中国史劇を彩る装飾品:鳥の数で身分を分ける「翟冠」①
前回は、中国の皇后や高位の女性が重要な儀式や婚礼の際に着用した伝統的な頭飾り「鳳冠(ほうかん)」についてご紹介しました。今回は、もう一つ代表的な冠「翟冠(てきかん)」の工芸技術について重要な装飾とともに理解を深めていきましょう。
翟冠(てきかん)
翟冠は、金鳳(きんほう)、花樹(かじゅ)、挑牌(ちょうはい)で構成されます。金鳳は累絲(るいし)工芸で作られており、冠の本体と頂部の両側に飾られています。左右の鳳凰のくちばしには、それぞれ真珠を連ねた飾りが吊り下げられています。
品級の区分
翟冠の品級は、飾られる翟(てき)の数によって区分されており、品級が高いほど、翟の数も多くなります。『明史・輿服志三』には次のように記載されています。
「(命婦の冠服)一品には、金製の飾りを用い、翟は五羽…… 二品から四品までは金製の飾りを用い、翟は四羽…… 七品から九品までは、鍍金(ときん)の銀製飾りを用い、翟は二羽……」
使用者
翟は身分を示す標識として用いられ、象徴的な意味を持つ冠服の装飾として使用されました。これは皇后、皇妃、明代の命婦などに着用されていました。
顧起元(こ きげん)は『客座贅語』第四巻において、次のように記しています。
「今、留都(南京)の婦人の装飾では、頭に翟冠をかぶり、七品の命婦が着用している。古くはこれを“副(ふく)”と呼び、また“歩揺(ほよう)”とも言った。」
翟とは
翟(てき)は、中国古代において身分を区別するために用いられた伝統的な造形で、その原型は中国特産の鳥、紅腹錦鶏(キンケイ)です。
『爾雅・釈鳥』では、次のように注釈されています。
「彆(べつ)とは雉(きじ)のことで、山鶏に似ており、冠が小さく、背中の羽は黄色、腹は赤く、首は鮮やかな緑色をしている。」
紅腹錦鶏は「華虫(かちゅう)」とも呼ばれ、唐代の楊炯(ようけい)は『公卿以下冕服議』の中で次のように述べています。
「華虫とは雉のことである。五色の羽を持ち、聖王の文と武を兼ね備えた姿を象徴している。」
江蘇人民出版社『天上取様人間織ー≪玉楼春≫里的服飾之美ー』より一部引用(筆者翻訳)
前回記事:「中国史劇を彩る装飾品:「鳳冠」に宿る数多の伝統技術」はこちら