人までが人種差別を受けてきました。


 当時、英国の植民地主義が世界的に拡大していた影響で、一部のいわゆる「オールドアメリカ人」(Old—Americans)は、自分たちが真のアメリカ人であり、他の人々は「劣った人々」(inferior)でした。20世紀後半になって、公民権運動、反戦主義の影響を受けて、アメリカの白人の間に反差別的な考え方が広がり始めました。


 振り返ってみると、米国における中国系住民の反差別は長い歴史があり、一定の効果もあります。19世紀末から20世紀にかけて、中国系はさまざまな抵抗をしました。街頭で抗議したり、武器を手にしたり、地元の政治家と対話したり、チャイナタウンを建設したり、中国人コミュニティの相互支援などが含まれます。


 しかし、当時の中国系の中には、アメリカにいたくなく、アルバイトをしてお金を稼いで「ルーツに戻ろう」とする者がおり、排中法案の圧力もあって、在米中国系の人口は全体的に減少し、力も弱まっていました。

「模範的マイノリティー」というレッテルは利益よりも害の方が大きい
 中国新聞社記者:米国百人会(中国系アメリカ人による組織、Committee of 100)がこのほど発表した報告書によると、経済学の観点から、米国における中国系住民の過去170年余りの貢献を定量的に分析しました。今、多くの在米中国系が主流社会に入って政治やビジネスをし、教育程度がますます高くなり、米国のために大きな貢献をしているのに、なぜ相応の理解と尊重を得られていないのでしょうか。


 厳海蓉:今のアメリカ社会の問題は、貢献したからといって、社会があなたを尊重するとは限らないということです。これは歴史上の前例があります。


 戦前のドイツではユダヤ人人口は1%にも満たなかったですが、医師の11%、弁護士の17%がユダヤ人でした。つまり、主流社会の価値観で言えば、ユダヤ人はドイツ社会に大きく貢献したのです。しかし、ある集団がその社会に対して貢献することは、彼らが尊敬されないだけでなく、狙われることにもなりかねません。


 これはある種の反発といえます。米国にはもともと人種差別主義の長い歴史があり、その「史跡」は生きています。人種差別の考え方がいったん生み出されると、影響力は非常に大きいので、詳細な区別は行われません。今日のように、新型コロナ感染症の後、米国では人種差別攻撃が中国系だけでなくアジア系にも及んでいます。


 その社会に馴染むとはどういうことでしょうか? 多くの在米中国系は以前から英語を話すことができ、特に二世、三世である。受け入れられないのは中国系そのものではなく、米国社会本筋の問題です。彼らは中国系の文化を「外来」と見なし、彼らを「アメリカ」の一部として受け入れませんでした。


中国新聞社記者:多元的な文化とは、国が異なる文化をある程度発展させても、主流文化の地位は変わらないことです。文化の多様性とは、一つの国に存在する多種類の文化を可能な限り発展させることです。アメリカが唱えているのは多元的な文化なのでしょうか、文化の多様性なのでしょうか。


 厳海蓉:英語にmulticulturalismという言葉があります。民権運動が代表する権利は、平等な就業権などだけでなく、文化権も含まれていました。だから公民権運動を通じてアジア系文化研究(Asian American studies)のようないくつかの学科が大学の学科になることができました。


 今のアメリカの主流社会では、多文化を制限しようとする傾向があると思います。今日、多文化は「白人至上主義」の反動を受けています。米国の主流社会では、中華料理店がたくさんあってもいいし、多様な文化があってもいいが、ある程度発展すれば規制する傾向が強いのです。

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 中国新聞社記者:アジア系は米国の主流社会から「模範的マイノリティ」とみなされていますが、これは一種の承認だと思いますか、それともある種のステレオタイプを深めていると思いますか。


厳海蓉:以前と比べると、今の中国系ないしアジア系はアメリカではかなり成功を収めています。かつての中国系は、労働者や小規模の商売人が多かったです。現在、中国系は教育、経済などの面で向上したが、依然として大きな困難に直面しています。


「模範的マイノリティー」という言葉は1960年代に出てきました。アジア系の発展にとって、このレッテルは利益よりも害のほうが大きいです。褒めているように見えるが実は貶めることで(damning with faint praise)、つまり「褒め殺し」です。アジア系にとって、このレッテルはすべて白人が貼るものであり、本質的に白人至上主義の地位を強めています。


 また、このレッテルは多くの白人に、アジア人がロボットのように働き、従順で、迷惑をかけないと思わせ、アジア系住民の人種差別に対する抵抗にとってはあまり良いことではありません。


 「分割統治(divide and move)」という言葉もあります。異なる人種に異なるレッテルを貼ることで人種間の差別化を促進します。例えば「模範的マイノリティー」はアフリカ系やラテン・アメリカ系よりもアジア系の方が優れていると言っているようですが、これは民族間で共通の問題について団結して戦うのに不利です。

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 差別に反対するには各方面の力を結集する必要がある
 中国新聞社記者:この間、米国でも反差別活動が起き、社会各方面からアジア系を応援する声が上がっています。在米中国系ないしアジア系が自らの権益をよりよく守るために、どのようなアドバイスがありますか。米国の差別問題を改善するためには、どのような努力が必要なのでしょうか。


 厳海蓉:パンデミック後、米国では中国系、中国に関する誹謗中傷が非常に多く、多くはかつての「黄禍論」のように印象操作したものです。今日、中国系に対する差別攻撃と密接に関連しているのが「中国脅威論」です。ここ数年、米国は新冷戦を発動し、戦争は往々にして人種的言説の動員を利用し促進してきました。人種差別に対抗し、新冷戦にも対抗しなければなりません。中国系、アジア系が立ち上がって反撃しなければなりません。


 中国系、アジア系の反差別は他の民族系と連帯する必要があります。一例を挙げると、1938年から1939年にかけて、米国の華人は日本の中国侵略行為を阻止しました。彼らは貨物船の埠頭に行って、米国がスクラップを日本に売ることに抗議し、米国が日本の軍国主義へ武器製造の原材料を提供することに抗議しました。これに加わったのは、ユダヤ人、ギリシア人、イタリア人などで、イタリアではすでに反ファシズムのネットワークが形成されていました。彼らの抗議は港湾労働者たちに感動を与え、搬出作業を拒否する人も少なくなかったです。


 今日もそうでした。中国系アメリカ人は中国を「悪者扱い」することに明確に反対する立場をとり、パートナーを探して連帯すべきだと思います。ジャマイカの哲学者チャールズ・W・ミルズは著書『人種契約(The Racial Contract)』の中で、白人至上主義は米国内の問題であり、世界的な問題だと指摘しています。

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 中国新聞社記者:米国の主流社会にも努力が必要ですか。


 厳海蓉:実は今日のアメリカの白人の中にも、かなりの数が反差別を支持しています。これは1960年代の民権運動にさかのぼるべきです。今でもアメリカでは反差別は多くの人の支持を得ており、BLM(Black Lives Matter)運動のときには、若い白人が多く参加しています。中国系はこの領域の人々の力を結集し、共に差別に反対しなければなりません。
(訳者 楊世瑾 華僑大学講師)

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