現代の中国女性に対する世界のイメージとは――オーストラリア・メルボルン大学のフラン・マーティン准教授に聞く
6月初旬、中国初の女性宇宙飛行士である劉洋(リウ・ヤン)氏が再び宇宙へと出発した。また「神舟 13号」の女性宇宙飛行士、王亜平(ワン・ヤーピン)氏も無限に広がる宇宙で中国女性の存在感を示す。世界は現代の中国女性に対してどのような印象を抱いているのだろうか。オーストラリアにあるメルボルン大学の文化・コミュニケーション学科フラン・マーティン准教授は単独取材の際、中国女性が世界に示す自信、才能、自己表現の巧みさ 思考能力の高さは西洋の中国女性に対するステレオタイプな印象を打破しており、彼女たちはグローバルな舞台で輝きを放っていると世界から見られている、と語ってくれた。
中国新聞社・記者/柴敬博 翻訳/神部明果
記者:現代の中国女性の特徴は何だと考えて いますか。特に強く印象に残っている点は何 でしょうか?
マーティン:新しい中国女性に対する私のイメージは、志の高さ、高学歴、国際的流動性の高さです。彼女たちは「適齢期に結婚し子供を産むべき」という伝統的な考えと決別し、個人の自我の発展をより重視しています。中国の中産階級はますます拡大しており、こうした繁栄は中国の女性に大きなメリットをもたらすからです。
中国教育部の統計によれば、約6割の海外帰国組が女性であり、これがここ数十年間における中国の女性教育の大きな進歩をまず証明しています。私はこの数年間、オーストラリアの中国人女子留学生 名とその家族についての追跡調査をおこなってきました。
この研究により中国の改革開放後の社会経済面における大きな成果を全面的に理解できました。1979年以降、中国の中産階級は大幅に増加し、とりわけ中国女性の生活水準や教育レベルは高まり続けていますが、これは中国の経済社会の繁栄によるものです。
私の研究結果によればこの 人のご両親の一部は中国の経済発展における困難な時期に生まれています。例えばある研究対象の父親は中国の農村に生まれましたが、彼が1980年代に初めて手にしたまとまった資金は道端で野菜を売り稼いだものでした。父親はこの30年後に自身の努力で豊かな生活を手に入れ、中国で第一陣となる中産階級となったことで娘にグローバルで多元的な教育を海外で受けさせることができました。こうしたサクセスストーリーは大変素晴らしいものです。
記者:一部の欧米メディアは消極的でマイナスな中国女性のイメージを発信し、国際社会の中国女性に対する認知や判断に影響を与えています。現在では多くの中国女性が海外留学を経験し世界の舞台で輝きを放っていますが、彼女たちは欧米社会の中国女性に対する古いイメージにどういった影響を与えていますか。また、欧米社会の認識にある中国女性のイメージはどう移り変わってきたでしょうか。
マーティン:歴史的な観点からみれば、欧米メディアが伝えてきた中国女性のイメージには問題があると、少なくともそう言うことはできます。それはオリエンタリズムに基づき中国女性を「従順で地位が低く伝統的な性別役割に沿った美しい女性」、または凶悪、横暴で強気な「ドラゴンレディー(東アジアの女性に対する偏見や型にはまったイメージ。1930年代の米映画『テリーと海賊』に由来)」のように捉えるものです。こうした型にはまったイメー ジときわめてリスペクトの低い見方は、欧米社 会で生活する中国女性にとってストレスになるはずです。不幸なことに、欧米メディアは現在でも中国女性に対するこうした見方や決めつけを流布しています。
しかし、海外留学を経験する中国女性が増えたことで、大学の講堂で大量の若い中国女性を目にするようになりました。彼女たちは才能と自信に溢れ、自己表現に長け思考能力も高く、上述のようなステレオタイプな印象は現在根本から揺らいでいると考えます。世界の大学職員や学生たちが、こうした優れた中国人女性に接する機会がもてて心から嬉しいと、そう思える人たちであってほしいとも思います。
記者:女性のイメージは国家イメージのひとつの側面といえますが、西洋と東洋では女性イメージの発展や変化にどのような違いがあるでしょうか。
マーティン:私は女性の社会的地位の向上に対する中国の努力に以前からとりわけ感銘を受けており、素晴らしい成果です。ですが我々は男性優越主義や父権主義が依然として存在することを認めざるを得ません。西洋の歴史においては19世紀末~20世紀にフェミニズム闘争が何度か発生し、かつ今日まで続いています。国ごとに状況は異なりますが、スカンジナビア半島の国々(フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど)のジェンダー平等における成果は米国、イギリス、オーストラリアをはるかに上回っています。当然ながら中国、日本、韓国、インドなどアジア諸国の女 性も自身の歩む道に従い女性の平等を手に入れようと努力しています。
