多種多様な文化の存在が「共同体意識」を強化、少数民族地域の雲南の専門家が解説

中国では人口の9割以上を占める漢族以外にも、55の少数民族が認定されている。そして、それぞれの民族が固有の文化や芸術を伝承している。しかし、伝統文化の“衝突”は発生しないのだろうか。「芸術と心理の健康」を専門とする雲南大学の李世武教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国ではある民族のよい文化や芸術を別の民族が吸収することで「大家族の一員」という意識が強められてきたと説明した。以下は、李教授の言葉に若干の説明内容を追加して再構成したものだ。

中国には多くの民族が存在し、伝統文化の種類も多い。そして各民族が互いに吸収しあうことで国全体としての「共同体意識」が強まる現象が発生したという。写真は貴州省などに多く住むミャオ族の人々。

■民族文化にはそれぞれ異なる部分と共通する部分がある

民族は人類を分類する重要な方法の一つだ。そして、民族は人類全体の文化に多様性を与えてきた。しかし一方で、さまざまな民族の文化には、人類として共通する部分がある。中国南西部ではさまざまな民族が、民族としては別でも祖先は同じという神話を、伝えてきた。この現象には、「族」という範疇(はんちゅう)の上に「人」という範疇が存在する哲学的内省が込められている。

中国の各民族の知恵は、文化の多様性の面で「和して同ぜず」という考えに象徴されている。他者と同一になることはしなくても、調和して共存するということだ。そして、異なる民族との生活における交流が盛んになれば、文化の面でも交流は盛んになり、互いに学び取ることも増えていく。

貴州省侗族(トン族)の人々

■「異の中に同あり、同の中に異あり」の状況が出現

そうなれば、芸術の面で「同」の部分も増えることになる。しかしそれは、完全に同一になることではない。他の民族の芸術を参考にして、自民族の本来の感情や題材、技巧を生かす。そうして新たな芸術が登場する。つまり「異の中に同あり、同の中に異あり」といった状況が出現する。

例えば、イ族が伝える長大な叙事民謡の「董永記」だが、その元になったのは漢族に伝わる「大孝記」と考えられている。構成や細かい内容で類似する部分が多いからだ。イ族の「董永記」は「大孝記」に比べて複雑で、内容も豊富だ。そしてイ族の民族文化の色彩がある。しかし両者とも「師の恩」「婦徳」「孝」という三つのテーマを扱っている点では同じだ。

中国において各民族の交流は伝統芸術の豊富な滋養源になった。そして「芸術が通じれば心も通い合う」という現象が発生する。それは中国全体としての共同体の意識を強めることにつながった。

人口が圧倒的に大きい漢族が、その他の民族の芸術に与えた影響は大きい。かつて契丹で作られた遼三彩は漢族の陶器の影響で制作されるようになったものだ。ペー族に伝わる大本曲、モンゴル族に伝わるウルゲルという弾き語りの芸術遺産も、少数民族が漢族の芸術を吸収した典型的な例だ。しかしながら、漢族の伝統を単に引き写したのではなくて、それぞれ自民族の特徴が濃厚にあらわれている。

■ 漢族も少数民族の文化芸術を大いに吸収した

漢族も、少数民族の文化や芸術を多く取り入れた。漢族文化は変容しつつも漢族としての特徴を残した。漢族文化が少数民族文化の寄せ集めであるわけではない。中国を代表する楽器の一つと見なされている二胡だが、漢族がこの楽器の原型を使い始めたのは北宋時代か、さらにさかのぼってもせいぜい唐代の末期で、漢族全体の歴史を考えれば「新参者」の部類に属する。この楽器は北方民族から伝わったとされる。そして漢族は今では、自らの心情をこの楽器に託して奏でている。

貴州省侗族(トン族)の人々

少数民族同士の芸術交流については、中国でも特に多くの民族が暮らす雲南省で、典型的な状況を見ることができる。それぞれの民族は自らの伝統芸術に、極めて自覚的だ。しかしそれでも、他の民族のよい伝統は吸収する。雲南ではさまざまな民族が多彩な芸術を作り伝えてきたが、交流と吸収を通じて芸術が形成されてきたことを考えれば、創造と伝承はすべての民族の共同作業の結果と理解してよい。

さまざまな民族が交流と吸収を通じて芸術、さらには文化を形成されたことで、中国では国としての共同意識が強まることになった。このことには、中国以外の多民族国家も参考にする価値があると考える。(翻訳:Record China)

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