『宮廷の諍い女』から見る、 海外での中国ドラマ人気
近年、中国ドラマの海外進出が新たなブームとなっている。以前は散発的だったが、今は数が大幅に増え、テーマも歴史劇一辺倒から多様化した。中国ドラマに引きつけられる海外ファンが増え、ブームが起こっている。
中国新聞社・記者/呉侃、門睿 翻訳/及川佳織
海外進出した多くの作品の中で『宮廷の諍い女』(原題:《後宮・甄嬛(しんけい)伝》)はいわゆる「神作品」であり、放送開始から10年以上たっても人気は衰えない。国内外のネットでは 「拡大鏡」で見るようにドラマのシーンが詳細に解説され、「諍い女学者」たちが目下の話題を自由に関連付け、それがしばしば検索ホットワードとなって熱い論争を引き起こしている。
海外の視聴者は、なぜこの作品を見るたびに新鮮さを感じるのだろうか。中国ドラマが海外でファンを集める理由は何だろうか。中国ドラマによって、どう文化交流を進めるべきか。これらのテーマについて、中国の若手俳優で『宮廷の諍い女』で主人公・甄嬛の侍女であり実は腹違いの妹である浣碧(かんへき)を演じた藍盈瑩(ラン・インイン)さんと、中国系タイ人で南京大学博士の韓冰(ハン・ビン)さんが対談した。
藍さんは、中国が世界の舞台の中央に近づくにつれ、海外からの関心が高まり、映画やテレビを通して中国社会の様子や人々の暮らしがより知られるようになってきたと考えている。韓さんは、中国の映画やテレビには強い文化的な吸引力があり、もっと中国文化を学びたいという海外の視聴者の気持ちをかきたてていると言う。
『宮廷の諍い女』はなぜ見るたびに新鮮なのか
記者:『宮廷の諍い女』は放送開始から 年、ずっと視聴者に注目されてきました。ドラマの名ゼ リフは何度も繰り返しネットで話題になってい ます。このドラマが高い評価を受けた理由は何でしょう。
藍盈瑩:ドラマ制作に携わった者として、作品が11年間ずっと愛されていることは喜ばしいことです。この作品の人気が衰えない大きな理由は、ドラマがよくできていることだと思います。出演者は何度もリハーサルを繰り返して役柄を把握し、役作りに全力で取り組みました。監督、カメラマンなどすべての制作者が最高を求め、ドラマを通じて中国の伝統文化を表現したいと考えていました。ドラマに出てくる梳櫛(すきぐし)、火鉢(ひばち)、眉墨(まゆずみ)、頭飾りなどの小道具、宮中の儀礼などはすべて史実を参考にしてできるだけディテールを 再現し、根拠を調べ、視聴者の「拡大鏡」に堪えら れるようにしています。
『宮廷の諍い女』は波瀾万丈、ぶつかり合いと感情のもつれに満ちたストーリーで、真実に迫り、血の通ったキャラクターをたくさん生み出しました。ちょっとした登場人物さえも自分の「決まり文句」があり、何度も味わう価値があります。よく「この作品には話題のネタがいくつでも転がっている」と言われますが、ドラマの代表的なシーンやセリフはいまの社会、暮らし、文化と結びつけられ、二次創作によってドラマの新しい解釈が生まれ、それがぴったりで面白く、ドラマに尽きない生命力を与えています。ドラマの解釈がどんどん進化しているのです。
記者:この作品は中国だけでなく、海外でも人気があります。韓冰さんのこの作品とのなれそめはどのようなものでしたか。タイでこの作品はどれくらい人気があるのでしょう。
韓冰:中国に留学してすぐ、指導教員が中国の伝統文化を学ぶようアドバイスをくれ、この作品を推薦してくれました。見るとすぐに「後宮ファン」になりました。『宮廷の諍い女』は、中国文化の扉を開けるための鍵となり、その後、関連知識をずっと勉強し、中国史の本をたくさん読みました。
作品では歴史的シーンが再現されます。大臣の皇帝閲見を例に取ると、このシーンは太和殿ではなく、乾清門外の「御門聴政」の場でおこなわれており、こちらの方が史実に合います。このドラマを見ると、歴史の現場に存在し、そこに立ち会っている感覚になります。見るたびに違うディテールに気づき、中国史や中国伝統文化に対する知識が深まります。
タイではタイ語吹き替え版が放送され、やはり多くの視聴者を引きつけ、ファン層ができています。 年前に放送が始まったとき、タイのあるサイトに清朝の歴史に関する文章を投稿したところ、閲覧数が数百万になりました。これはタイでは非常に多い数字です。その後も多くのブロガーが関連する歴史を紹介するようになり、タイで中国歴史劇が人気になりました。
中国ドラマはなぜ海外で人気が出たのか
記者:以前、海外進出する国内ドラマの主力は歴史劇でした。しかし最近はサスペンス、シティドラマ、リアリティドラマなどの視聴者が増えています。なぜ中国ドラマは海外で人気が出たのでしょう。
藍盈瑩:長年、海外では歴史劇が人気でした。『宮廷の諍い女』『琅琊榜』から『長安二十四時』まで、これらの共通点は、戯曲や絵画、詩の典籍、風俗や服装、グルメなど中国文化の要素がまんべんなく入っていることで、それが海外の視聴者に好まれたのです。
