袁剣 中央アジアと中国との文明交流のあり方〜理解と相互学習〜

袁剣 中国中央民族大学民族学・社会学学院准教授

 世界の一部としての中国と世界の関係は、私たち自身の歴史的地位と将来の役割を理解する上で不可欠な部分を形成している。世界の大国である中国の広大な国境に接する周辺部、およびこの周辺部にある多くの国や地域は、周辺部や域外、特にグローバルガバナンスにおける周辺地帯を理解するための重要な思想史的な基盤に大きく影響している。

 一般的に認識されている中央アジアは、地理的にはユーラシア大陸の中央の内陸地域に位置し、東は中国の新疆に、南はイランおよびアフガニスタンに、北はロシアに、西はカスピ海に隣接するカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスおよびトルクメニスタンの5カ国で構成されている。1991年のソ連崩壊と中央アジア5カ国の独立は中国にとって近代以降最大の地政学的出来事であった。今年は中国と中央アジア5カ国との外交関係樹立30周年にあたる。この節目に、中央アジアとこの地域の国々をより深く理解し、さらに中国と中央アジアとの文明の相互学習と意思疎通を深めることが求められている。

 中央アジアを遠望する−対外認識のパラダイム的な始まり−

 「地図で見ると、この広大な地域は自然が地球上に偉大な文明を形成したいくつかの地域の間に意図的にこのような障壁をつくり、相互の文化交流を遮断したように見える……」とかつて著名な探検家スタインは、中央アジアの地理的および文化的特徴をこのように記述している。実際、中央アジアは海から最も遠い地域にあるため、歴史的にはしばしば周辺の大国の緩衝地帯として機能してきた。同時に、この緩衝地帯としての役割はある種の「つながり」という意味も含まれていた。まさに著名な中央アジア史の研究者である羽田亨博士が「アジアの遠く離れた強大な国々もこれらの地域によって相互につながりを得て切り離せない関係を作りだした」と述べているとおりである。

 紀元前139年、張騫は漢の武帝に西域開拓を命じられ、10年以上にわたって派遣された。これは長い歴史の中での一瞬の出来事かもしれないが、中国の対外認知のパラダイム的な始まりであった。これが示しているのは、中国史における地政学的勢力の二極関係の中で、第三勢力とその闘争戦略である。古典的な経験と歴史的な実践に基づく長大なパラダイムは、ユーラシア内の力関係について理解をある程度深め、ユーラシアの「世界の島」についての理解を再構築することさえ可能にしているのであった。同時に、こうした構造的関係の形成は、中国の北西部辺境における自国の安全保障の重要性に対する歴史的認識にも大きな影響をおよぼした。その中で、ユーラシアの主要な文明を結ぶ敦煌の物語と伝奇は、古代中国と中央アジアの相互理解や認識が豊かで多彩な姿を示している。

歴史舞踊劇『張騫』=中新社提供 劉新記者撮影

 もちろん、中国が中央アジアを理解するプロセスは、この地域の内的特性や文明の変遷を体験するプロセスでもあった。中央アジアは歴史的に何度も民族の移動と宗教の変遷を経験しており、その文明形態は段階的で多様なホットスポットであることを示してきた。近代になると、西側列強の侵略、特に英国とロシアのグレート・ゲームにより、この地域も次第に植民地秩序のネットワークに組み込まれ、古代における中国とこの地域の密接な交流の歴史は、この植民地秩序のネットワークが壊れる20世紀まで、次第に曖昧となり忘れ去られることになった。

 地域における新しいポジション−中央アジアの独自性−

 世界史の研究における世界システム論(world-system theory)は、東南アジアやラテンアメリカを含む地域の世界システム全体における位置と役割を中心−周辺関係の観点から体系的に分析を行い、近代において東南アジアが次第に世界全体の分業システムの従属的な部分となり、政治権力構造において西側勢力の周辺的な役割を担うようになったことを明らかにした。また、ラテンアメリカの議論にも同様の意味がある。中央アジアは、世界システム全体における位置づけと役割について、深い分析や討論が欠けているように思われる。

 実際、現代資本主義世界の視点から世界システムを見ると、中央アジアを通るシルクロードは、ある意味でユーラシア大陸を東西に結ぶ架け橋であり、古代の世界システムの重要なリンクであったことがわかる。モンゴル大征服の時代になると、広い意味での中央アジアを中心に歴史上初めて世界の政治、経済のシステムが形成され、その栄光は17世紀まで続くことになったのである。その後、西洋の海上貿易と海上軍事力の拡大に伴い、ユーラシアの世界システムの中心を占めていた中央アジアは、かつての地位を失っていった。

