中国の自動車市場、価格競争が新たな局面

中国の自動車市場で価格競争が新たな局面に入っている。値下げ競争から退出する外資系企業が出ているほか、自動車メーカーの経営陣の間でも過当競争に対する否定的な声が上がっている。値下げ競争が広がる中、足元の企業業績は明暗が分かれている。競争は企業努力を促す側面があるが、過度の競争は企業の体力を消耗させるだけでなく、消費者の不満を招く事態もある。業界全体の長期的な発展につながる好循環を生み出すような競争の質が問われている。

■値下げで業績悪化、消費者の不満
今年初め、BYDは新エネルギー車(NEV)の値下げを率先して展開。「秦PLUS」シリーズのエントリーモデルを7万9800元に引き下げた。その後、旧モデルでも大幅な値下げを行った。NEVで最多の販売台数を誇るBYDの値下げは自動車業界に大きな影響を与えた。

だが、過度の価格競争は企業の体力を消耗させている。実際、足元では業績が悪化する企業が相次いでいる。広州汽車集団の2024年中間決算は売上高が前年同期比25.6%減、純利益が48.8%減。上海汽車集団の2024年中間決算は売上高が12.4%減、純利益が6.4%減――など。国有企業を中心に業績が悪化しており、その一因として、企業側はいずれも価格競争の激化を挙げている。

企業の体力を消耗させるだけでなく、消費者への不満も招いた。購入直後に値下げされる事態が発生するためだ。また、値下げを待つ人が増えれば、需要の取りこぼしも起こりかねない。

 

■価格競争から退出の企業も
過度の競争はマイナス面が少なくない中、BMWは7月、値下げ競争から退出。続いてメルセデス・ベンツ、アウディなどの外資系メーカーが相次いで値下げ競争から退出すると伝えられた。値下げ競争からの退出の一因は、ディーラーの在庫圧力が高まったこと。6月の中国自動車ディーラー在庫警告指数は62.3%にまで高まった。

こうした状況下、値下げ競争がやや沈静化する動きもみられる。2023年は一年を通じて値下げが比較的均衡に行われていたが、2024年は3月から4月にかけてがピークだった。月次ベースの値下げモデル数は、2月が24モデルだったのに対して、3月が53モデル、4月が43モデル。だが、8月は29モデルにまで減少している。

自動車メーカーの経営陣の間で、過当競争に警戒する声も出ている。吉利汽車グループCEOの淦家阅氏は、吉利汽車の2024年中間決算発表の際、「単純な価格競争は自動車産業の長期的な発展にはつながらない」と危惧を示した。


■値下げ合戦下でもBYDは業績向上
無論、「価格」だけが業績を決める要因ではない。また、値下げ競争から撤退した外資系メーカーの販売が改善されるかも未知数だ。

実際、価格競争が激化する中でも、業績が向上した企業もある。その筆頭がBYD。BYDの2024年中間決算は、売上高が15.8%増、純利益が24.4%増。自動車・関連製品事業の粗利益率は3.2ポイント上昇して23.9%に改善し、粗利益率は理想汽車(18.7%)、テスラ(18.2%)を上回る水準だった。BYDの収益性が高い理由の一つは、マスターバッテリー、モーター、電子制御、車載用半導体などのNEVのサプライチェーンのコア技術を自前で持っていること。他社に比べて高いコスト優位性を有している。

 

競争は強固な経営基盤をつくる企業努力につながる側面がある一方、行き過ぎた競争は前述のように企業体力を消耗させるだけでなく、消費者の利益にもつながらない。群雄割拠する中国の自動車市場。淘汰される企業も相次ぐ中、秩序ある健全な市場の発展を促すような長期的な視点にも目配りする企業運営ができるのか注目される。

 

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