中国・国家衛生健康委員会はこのほど、共産党理論誌「求是」に掲載した記事の中で、今後の人口動態について、第14次5カ年計画期間(2021~25年)の間にマイナス成長に入るとの予想を示した。中国メディアによると、人口が減少に転じる段階に突入すると政府が公式に見解を明示したのは、これが初めてという。人口減への対策が迫られる中、産休・育休の日数を増やす地方政府が増えている。 ■進む少子高齢化 中国の21年の出生人口は1,062万人、死亡人口は1,014万人で、全体の人口は48万人の純増だった。純増数は60年ぶりに過去最低を記録。00年までは純増数が1,000万人超、18年までは500万人超だった状況に比べて、純増数の縮小は鮮明となっている。 一方で高齢化は進展。21年に65歳以上の人口は初めて2億人を突破。人口全体に占める割合は14.2%に達した。足元の動向を鑑みると、人口が減少するのは早ければ今年、遅ければ来年か再来年との予想も出ている。 ■出生率低下、ここ数年顕著に 出生率は、1990年代には20‰(人口1,000人当たり出生数は20人)超だったが、その後は徐々に低下。特に、16年以降は低下ペースが加速し、16年の13.57‰から21年には7.52‰にまで下がり、統計の発表が始まって以降、過去最低を記録した。 なぜ16年を境に低下が顕著になったのか。一つ目の理由として挙げられるのは、16年に全面的な二人っ子政策が導入されたこと。これにより、16年に出生率は小さなピークを記録した。しかし、政策効果は長続きせず、16年のピークから反動減となった格好だ。二つ目の理由は、16年以降、住宅価格が1998年以来の最大の上昇局面になったこと。家計の支出が増える高い住宅価格が、出生を抑制する一因になったといえる。 ■出産意欲の低下が出生率の低下に拍車 無論、長期的な傾向として、出産適齢期に当たる女性の人口の縮小に加え、出産意欲が低下していることも、出生率を押し下げている。 2020年の出産適齢期(20~35歳)の女性の人口は2010年と比べて4,591万人減少。今後さらに減少するとみられている。さらに深刻なのは、出産意欲の低下が予想をはるかに上回るペースで進んでいることだ。 出産適齢期の女性の出産意欲は低下を続け、2021年の国家衛生健康委員会の調査によると、平均出産予定数は1.64人。17年の1.76人、19年の1.73人を下回った。特に、出産の主体となる「90後(90年代生まれ)」、「00後(00年代生まれ)」はそれぞれ1.54人、1.48人にとどまっている。 さらに、ここ数年は新型コロナウィルス感染症の流行など不確実性が増幅する中、結婚、出産計画を延期または棚上げする人が増えているという。 ■人口構造変化で課題も 若者が多く、高齢者が少ない「人口ボーナス」の段階から少子高齢化の進展で「人口オーナス」の段階に突入する中、人口構造は変化が生じている。 実際、若年層の人口は減少している。年代別の人口をみると、「80後(1980年代生まれ)」の人口は2億2,300万人、「90後(1990年代生まれ)」は1億6,700万人、「00後(2000年代生まれ)」は1億5,800万人、「10後(10代生まれ)」は1億6,800万人となっている。00後と10後の人口は、80後と90後に比べて6,000万人以上少なく、20後の人口はさらに減少するとみられている。 こうした人口構造の変化は様々な問題を生み出す。労働力供給に直接影響を与え、労働力不足、さらには経済成長の足かせになり得る。 年金問題も看過できない。中国の年金は賦課方式(現収現付方式)を採用しており、現役世代が払った年金は高齢者の老後に使われている。将来的に年金収支が不足すると、現役世代の年金はどうなるのか、課題となっている。 ■出産・育児休暇日数増加の動き 人口減を食い止めるべく対応が迫られる中、足元では出産休暇、育児休暇を増やす地方政府が増えている。人民日報によると、8月1日時点で30以上の省・市が出産休暇および育児休暇の日数を増加。北京や蘇州は出産休暇を従来の30日から60日に延長し、育児休暇と併せると98日までとしている。また、重慶の出産休暇は178日、青海は188日。陝西省は3人目の出産の場合は計350日の休暇を与えるという。 男性の育児休暇を増やす地方もある。広西は今年3月、条例を見直し、男性に出産前の検査付き添い時の休暇を増やしたほか、出産後の休暇は国の規定のほか、1人目は60日、2人目は70日、3人目は80日の育児休暇を追加している。 こうした動きについては「出産・育児休暇の増加だけで出産意欲の低下を食い止めることはできないが、政府が少子化問題を重視し、支援する姿勢を示しているもの」と受け止められている。今後は住宅価格や教育問題などを含め子供を産みやすい環境づくりにつながる少子化対策が講じられるのか、注目されよう。