中国新疆ウイグル自治区昌吉市の「シルクロード」をテーマにした大型雪像=中新社提供 劉新記者撮影

 世界システム論者、思想家として有名なグンダー・フランク博士(Gunder Frank)は、著書『リオリエント』を通じて、東南アジア特に近代化している中国の重要性を浮き彫りにしたが、注目すべきことは、中央アジアの連結性についても鋭い分析を行い、世界システムにおける「中心性」(Centrality)を問題提起している点である。世界システムの歴史を体系的に分析しようとするすべての人にとって、中央アジアは中心的な存在であると指摘した。中央アジアは、世界システムの歴史の研究に関して注目と情熱を集めなければならないという意味で、ブラックホールなのである。しかし、中央アジアは、世界およびその歴史において、最も重要でありながら最も軽視されてきた地域であることに変わりはない。それには主に次のような理由がある。歴史のほとんどの部分が、特に勝利を正当化しようという意図を持った勝者によって書かれている。中央アジアは、長い間、勝利者の故郷であり、その功績は歴史に書き記されるか、遺跡として残されるかであった。15世紀以降、中央アジアの人々は、この両方で敗者となった。彼らは中央アジアで敗者となり、故郷である中央アジアはもはや世界の歴史の中心ではなくなった。さらに、これらの損失は急速にリンクして、世界史の魅力的な中心は、周辺部、海洋や西洋へと移っていった。

 ヨーロッパ(西洋)中心主義により、長期にわたって「西洋」だけでなく「東洋」や「南半球」の歴史書の記述も歪曲されてきた。その中には、中央アジアの歴史の記述も含まれている。現在、状況は変わり、中央アジアの歴史は周りの世界から再認識されつつある。中央アジアがかつて有していた「中心性」を理解するために、世界における中央アジアの位置づけを新たに確立する必要がある。

ウズベキスタン国立歴史博物館=中新社提供 文龍杰記者撮影

 「一帯一路」構想−新たな歴史的相互作用−

 歴史は常に現実に対する知恵を与えてくれる。「一帯一路」構想の提唱と実践は、当然、歴史におけるシルクロードの文明の痕跡が残されており、多くの発展途上国が台頭し新しい時代を展開するのに伴って、ユーラシア大陸の各国が相互にリンクして、中央アジアという地域の中心的役割により、新たな生命力と活力を帯びてきている。

 かつて、中国には独自の世界秩序と現実的な論理があった。シルクロードの交易によって、中国、中央アジア、地中海沿海諸国の間で大量の貴重な商品が流通するようになり、実際に商人、ギルド、国家が長期にわたる貿易活動に関与するようになった。その後の展開は、商品の交換にとどまらず、人、文学作品、思想や概念の交流も促進され、最終的にはユーラシア大陸全体でシルクロードに関する共通の記憶が形成された。

 21世紀の「一帯一路」構想は、このような歴史的な共通の記憶のコンセンサスに基づくものであると同時に、新たな時代の文脈の下で新たな相互交流の意義を持つようになった。中央アジア諸国との現実の交流において、「一帯一路」構想は、政策に関する意思疎通、道路の連結、円滑な貿易、通貨の流通、人心が通じ合うという理念を堅持し、「共商、共建、共享」(共に話し合い、共に建設し、共に分かち合う)の原則に基づいている。点から面へというように、道、地帯、回廊、橋を紐帯として、徐々に地域協力の大きな枠組みを形成していく。概念的レベルでは、中央アジア諸国の平和と安全保障の必要性を考慮し、文化的なレベルでは、中央アジア固有の文明の特性を考慮し、歴史の継承だけでなく、未来志向の歴史的接触と現実的協力の両方を考慮した新しい枠組みを形成することである。

2019年にカザフスタンのアラマトゥで開催された中国の女流画家張碧雲氏による「一帯一路」絵画作品展。地元の人々が中国の文化芸術を間近で鑑賞=中新社提供 文劉杰記者撮影

 数千年もの間、中央アジアと中国の歴史と現実が入り交じり、中央アジアと中国の間に相互理解の深い思想的きずなが構築されてきた。今を生きる私たち一人ひとりが、関心があれば、このような相互理解をつなげる旅に積極的に参加することができ、無数の人々が歴史的なシルクロードを支えたように、中央アジアに対する新しい認識の中で、「一帯一路」構想の地域的実践を深めていくことができるのであり、それは常に進行形になるだろう。

袁剣准教授略歴

1981年生まれ、中国江蘇省蘇州市出身、歴史学博士、中国中央民族大学民族学・社会学学院准教授、辺境安全研究センター副主任、(教育部基地)中国少数民族研究センター辺境民族研究所所長、中国清華大学鋳牢中華民族共同体意識研究基地特別招へい専門家。主に辺境民族と中央アジア問題の研究に従事。学術書出版『辺境の後ろ姿 ラティモアと中国学』等2部、訳書『危険な辺境 遊牧帝国と中国』等9部、主編著『ラティモアと辺境の中国』、『中央民族大学著名研究者論文集』シリーズ、ラティモア著作集等多数、複数の国家級および省部級の課題の研究代表をつとめる、主要な学術雑誌や外国語で数十篇の論文を発表し、そのうち10篇以上が『新華書摘』『中国社会科学文摘』『人民代表大会複写資料』に全文転載。

【編集 劉歓】

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