最近は歴史劇一人勝ちの状況が変わり、テーマの多様化が進んでいます。特にリアリティドラマが目を引きます。『人世間』『山海情』などは、社会の発展、家庭内関係、子どもの教育、家族の愛情など、どの国でも共通のテーマを扱っており、共感を生みやすいのでしょう。かつて、海外で中国ドラマを見るのはほとんどが華僑・華人でしたが、中国が世界の舞台の中央に近づくにつれ、中国への関心が高まり、多くの外国人が現実をテーマにしたドラマを通じて中国社会の様子や人々の暮らしを知るようになったのだと思います。
サスペンスもここ数年、海外で認められ始めたドラマです。『昼と夜』(原題:《白夜追凶》)『バッド・キッズ 隠秘之罪』(原題:《隠秘的角落》)『リセット』(原題:《開端-RESET-》)などは、綿密な考証、頭脳戦や心理戦を駆使したストーリー、意外などんでん返しが国内外で人気となっています。
記者:タイで中国ドラマが人々に受け入れられた理由は何でしょうか。
韓冰:中国の映画やドラマはずっと人気がありました。タイのテレビ局はたくさんのドラマを放映しています。以前は歴史劇がメインでしたが、最近は民国時代もの、ラブロマンス、サスペンスなど様々なタイプに人気が出ています。
映像作品の海外進出は、その国の文化のソフトパワーによるところが大きいです。ある国や地域の文化を知っていれば、その文化の作品は受け入れやすくなります。タイで中国の映画・ドラマが好まれる理由は、両国の文化に相似性・共通性があるからで、タイの人は中国の映像作品を見れば、文化の意味を理解できるので、作品に対する良い評価が広まりやすいのです。
映像作品による文化交流の推進
記者:人気のあるカルチャー商品は文化を超えて意思疎通できる潜在力を持っています。映像作品は多くの人が好むカルチャー商品ですが、中国と海外の文化交流、人々のコミュニケーション促進にどのような役割を果たしているでしょうか。
韓冰:他のカルチャー商品と比べると、ドラマは文化を超えた伝達がより容易で、文化交流を促進できると考えます。見る人はドラマを通じて中国で暮らしているように感じ、文化や歴史、風土や人情、民俗習慣、道徳観、言語文化、考え方などを知ることができます。特に出来が良く、共通点のあるドラマは、違う国にいて、違う文化背景を持つ人々にもすぐに理解できます。
映画・テレビは強い吸引力があり、海外の人がドラマを見て中国の文化に興味を持つと、中国文化をもっと学びたいという気持ちが生まれます。近年、モバイルネットワークの発達によって、中国ドラマが海外のストリーミングメディアで放送されるようになりました。ストリーミングはいつでもどこでも視聴でき、コンテンツも豊富なので、海外の人はより手軽に、自分の好みに合わせてドラマを見ることができます。
記者:中国と外国の価値観の交わる部分を掘り下げ、世界の人々のために共通の言語を見つけるために、中国ドラマはどうしたらよいでしょうか。
藍盈瑩:中国ドラマは海外で人気が高まっているとはいえ、世界全体で話題になった作品はありません。爆発的に人気が出る作品は偶然現れるのではありませんし、海外に質の高い作品をコンスタントに提供していくことが前提となります。安定して、レベルの高い創作を続けることが必要です。
中国ドラマはさらに質を磨き、脚本、画面の質、キャラクター、俳優の演技、ポストプロダクションなどすべてのプロセスでレベルを高めなければなりません。近年、中国の映像業界は分業化が進み、人材が次々に現れ、新しい技術の活用やスマート制作なども成熟し、ドラマの質が高まりました。これが中国ドラマ海外進出の基礎です。
リアリティドラマの重要な要素は真実味です。中国ドラマは事実に基づいて創作の素材を探し、実感できるストーリーを語ることで、異なる文化背景においても共感を得ることができます。中国と外国で価値観は違っても、感情は共通です。中国ドラマの海外進出成功のためは、やはりよく知っている暮らしの場面を通して共通の感情を伝えることが必要で、こうすることで初めて海外の視聴者と心が通じ合うのだと思います。
『宮廷の諍い女』
日本でも放映され反響を呼んだ『宮廷の諍い女』は、本格的な派閥争いを描いた宮廷ドラマで、原題にもなっている甄嬛(しんけい)が後宮での過酷な仕打ちに立ち向かい、権力争いに勝ち上がっていく壮大な物語。中国では2011年に中国で初放映され、数々の賞レースで最優秀賞を獲得した。清の第5代皇帝・雍正帝の治世、後宮では権力をめぐって女たちの諍いが激化していく。主演の甄嬛を演じたのはスン・リー。代表作となった本ドラマの後も、『ミーユエ 王朝を照らす月』他ヒット作で主演を務めている。紫禁城を忠実に再現したセットや豪華絢爛な衣装、本文にあるように史実を参考にしたディテールと骨太のストーリーで、海外でもまたたく間に人気が広がった。写真は編集部所蔵 DVD。