香港の中国返還25周年、成果、試練、未来をどう捉えるのか?
2022年7月1日は香港の中国返還25周年に当たる日である。「一国二制度」が基本法で約束されている「50年不変」の中期の段階に入った歴史的な節目に、この政治文明史上、唯一無二の制度を評価するには、客観的、理性的、現実的な態度が必要で、成し遂げた成果をみるだけでなく、問題、課題も捉える必要がある。さらに重要なのは社会の共通認識を集約し、未来に向かって香港のより良い明日を切り開くことである。
「一国二制度」実践の25年の成果をどう評価するのか?
「一国二制度」は偉大な構想から基本の国策、国の制度システムに至るまで、成果に対して共通認識を持つべきである。中国共産党がいかなる前例もない下で「一国二制度」を切り開き、それを世界が公認する人類文明の成果とした意義は、すでに中国を超え、国際性を有するものといえる。
この三百年近くにおいて、「一国一制度」は、国を統治する常態、体制で、たとえ連邦制国家であってもこれに属する。中国が歴史的に残された香港、マカオ問題を解決する上で直面した問題は、主権者の意志をもって、世界各国の常態化した統治モデルを継続して「一国一制度」を実行するのか、それとも世界に前例のない新しい統治モデルを生み出すのか。国の主権、領土を守るという前提の下、1つの主権国家内で2つの異なる制度が平和的に共存することは可能なのだろうか。「一国二制度」の実践が出した答えは、不可能を可能にしたことである。
鄧小平氏が強調したように、「一国二制度」の下での「社会主義」と「資本主義」は、「私があなたを食べるのではなく、あなたが私を食べるのでもない」。「一国」の枠組みの中で異なる制度が調和して共存することは、特別行政区の繁栄と安定のための基礎を築いただけでなく、平和の秩序的な構築の可能性を示した。
国の主権を守り、香港の長期的な繁栄、安定を保つことは「一国二制度」の初心、そして使命である。返還以来、香港は様々な困難に直面したが、中央は終始、基本法で定められた「一国二制度」の初心を守り、繁栄と安定を第一の重要任務とし、香港市民の福祉を優先的に考えてきた。香港版国家安全法を制定、実施し、選挙制度を整備する根本的な趣旨も、香港独自の優位性を維持し、繁栄と安定を保つことにある。ここ5年間は、国際秩序の不確実性、新型コロナウィルス流行などで世界経済が低迷する中にあって、香港経済は総じて安定を維持しているといえる。
「一国二制度」の実践が成功したかについての国際社会の評価指標の一つは法治の発展である。法治は香港の核心的な価値であり、競争力である。返還から25年間、香港の法治指数は世界の上位にランクインしている。返還前の香港の法治指標は69.85だったが、返還後、2003年以降は90以上を維持しており、東アジア・太平洋地域で5位となっている。
「一国二制度」の下で、異なる法体系、法制度、法文化が調和して共存し、開放、融合、多様性を体現し、世界の法治文明の多様性、そして比較法の体系に中国の経験を提供し、比較法上の唯一無二のサンプルになった。香港の多角的な法体系は、「一国」と「二制度」の間に異なる法文化の交流プラットフォームを構築している。特に、返還から25年間、司法の独立は香港で弱体化するどころか、法治を守り、法に基づき香港市民の権利と自由を保障する重要な役割を果たしてきた。
「一国二制度」の25年来の実践の成果をみる際に関心の的となるのは、香港市民の権利と自由が弱体化したか、特に香港版国家安全法の制定が基本法に規定された市民の権利と自由を制限したのかという点である。国の安全の維持と人権保障、社会秩序と自由の価値の間に効果的なバランスが取れるかは、「一国二制度」の実践において注目されてきた。実は、基本法の起草から、どのように基本法を通じて住民の権利・自由を保障するかは、香港と中国本土の委員との間で最も議論されてきた課題の一つである。当時、本土は改革開放されたばかりで、権利の自由という概念はまだ形成途上だった。しかし、香港委員が提起した権利の自由という議題に対して共感されたからこそ、基本法に十分な人権要素を与えたのである。例えば、基本法第4条の規定では「香港特別行政区は法に基づき、香港特別行政区の住民、その他の人の権利と自由を保障する」とあり、これは基本法で保障されている人権の基本原則である。また、基本法第3章では、住民の基本的権利を詳細に規定。憲法に定められた基本的権利の内容を含むと同時に、香港と本土の社会、経済、文化などの背景上の違いも考慮されている。また、基本法第39条は、「『公民の権利と政治権利に関する国際条約』『経済、社会および文化の権利に関する国際条約』および国際労働条約の香港に適用する関連規定は引き続き有効で、香港特別行政区の法律を通じて実施される」と規定している。
「一国二制度」実践25年の経験をどう総括するのか?
