広東香港マカオ大湾区、人材誘致育成の協力体制を如何に構築するか?

粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ大湾区、以下大湾区)の発展を推進することは新時代の国家戦略において重要な目標の一つである。「人材は第一の資源」で、人材誘致・育成の協力体制の確立は、大湾区のガバナンス体制の最適化、ガバナンス効果の向上、さらに大湾区全体の競争力の向上に重要な意義を持つ。

2019年に中国政府が発表した「粤港澳大湾区発展計画綱要」(以下、「綱要」)では、「教育と人材の一大拠点を築く」との方針を明確に打ち出している。大湾区が域外からの人材誘致のための良好な環境を形成するには、既存の行政区画の壁を突破し、人材の誘致・引き留め・育成の三位一体の人材の流れに関する新たな体制を構築しなければならない。

大湾区、人材協力での独自の優位性と基盤

世界の他のベイエリアと比べて、大湾区は豊富な土地、巨大な人口という資源を有している。これは大湾区域内での人材育成において独自の優位性といえる。各政府も人材面での協力を非常に重視している。中国共産党中央組織部の中央人材工作協調チームは2012年、広州市南沙、深セン市前海、珠海市横琴の3エリアを「広東・香港・マカオ人材協力モデル区」として「全国人材管理改革試験区」に指定。この3地域に先行試験の権限を付与した。その後「綱要」で、人材の一大拠点づくりの方針を明確に示し、広東省は実際の状況に基づき、数々の人材誘致策を打ち出し、人材面での協力のマクロ環境を最適化している。

もっとも、大湾区の人材面での協力には、人材の流れがスムーズでないこと、地域間の移動で均衡がとれていないこと、などの問題がある点も注視しなければならない。大湾区内の各市の間で拡大する公共サービスの連携ニーズと属地化管理の公共サービスの供給体制との間には矛盾が存在する。また、人材の地域間の移動はアンバランスだ。大湾区の人材分布は、中心都市から外側に向かうにつれて徐々に減少する構造となっている。香港、マカオ、深セン、広州は人材の集積度が高い一方、大湾区の東と西の人材密度は次第に低くなっている。

人材面での協力実現にあたり、基礎は誘致だが、カギを握るのは、その人材を引き留めることである。「グローバル人材競争力指数(GTCI)報告書」は、世界の都市の人材競争力指数を開発・評価したもので、このランキングで、サンフランシスコやニューヨークといったベイエリア、東京がトップ30に入っている。一方、大湾区の主要都市である深センは73位、広州は77位である。これは、深センと広州が人材誘致の魅力をさらに高めていく必要があることを示唆している。課題は人材の誘致というよりも、誘致した人材の定着を図ることである。統計によると、2019年に深センから流出した人材は、大湾区から流出した人材全体の46.43%を占めている。

「成長を目指す競争」は、地方政府間の同質化競争を生み出している。大湾区内の各都市の産業構造は類似しているため、技術人材の需要は同質となる。一方で人材の供給は少ないため、人材の需給がひっ迫。これにより、都市間が「競って」人材誘致を展開しており、こうした状況は大湾区の人材誘致・育成の統一計画推進に影を落としている。

三位一体の人材移動・協調体制

人材の秩序ある移動、協調発展は、大湾区の協力体制を構築するうえで重要な要素の一つである。現在、大湾区は人材誘致、人材引き留め、人材育成の三位一体の人材移動・協力体制を模索している。

三位一体の一つ目は、人材誘致の体制整備で、クロスボーダーで専門人材が営業できるよう政策連携を強化する必要がある。政策連携の一つ目は、細分化された政策ガイドラインと人材評価細則を打ち出し、クロスボーダーでの業務遂行を実現させること。次に人材を呼び寄せる環境づくり。大湾区の各都市では、広州市の「紅綿計画」、深セン市の「孔雀計画」など、地元の実情に合わせて人材激励計画を策定している。これらは、人材グリーンカード、定住奨励、定住補助、プロジェクト奨励などの措置を通じて、地域を跨いだ人材の移動を加速させる計画である。最後に、明確な基準を制定して個人の営業資格について、地域を跨いで認定(または評価)すること。前海は域外人材のための資格認証、共同経営、試験相互免除等の特殊な業務遂行資格の連携体制を構築している。広州市南沙は「一試三証」(一つの試験で、中国本土、香港、国際資格を承認されるもの)職業資格評価システムを実施。深セン市は率先して深セン市で働く香港の専門医に対して高級職位の認定業務を試行している。

