私たちはなぜパンダを愛してやまないのか?(その3)

より深い愛

 雅雅は2年前、いつでもパンダに会えるようにと成都に移り住んだ。いまは週に2~3回のペースで、四川省各地にある「パンダの家」〔繁殖研究基地〕や、全国各地の動物園を巡り、パンダの姿を写真に収めている。雅雅は大学卒業後、数年間香港で働いており、香港オーシャンパークの4頭のパンダとの日々は忘れられない思い出だ。その中の1頭「佳佳(ジアジア)」の死は、いまでも思い出すだけで嗚咽が止まらない。佳佳がこの世を去った後、雅雅は2週間の休暇を取って、パンダに会うため成都を訪れ、そこで佳佳の子孫「クランベリー」に出会った。そのときの旅行がきっかけで成都と四川省が好きになった雅雅は、その後数年間、休暇のたびに四川省を訪れ、ついには成都に移住を決意したのだった。

2016年9月29日、四川成都パンダ繁殖研究基地にて、集合写真を撮るため、この年に生まれた赤ちゃんパンダ23匹を並べる飼育員。写真/視覚中国

 この10年で、SNSの隆盛とともに、パンダマニアの裾野も急拡大し、「パンダ愛好家の輪」のようなものが出来上がり、パンダを愛して止まない人々は仲間と出会えた。図図は、ほぼ毎月パンダに会うため中国にやってきて、成都や中国各地の動物園を回る日本人と知り合った。また、ある年金生活者の女性は、成都のパンダ基地付近にいつも部屋を探して泊まっている。この女性は、基地にいるパンダを全て見分けることができるという。

 ここ数年、小喬の週末は、起きたらまず微博(ウェイボー)〔Weibo〕の「iPandaパンダチャンネル」ライブ配信を開くことがルーティンになっている。小喬の入っているQQチャットグループや、微信(ウィチャット)〔WeChat〕のグループには、数千人のパンダマニアが集う。最初に入ったQQのパンダマニアグループには決まりがあり、参加者はパンダの名前をニックネームに使うことになっていた。こうして、彼女はネット上で、パンダの小喬の名前を名乗ることになった。

 パンダにハマって何年も経てば、こうしたパンダマニアたちはパンダに関してかなりの知識を蓄えるようになり、もはや単純にパンダの外見に引かれるようなことはなくなる。

 長年パンダを見てきた雅雅も、かわいいだけではない彼らの別の顔を知るようになった。パンダは決してどんなときも悩み一つなく天真爛漫でいるわけではない。彼らにだって感情はあり、辛いときもあるのだ。パンダのコンディションの良し悪しを、雅雅はほぼ一瞬で見分けることができる。パンダのコンディションは、生活空間の狭さ、エンリッチメント施設の不足、飼育員の不足、医療条件の劣悪さなど、生活環境が関係していることも多く、そういった場合は、ファンたちが立ち上がり支援をおこなう。

 ファンはパンダの生育環境をモニタリングしている。小喬によれば、以前、基地からパンダをレンタルしていたある動物園が、パンダの生活空間を十分に確保していなかったことがあり、ファンらが動物園と林業局にクレームを入れた結果、その動物園へのレンタルが停止され、パンダは連れ戻されたことがあった。また、北方のある動物園で、河南省の竹をパンダに与えていたところ、パンダがあまり食べようとしなかったため、ファンが働きかけ、四川省から運ぶ竹に変えさせたこともあった。

 雅雅も小喬も、多くの人が、パンダのかわいらしさをながめるだけでなく、パンダをもっと知ることで、パンダの保護がさらに進んでほしいと願っている。

2人とも、パンダに関する科学的知識があまり普及していない現状にもどかしさを覚えている。パンダに対する誤解が出てきたときに、正しい見解を述べたり誤解を解いたりする社会的信用ある発信者が存在しない。基地や研究所などのオフィシャルアカウントは、普段のつぶやきでパンダのかわいらしさを見せるだけで、パンダに関する体系的な知識を発信していない。これほどパンダに関する研究が進んでいるのに、パンダに対する人々の知識は表面的なものに留まっている。両者をつなぐ架け橋が必要だ。

 パンダがいかに有名であろうとも、所詮は希少動物の一種に過ぎない。「国宝」の名の下に、最高の資源を独占するのは考えものだろう。

パンダマニアの中には、徐々に野生動物全体の種の保存に関心が向いていった人もいる。

「国宝と言えばパンダであることは今後も変わりないと思いますが、他の絶滅危惧種の多くは、パンダよりずっと事態が深刻で、それでいて注目する人は少ないのです。」パンダを好きになったのは顔のかわいらしさがきっかけだったが、長くファンをやってきた結果、動物保護の気持ちが芽生えたと小喬は言う。「フラッグシップ種」であるパンダの影響力は、他の動物の保護に関心を向けてもらうことにも生かせるはずだ。

パンダはもはや中国で最も絶滅の危険性が高い種ではなくなった。しかし、最も注目度の高い「フラッグシップ種」であることに変わりはなく、世界自然保護基金(WWF)もパンダをロゴマークに採用している。

 「フラッグシップ種」とは、一般の関心を引きつける力があり、社会の生態保護に特別なカリスマ性やアピール力を備えている種のことだ。中国のフラッグシップ種には、アムールトラ、ジャイアントパンダ、アジアゾウ、ハイナンテナガザル、フタコブラクダ、ヨウスコウカワイルカ、ヨウスコウアリゲーター、トキ、シフゾウ、青海湖裸鯉〔青海湖湟魚〕、ジャコウジカ、セイホウサンショウウオなどがある。トキとシフゾウ以外の種は、いずれも1960~1980年代に激減し、なかには絶滅の危機に瀕した種もあった。80年代以降は、パンダとアジアゾウの個体数が徐々に回復したのを除き、他の種の状況は好転したとは言えない状態が続いている。

 雅雅は時間が空けば、論文や専門書にも目を通し、野生動物保護に関する知識を深めようと努力している。ネットでどんなにあれこれ騒ごうと、野生パンダをはじめとする野生動物には何も届かず、彼らを常に見守っているのは、専門の研究者か保護活動家しかいない。2015年2月28日に国家林業局が公表した第4回全国パンダ調査の結果によれば、2013年末時点で、中国全土の野生パンダの個体数は1864匹だった。パンダはついに「絶滅危惧種」を脱出し、絶滅危険度は「危急種」に引き下げられた。

(本人の希望により、図図、雅雅、小喬は仮名)

※月刊中国ニュースより転載

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