「一国二制度」の25年間の実践の成果を肯定した上で、基本的な経験を総括し、「一国二制度」の発展の内在的論理を深く探求する必要がある。ここでは、以下の4つの点から総括してみる。
1つ目は、中国共産党は「一国二制度」の創設者であり実践者であること。返還以降、中国共産党は「一国二制度」の事業を導き、模索の中で前進してきた。「一国二制度」を実践するには、中国共産党の指導を堅持、維持しなければならない。憲法1条は、中国共産党の指導的地位を明記している。党の指導を守ることは、「一国二制度」を守ることであり、憲法が確立した特区憲法の秩序を守ることである。これについて香港社会は共通認識を持つべきで、中国共産党の憲法上の地位を正しく認識しなければならない。
2つ目は、香港の実際の状況から出発するという原則である。香港の歴史、現実を考慮することが、特別行政区の制度を創設し、「一国二制度」事業の発展を推進する基本的な出発点である。基本法の前文および第45条、第68条には、特別行政区の実情に応じて段階的に進める、という原則が規定されている。返還以降の中国政府による香港の民主制度の模索は、これを説明しているといえる。
3つ目は、法に基づいた香港の統治を堅持し、法治の考え方、方式を以って香港関連の事を処理すること。憲法に基づいて国を統治し、憲法に基づいて執政することは中国の法治の核心的な意義で、法に基づいて香港を統治する基本的な要求でもある。法治は香港の長期的な繁栄と安定の重要な礎である。法に基づいて香港を統治するには、憲法と基本法に基づいて事を処理し、基本法の実施に関する制度、仕組みを整備しなければならない。
4つ目は、香港の長期的な繁栄と安定を維持するという根本的な主旨を堅持すること。返還25年の実践は、「一国二制度」の方針を体現する基本法が通用することを示しており、香港の繁栄と安定を保障するものとなっている。特別行政区の長期的な繁栄、安定を維持することは、憲法と基本法に基づいて国が果たす義務であり、それ自体が国の発展目標のあり方である。
「一国二制度」の実践に存在する問題、試練と未来をどのように考えるか?
「一国二制度」は中国の政治文化の奥深さを持つと同時に、主権、平和、包容、開放の精神を体現した国家制度の体系である。新しい事物として「一国二制度」が、実践の中で新しい問題、試練に直面するのは正常なことで、時代とともに前進する必要がある。
香港返還から25年間の成果は誰もが認めるところだが、同時に存在する問題、試練も直視しなければならない。「一国二制度」の実践に存在する主な問題は、この制度がもたらした恩恵を一部の香港市民が感じることができず、人心が完全に戻っていないことである。香港の住宅、雇用、貧富の差などの問題は構造的に解決されておらず、社会の正義観はまだ有効な制度を通じて社会構成員、特に弱者に伝達されていない。また、一部の香港市民は依然として国のアイデンティティーに欠いている。さらに、健全な政治文化を欠き、香港社会はいわゆる「体制派」、「非体制派」、「民主派」の区別にばかり熱心で、愛国などと異なる政治的観点を持つ人に勝手にレッテルを貼ることは、多角的で包容的な政治文化の雰囲気づくりなどに不利である。
「一国二制度」は新しい事物で、前例がなく、実践の中で新しい状況、問題に直面するのは正常なことで、時代とともに前進する必要がある。「一国二制度」はその場しのぎの策ではなく、一種の国家の制度体系である。2047年以降の「一国二制度」の実践がより多彩になると信じる理由はあるのだ。
韓大元(中国人民大学「一国二制度」法律研究所所長、全国人民代表大会常務委員会香港基本法委員会委員)