中日文化交流の架け橋となったマンガ・アニメ

 マンガ・アニメは文化を映す鏡であり、多くの国の若者に愛されている。『ドラえもん』『スラムダンク』『ONE PIECE』など日本の代表的作品は、 多くの中国人にとって子どもの頃の思い出である。 『鉄扇公主』『大暴れ孫悟空』など、中国の優秀な作品も日本に大きな影響を与えている。

 中日国交正常化 50周年にあたり、岩波書店の元編集長で北京大学外国語学院日本語学科の外国人専門家である馬場公彦氏に、マンガ・アニメがどのようにして中日文化交流の架け橋となったのかを語ってもらった。

中国新聞社・記者/朱晨曦 翻訳/及川佳織

 記者:日本のマンガ・アニメは長年、中国人に愛されてきました。先生はその背景にどのような理由があると思われますか。 

 馬場公彦(以下、馬場):私の年代にとって、日本のマンガは「3時のおやつ」に例えられるものでした。小学生は午後3時に学校から帰宅し、おやつを食べながらマンガやアニメを見る、こうした「子どもの頃の雰囲気」は楽しく、思い出深いものです。似たような状況は中国の学生たちにもごく普通にあるのでしょう。

 子どもの世界では、好きなこと、興味のあるものが民族や国籍によって大きく異なることはあ りません。『ドラえもん』『ONE PIECE』『名探偵コナン』などのテーマや内容には、熱血、可愛さ、ドキドキ感、面白さなど多くの要素があり、これが中国の子どもたちに人気が出た理由です。

2020 年、『大暴れ孫悟空』総合原画展が上海センターで開かれた。撮影/湯彦俊

 同時に、日本のマンガ・アニメは大人、特に若者にも人気があります。これは両国の文化・社会における共通点を反映しています。文化消費を支える都市の中産階級の暮らしや消費行動は、中国と日本で比較的似ているのです。両国は社会環境も似ていて、晩婚、独身、子どもを持たない夫婦などの現象、さらには高齢化問題などもあります。これらの共通の要素によって、両国の若者はマンガ・アニメという共通の「言語」を持ちやすくなりました。

 記者:中国の伝統文化が日本のマンガ・アニメに与える影響をどう見ておられますか。近年、中国の作品が次々に日本に進出していますが、日本人の反応はいかがでしょうか。

 馬場:日本人はもっと中国文化や中国のマンガ・アニメの影響を意識すべきだと考えています。両国の文化の根源は深いところにあります。1983年に作られた『北斗の拳』は、1973年のブルース・リーの映画『燃えよドラゴン』の影響を明らかに受けています。中国の『三国志』を題材として、横山光輝は『三国志』を、中国の歴史に造詣が深い諸星大二郎は『西游妖猿伝』を描いています。有名なアニメ監督の宮崎駿は、中国の伝説から題材を取ったアニメ『白蛇伝』からヒントを得た、と語ったことがあります。日本で「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫は、中国初の長編アニメ『鉄扇公主』の影響を大きく受け、『西遊記』を題材にしたアニメ『悟空の大冒険』を創作しました。

 歴史的に見ると、中国のマンガ・アニメには素晴らしい伝統があります。ディズニーアニメとは異なり、中国の代表的作品は豊かな伝統文化の要素を含んでいます。

 上海美術電影製片厰の作品はどれも出色で、背景とキャラクターに水墨画、切り紙、あやつり人形、影絵などの伝統芸術のエッセンスが取り入れられています。この製作所が1963年に制作した水墨画のアニメ『牧笛』は、農村の静かな風景を繊細に描いており、私は初めて見たときになんと美しいのだろうと思いました。1983年制作の『天書奇譚』は水墨画で背景が描かれ、キャラクターは滑稽で現実離れした感覚を抱かせるもので、その面白さと美しさは絶品と言えます。アニメ『大暴れ孫悟空』『ナーザの大暴れ』には多くの京劇の音楽が使われています。こうした作品は中国アニメの最高峰であり、貴重な歴史文化の宝庫だと言えます。

2019 年 6 月、「中国アニメ・漫画の日本ツアー ―― 水墨の中から来る」展が大阪で開幕した。撮影/呂少威

 記者:マンガ・アニメは中日交流にどのような貢献ができると思われますか。この分野での今後の協力や交流に何を期待しますか。

 馬場:中国の大学で日本語を専攻する学生の多くが、日本のアニメが好きで日本研究に進んでいます。私が教えている北京大学でも、一部の学生が北京冬季オリンピックで通訳を担当し、中日両国のコミュニケーションの橋渡しをしました。この点で言えば、マンガ・アニメはもう中日交流に大きな貢献をしていると言えます。

 私は、今後、マンガについてもっと全面的な研究がおこなわれるべきだと考えます。たとえば、なぜこのマンガは日本で流行したのか、その魅力は何か。一部のマンガは日本では受けるのに、なぜ外国では受けないのか。こうしたテーマは文化研究にとって非常に重要です。中日国交正常化周年が、こうした変化が起きる節目の年になり、中国と日本が手を携えて、東洋の文化を世界へはばたかせてほしいと思っています。

【プロフィール】

馬場公彦(ばば きみひこ)

1958 年長野県伊那市生まれ。岩波書店の元編集長、北京大学外国語学院日本語学科外国人専門家。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科学術博士。1989 年岩波書店入社、『思想』編集者、『世界』編集者、学術一般書主任編集者、編集部副部長、部長を歴任。2019年に退職後、北京大学外国語学院日本 語学科外国人専門家となる。主な研究分野は東アジ ア研究、日中関係研究。

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