一帯一路の「債務の罠」理論が成り立たない理由(1)~中国国際経済交流センター張燕生氏
2023年は「一帯一路」構想が打ち出されて10年目の節目に当たる。過去10年、「一帯一路」構想は共同参画国・地域の発展に寄与した一方、中国がいわゆる「債務の罠」を作り出したとの見方もある。事実はどうなのか?これについて中国国際経済交流センターの張燕生主任研究員は中国新聞社のインタビューに応じ、長年にわたり、中国は世界の経済成長促進に重要な役割を果たしてきたと同時に、発展途上国の「貧困の罠」からの脱却を支援するパートナーだったと指摘している。
中国新聞社:「一帯一路」構想の参画国・地域の国々の経済・貿易の成長にどのような役割を果たしているか?また、地域、さらにはグローバルな協力・発展にどのような示唆を与えているか?
張氏:「一帯一路」構想は、世界経済発展のための公共財提供という役割を果たしている。そもそも「発展」とは何か?簡単に言えば、貧困からの脱却の過程における経済・社会構造の変化のプロセスである。多くの国は経済発展の道を模索してきたが、歴史は、政府や市場だけに依存してもうまくいかないことを証明している。そして政府と市場、開放と改革、公平性と効率性の相互作用が発展の問題を解決するために必要であることを示している。「一帯一路」構想は、市場経済の役割と政府の役割の両方を発揮させることができ、インフラ整備のための良いモデルをつくりあげている。
「一帯一路」構想の本質は、世界経済のリバランスにある。2008年の金融危機以降、経済のグローバル化は後退・逆回転を始め、一部の国での国内での貧富差拡大、さらには国と国との貧富差の拡大が進んでいる。こうした中、「一帯一路」構想は世界経済のリバランスに貢献するもので、発展途上国がグローバリゼーション後退の-影響を回避するよう支えるものである。
「一帯一路」は、▽「政策連携」、▽「インフラ連結」、▽「貿易円滑化」、▽「資金融通」、▽「民間交流」-の5分野での協力が推進されている。
また過去10年、「一帯一路」構想は、多くの分野での技術開発や経済協力の促進に貢献してきた。単に経済的・財政的な利益を追求するだけでなく、「適切で満足のいく解決策」を模索し、社会経済全体の利益を重視してきた。この意味で、「一帯一路」構想は、開発問題に適した公共財を提供しているのである。
中国新聞社:「一帯一路」構想のポジティブな側面の一方で、いわゆる「債務の罠」の問題が指摘されている。これについてはどのようにみているか?
張氏:債務問題は本質的に開発問題である。債務危機は分子(債務)と分母(GDP)の割合によるものだ。つまり、分子が減速しても、分母がさらに減速すれば債務問題は深刻化する。
2008年の金融危機以降、途上国が債務超過に陥ったのはなぜか?欧米も日本も、程度の差こそあれ債務問題を経験しているのはなぜか?根本的な原因の一つは、グローバルな経済・貿易発展の黄金時代が終わったことである。第二の根本原因は、中国と米国の貿易戦争と戦略的競争によって、世界のマクロ経済政策の協調と、協力が損なわれたこと。第三の根本原因は、景気冷え込みを回避するために西側先進国が強力な景気刺激策を実施したことである。これらが途上国の債務負担の増大につながった。近年の新型コロナ流行と相俟って、欧米諸国の大規模な景気刺激策が高インフレを誘発し、高インフレを抑制するためにとられた大胆な利上げと急激なドル高が、途上国の債務返済圧力を悪化させている。コロナ、地政学的紛争、世界的な経済・貿易の減速により、途上国の経済成長を取り巻く国際環境は悪化している。分子が大きくなり続ける一方で分母は縮小しており、経済構造が脆弱な国々は債務危機に陥りやすくなっている。
世界の公的債務は過去20年で5倍増加し、同時期の世界経済の成長率をはるかに上回るペースで増加した。アフリカの政府債務は2010年以降3倍に増加し、アフリカの平均借入コストは米国の4倍である。したがって、開発の観点からは、債務問題が発生した際の債務救済・再編の取り決めだけでなく、低コストの開発援助や債務支援にも取り組むことが重要である。
中国の「債務の罠」の議論は成り立たないことは証明されている。金融危機以降、過去10年、世界の経済成長への中国の寄与率は年平均30%を超えていた。一方、途上国が中国に負っている債務は低金利である。例えば、ザンビアが欧州市場で発行した債券の金利は9.4%と高かったが、中国の金利はそれをはるかに下回っていた。一方、国際機関が提案したザンビアの債務再編プログラムについて中国は受け入れた。しかしその後、欧米の民間債権者が債務再編プログラムを受け入れず、ザンビアの債務再編は困難な状況に追い込まれた。世界を見渡しても、途上国の債務の絶対額は決して大きくなく、本質的には開発の問題、あるいは欧米諸国のマクロ経済政策によってもたらされマイナスの外部要因によるものである。
したがって、開発の観点から見れば、一部の途上国の債務の根本原因は中国にあるわけではない。中国は「債務の罠」の元凶ではなく、途上国が「貧困の罠」から抜け出すための重要なパートナーである。
張燕生氏プロフィール
中国国際経済交流センター主席研究員、世界経済学博士。国家発展改革委員会学術委員会秘書長、対外経済研究院院長などを務めた。研究分野は国際金融と国際貿易。中国語と英語で10冊以上の書籍を出版(共著を含む)、200本以上の学術論文を発表。国家発展改革委員会優秀研究業績第一等賞など数々の賞を受賞。