東西問|李庚香 黄河文明はなぜ唯一無二なのか

2023年2月1日 出典 中国新聞網

執筆者 李庚香氏(中国河南省社会科学界連合会会長、研究員、博士)

黄河は中華民族の母なる川である。新しい形の人類文明の創造という視点に立つと、中国文明が「河図洛書」から「礼楽文明」そして「礼法文明」へ連続性と紆余曲折(転換、移動、変化を含む)というプロセスを経たことを黄河文化、黄河文明から読み取ることができる。

黄河文化から黄河文明への飛躍をどう認識するのか

『漢書・溝洫志』には「中国の河川は数百あるが、四瀆(黄河、済水、淮河、長江)ほど目立つものはなく、その中でも黄河が宗主である」とある。水は生命の源であり、川は文明の母であり、川の特性は文明の特性を形成する。「四大古代文明」である古代メソポタミア文明、古代エジプト文明、古代インダス文明、中国文明は、それぞれチグリス・ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、黄河によって生まれはぐくまれた。

文明が始まって以来、夏から北宋に至るまで、多くの王朝が黄河流域に都を築いてきた。古代から現代まで、黄河流域は長い間中華民族の政治、経済および文化の中心地であった。黄河を国運、国家の命脈という観点から見ると、中華民族の命運が黄河の栄枯盛衰と密接に関係しており、過去・現在・未来を完全に理解することによって初めて中華民族にとって黄河が持つ独特で特徴的な意味を深く理解することができるのである。

歴史発展の長い流れの中で、黄河流域において東西の文化が交流、融合し、多民族が長期にわたって融合発展する中華民族を形成しはぐくんだ。それは、「すべての姓は同根、すべての氏族は同源」という民族文化的アイデンティティと、大団結を尊ぶ社会意識の主流を形成し、「和を尊ぶ」「大同を求む」という中華民族独自の精神的アイデンティティを明示するとともに、中華民族の深い文化的遺伝子を蓄積し、中国の子どもたちの文化的自信の現れを示すものである。

2022年4月3日(旧暦3月3日)壬寅年に黄帝の故郷の河南省新鄭市での祖先崇拝の儀式=韓章雲撮影

異なる黄河の文化体系をどう認識するか

中原文化や河洛文化は地域文化であり、黄河文化は流域文化である。しかし、中華民族にとって黄河文化は、流域文化であるばかりでなく、民族文化および国家文化でもある。黄河文化体系については、歴史的進化の次元、地域的調和の次元、地勢的な次元、制度および法的な次元、人文思想の次元という5つの側面から理解する必要がある。

黄河文化体系は、時間的、空間的に生み出された思想、制度、モノであると言える。言うまでもなく、この複雑な文化体系は、複雑な「凝集」と「輻射」というプロセスを経ている。以天為則(天をもって則となす)、以民為本(民をもって本となす)、以史為鑒(史をもって鏡となす)、以文載道(文をもって道を記す)を含む凝集のプロセスは、礼楽文明から礼法文明への価値変遷のプロセスである。輻射のプロセスは、以文化人(文をもって人を化す)、以理服人(理をもって人を服す)、以情動人(情をもって人を動かす)、以美育人(美をもって人を育む)ことであり、中原から中部へ、中部から中華へ、中華から中国へと空間的に展開されるプロセスを体現することである。

黄河文化体系は、羲皇、炎帝、黄帝を起点とし、長安―洛陽―開封を軸とする。その連続性と紆余曲折を経た進化発展の過程には、礎の一万年前、始動の八千年前、加速の六千年前、進出の五千年前、過渡的な四千年前、強化の三千年前、転換の二千年前、移動の千年前、変化の二百年前という段階があるということができる。

山西省永済市の凍った黄河河床の航空写真=宝成撮影

複雑な黄河文明体系をどのように理解するのか

黄河文明は中国文明の骨格であり主体である。早期の中国が集落から国家へ、統一された多民族国家が世界へ、滅亡の危機から再生へ変化する中国、勃興から復興へ革新する中国の全過程を記録したものである。その最大かつ最も本質的な特徴は、「断裂していない」ことであり、世界文明史上において類を見ないことである。

