「米中対立の激化と日本」~拓殖大学海外事情研究所の富阪聡教授

6月24日、拓殖大学国際講座にて、同大学海外事情研究所の富阪聡教授が「米中対立の激化と日本」とのテーマで講演を行った。講演の主な内容は米中関係、中国の台湾問題に対する姿勢、欧州や中東、アセアンなどの中国との関わり方などで、米中対立の背後で進む各国の中国との関係構築の様子が示された。以下、講演内容を簡単に纏める。

 

■米中関係を読み解くキーワード

米国のブリンケン国務長官が6月、中国を訪問した際、米中関係について「簡単に春は来ない」と述べたように、米中は対立関係が続くが、米中対立を読み解くうえで2つのキーワードがある。

 

一つ目は言行不一致である。

 

中国側はこのところ、米国に対して「言行不一致」という言葉をしばしば発している。2021年1月のバイデン政権発足以降、過去5回の米中首脳会談で米国は中国に約束したことと実際の行動が一致していないためである。

 

米国が中国と約束した事項には、▽中国の体制変化を求めない、▽新冷戦を求めない、▽台湾の独立を支持しない、▽デカップリングを求めない、▽中国の経済発展を止めるようなことはしない、▽中国包囲網は築かないーー等々がある。しかし、米国側はこれらを守っているとは決して言えない。例えば、中国に体制変化を求めないとしているが、米国は「民主主義と専制主義の対立」と表現することで、中国に民主主義を強要しているともいえる。

 

二つめのキーワードは「中国ナラティブ」である。

 

ナラティブとは「物語」であり、イメージに基づくものである。例えば、「経済的威圧」の主語は中国になりがちだが、米国はこれまで数々の国に経済的威圧を行っている。ロシアに対する制裁もその一つで、ロシアへの制裁は1万件を超えている。

 

■中国が米国に対して強気な背景

中国は米国に対して対立を辞さない姿勢を崩さない。なぜここまで強気になれるのか。その背景を探る上では3つのキーワードがある。

 

一つ目はデリスキングである。デリスキングという考えは、ドイツやフランスを中心に広がっており、中国とデカップリング(切り離し)は不可能との現実路線の下、リスクを如何に軽減していくかというものである。

 

二つめはデスカレーション。これは主に中東地域で使われているもので、象徴的なのは今年3月、全国人民代表大会(全人代)開催期間中に発表されたイランとサウジアラビアの和解である。戦争・紛争から和解に動き、経済発展に軸足をシフトしつつある。

 

三つ目は、対立忌避。これはアセアン諸国が中心で、米中対立に巻き込まれたくないアセアン諸国の思惑が背景にある。

 

これらはいずれも、中国との経済関係を重視した現実的なものである。

 

■中国の最重要課題は「経済強国」

習近平氏にとっても、目下の最重要課題は台湾統一ではなく「経済強国」にすることである。

 

台湾問題に関する日本の報道も、一種の「中国ナラティブ」である。例えば、昨年秋の共産党大会の報道に際して、日本メディアは台湾問題について「武力行使を放棄しない」という部分のみを報道した。しかし、この文言の前には「最大の誠意と最善の努力で平和的統一を目指す」という前提文がある。また、武力行使に踏み込まざるを得ない場合でも、その対象は「外部勢力とごく少数の台湾分離・独立分子」とされており、決して台湾全体に向けられているものではない。

 

そもそも、中国が台湾に対して「武力行使を放棄しない」という方針は2005年から一貫しているもの。また、習近平氏は福建省の在任期間が長く、歴代の中国トップで最も「台湾通」で、台湾との関係を熟知している。

 

日本の「中国ナラティブ」の報道が中国の台湾問題への対処法の解像度を低めているが、実際のところ十数億の人口を抱える中国は依然として経済発展を重視している。

 

■中国の対抗策

経済発展を引き続き重視する中国が、米国への対抗策としているのが上海協力機構(SCO)である。SCOに今後はBRICs、OPECプラス、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)が加わる可能性がある。ドル決済に依存しなくてもよいように、アルゼンチンやブラジルなど南米でもこのところ、人民元決済が拡大している。

さらに注目すべきは、中国陣営に対するドイツとフランスの動きである。前述のようにドイツ、フランスはデリスキングの方向に傾き、経済面を重視した現実路線にシフトしている。フランスのマクロン大統領はBRICsサミットにオブザーバー参加も検討。日本としては、こうしたドイツ、フランスの動きから目が離せない。

 

※この記事は「香港ポスト2023年10月号」でもご覧いただけます。

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