どのような状況においても政府が主導する改革は女性の社会的地位向上にきわめて重要です。我々は有力かつ執行可能な立法と国の支援によって就職市場における性差別や男性の特権を排除すべきです。家庭面では政府の支援により父親と母親に育休や育児手当を提供し、女性が出産・子育て後に職場に復帰できるようにします。また教育面では学校でジェンダー平等の原則について教えるよう定め、社会全体においてはいかなる領域であっても性差別に対しては法的制裁を与える必要があるでしょう。フェミニストは長年にわたり関連する法律や政府の構造さらにはより広範な社会観念を変えようと努力を続けることで女性の平等を後押ししてきました。世界各国にはいずれも継続的な努力が求められており、我々が歩むべき道はまだ長いのです。
記者:近年、中国では「女性」を題材とした文学、映像作品、社会トピックスが増えています。現代の欧米の芸術作品でも女性に関する描写がさらに多元的になっていますがこうした現象をどう捉えていますか。
マーティン:中国についていえば、女性を中心に据えた娯楽メディアの登場は、私が冒頭で述べた新しい中国女性イメージの1つの表れかもしれません。
例えば仕事で成功を収めた女性にスポットをあてたテレビドラマ、小説、映画が増えています。多くの若い女性は自身の経験がこうした作品の登場人物のなかに反映されているのを目にしており、メディアの制作側も意識的にこうした女性をストーリーのターゲット層にしています。
現在の中国社会では女性のジェンダー・アイデンティティーにおいて多くの矛盾が生じており、影響力のある一部の人々は「伝統的な」価値観が最も好ましく、成人女性の価値は家事への献身で決まるはずとの考えを彼女たちに植え付けようとします。また一方で、女性は独立し自主的に自身の事業、生活の目標や願い、夢を追い求めることで自己実現する能力があり、実際にそうすべきだと考える人々もいます。一部の流行メディア、例えば女性にスポットを当てるテレビ・ラジオ番組は、女性が自身の生活の中で複雑かつ緊張したジェンダー関係をコントロールできるよう支援することを目指しています。
記者:昨今、世界の女性意識が覚醒し「ジェンダー・ステレオタイプ」に対する偏見がますます多くの人に拒絶されてきていますが、真のジェンダー平等はどうしたら実現できるでしょうか。
マーティン:完全なるジェンダー平等を実現できている国は世界中一つとして存在せず、真のジェンダー平等の実現のためにやるべきことは依然として多いといえます。資本主義国家の長期的な経験は、当然ながら市場経済がジェンダー平等を促進することはありえないことを物語っています。このためジェンダー問題における正義を推し進めるべく政府が関与していくことは欠かせません。
世界には「性差別、セクシュアルハラスメント、就職市場におけるダブルスタンダード」などジェンダー関係の問題を抱える国が多く存在します。経済社会の現発展段階における性差別の影響というのは依然として存在しますし、伝統的な家父長制への挑戦や自身の発言権向上に対する女性の積極的な役割を台無しにしています。例えば就職市場、特に民間企業の女性に対する偏見はいまだ存在しているのが事実です。雇用主は、独身女性は近いうちに結婚・出産するため、自分たちが彼女たちの産休コストを負担せざるを得ないと当然のように考えます。そのため多くの雇用主が、男性求職者の方が好ましいと公然と宣言し、才能溢れる大勢の新卒女性がその能力に完全に見合った仕事にありつけない事態を生んでいます。こうした状況には目を向けるべきであり、古い意識を打破するための道のりは長いと考えます。しかし同時に、今後必ず変わっていくという確信もあります。
【プロフィール】
フラン・マーティン(Fran Martin)
オーストラリアのメルボルン大学文化・コミュニケーション学科准教授、博士、作家。特に現代中国のテレビ、映画、文学およびその他の形式で生産される文化の研究に注力。現在は5年間の「ARC Future Fellowship」研究プロジェクトを主宰し、国際社会における中国の若い女性のイメージや社会的地位の変化に注目している。