二つ目の人材引き留めは、定着のためのサービスの体制を最適化し、障壁を取り除くことである。広東省は2018年、横琴、前海、南沙の自由貿易エリアで「台湾・香港・マカオ人員就業証」を免除。人の流れの障壁を取り除いた。同時に、関連措置を改善。雇用面では2021年、広東省が「粤港澳大湾区(内地)事業単位による香港・マカオ住民公募管理弁法」を公布した。これにより、条件を満たした香港・マカオ住民が大湾区本土側9都市の事業単位のポストに公募できるようになった。住宅面では、2019年末に大湾区住宅積立金情報共有プラットフォームが開設され、大湾区内で納付した人が別の場所で住宅積立金を使用する場合、1カ所で手続きできるようになった。子女教育では2021年7月、広州市に全国初の香港・マカオの子弟学校が開校した。

三つ目の人材育成では、プラットフォームの共同構築・共有できる仕組みづくりである。大湾区は大学・キャンパス間の協力を通じて人材プラットフォームを共同で構築し、人材育成資源の共用を推進。2016年以降、中山大学の提唱の下、広東・香港・マカオの3地域の大学は広東・香港・マカオ大学連盟を設立した。現在すでに28校が集まり、大湾区大学クラスターの形成で重要な役割を担っている。3地域の大学は「広東・香港・マカオスパコン連盟」、「広東・香港・マカオ海洋科学技術イノベーション連盟」などを設立。細分化された専門分野の科学研究プロジェクトの連携を効果的に推進している。また、「綱要」が公布されて以降、大湾区本土側9都市では、20の新大学の建設準備または着工が始まり、うち7校は本土と協力して学校を運営。人材プラットフォームの共同構築で人材育成資源の共有を目指している。

人材面での協力、海外の経験を参考に

経済のグローバル化が進展するにつれ、世界各国はグローバル規模で人材誘致合戦を展開している。こうした中、東京、サンフランシスコ、シリコンバレーなどの有名なベイエリアやハイテク産業パークの成功体験は参考に値するであろう。

多層的な人材誘致体制の構築にあたっては、シリコンバレーの経験を踏まると、ヘッドハンティング会社はグローバルなハイエンド人材の移動促進に重要な役割を果たしてきた。大湾区はこうした経験を参考にし、ヘッドハンティング機関を中心に、大湾区の重点産業、人材が不足している専門分野の需要と人材供給のマッチングを最適化することが重要となる。他方、大湾区本土側都市の人材誘致に対する規定は大部分が硬直的で、特にクロスボーダー人材の長期かつフルタイムの人材転入に注力している。これは、大湾区の東部と西部の都市での人材を呼び寄せの吸引力低下につながっている。こうした問題に対しては、上海の人材誘致策を参考にすることが可能ではないか。本土域外からの人材誘致において、広東省での短期勤務(または兼職勤務)を奨励・支援し、長期勤務と短期勤務の人材の均衡を図るのである。

長期的な人材確保の体制を構築するには、業務保障の面で制度の障壁を打ち破り、政策の連携を実現する必要がある。将来的には、既存の試行プログラムを踏まえた上で、関連機関が協力して人材需要リスト、資格認定リスト、参入許可ネガティブリストを作成し、香港・マカオ人材の広東省での業務に障壁・負担がないよう推進すべきである。生活保障面では、域外人材のため生活サービス保障を提供し、定住、居住、出入国、医療、子女教育、社会保障などの付帯サービスの面でより完備した制度を提供する必要があろう。

人材育成の協力体制を構築する上では、1980年代に米国で成功を収めた「ルート128」(マサチューセッツ州ボストン周辺の国道128号線付近に位置するマサチューセッツ工科大学を中核にハイテク企業の集積地を形成したもの)モデルを参考にすることができる。同モデルを参考にすることで、大湾区内の大学が有する人材、イノベーションリソースの優位性と、都市が有する資本、政策優遇、公共サービスを結び付け、人材要素マップを形成。多方面の人材を育成することができよう。また、東京ベイエリアの建設方式を参考にし、広東省と香港の科学技術イノベーション協力計画を推進。プロジェクトの決定、実施、評価、検証などの過程で広東省と香港、マカオの3地域の人材育成面での協力を促進することも可能である。

大湾区での人材面での協力体制の構築は、システマティックな管理プロジェクトである。人材の誘致、引き留め、育成の仕組みを整備し続け、人材の流れを管理する新たな枠組みを構築する必要があろう。

著者プロフィール:

王清:中山大学政治公共事務管理学院教授、博士課程教官、中山大学政治科学学主任、国家教育部重点研究基地北京大学国家統治研究院研究員。北京大学政治学博士、中山大学公共管理学博士課程修了後、米カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)、日本国立政策研究大学大学院(GRIPS)客員研究員等

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