黄河文明は、中国文明の複雑な構造を体現しており、中華民族の動力源である。中国文明の複雑な構造を新たに分析するためには、黄河文明体系を認識し、理解するための思考の枠組みを確立することが必要である。そのためには、文明に対する理解を体系的に系統化し、黄河文明に関する多次元的かつ大規模な体系的研究の強化が必要である。ここでは、黄河文化の「根、源、幹、魂、家」という位置づけを重点的に把握しなければならない。

根には祖先、同族、ルーツが含まれる。源には地球の起源、生物の起源、人類の起源が含まれ、さらに農業の起源、文化の起源、文明の起源および国家の起源が含まれる。中国文明を大樹に例えるなら、根と魂である黄河文化は、主体であり幹である。いわゆる家は、発祥の地、中核地、ハブを指し、精神的な家、心の故郷という意味でもある。

黄河文化は強い結束力と求心力を持つ。特に天下為公(天下をもって公となす)、天人合一(てんじんごういつ)、為政以徳(政をなすには徳をもってする)、民為邦本(民は邦の本をなす)、任人唯賢(任命は唯才覚に由る)、革故鼎新(故きを革め新しきを鼎る)、自強自息(自勉して息まず)、厚徳載物(こうとくさいぶつ)、講信修睦(信を講じ睦を修める)、親仁善隣(仁に親しみ隣に善くする)等の中国文化の十大遺伝子を有している。中華民族の五千年にわたる深遠な思想創造を支えているのは、こうした思想の本質である。

2014年7月、デンマーク、スペイン、ベルギー、米国、カナダなどから「ルーツを探す旅」に参加した100人の中国系の教師と学生が黄河壺口瀑布(陝西省延安市)を訪れた=張遠撮影

黄河文明と世界文明との交流・相互学習をどう理解するのか

新時代、黄河文明と世界文明の交流と相互学習を実現するためには、中華民族共同体の建設と人類運命共同体の建設を一致させ、中華民族の現代文明を築き、和して同ぜず、多文化共生のすばらしい世界を築く必要がある。

大禹の治水以来、中華民族は偉大な河川文明を形成し、四大古代文明の中で重要な位置を占めている。秦・漢から明・清にかけて、黄河流域では農耕文明を主体に、遊牧文明、海洋文明(海あり洋なし)などの地域横断的な多文化共生の状況が形成された。上古の時代から、夏・殷・周の文化と西アジアとの交流、後漢時代以降の中国とインド文化の交流、さらには鄭和の西域訪問など、黄河文明は常に世界の文明と好循環を続けてきたのである。

山西省臨猗県の黄河に架かる橋の建設が本格化=姜華撮影

黄河文明の五千年の歴史と西欧列強が台頭した五百年の歴史を比較すると、「生産の社会化」が黄河文明の新しい発展の基礎とならなければならないことがわかる。そのためには、新時代の黄河文明を新しい発展パターンに統合する必要がある。このため、新時代の黄河学の建設は、核心価値を使って人々の心を一つにし、力を集めるだけでなく、共通価値を使って各国の人々がお互いを知ることを促進し、個人の価値と核心価値、核心価値と共通価値の二重サイクルを実現するために努力することが必要である。同時に、世界文明の多様性を尊重し、文明の交流で文明の壁を越え、文明の相互評価で文明の衝突を越え、文明の共存で文明の優劣を越え、「歴史終結論」「文明衝突論」「普遍的価値論」「西欧優越論」を効果的に分析し、世界の諸問題に取り組み、百年に一度の大きな変化の世紀の中で黄河から始まる世界文明史を書き記す。(完)

執筆者李庚香氏プロフィール

中国河南省社会科学界連合会会長、研究員、博士。主にリーダーシップ、中国式現代化および人類文明の新形態についての研究に従事。

責任編集:黄鈺涵

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