中国は革新に最良の試験場 ヘルマン・シモン氏

 (中国通信=東京)23日の中国新聞社電子版は、「中国は革新にとって最良の試験場 『隠れたチャンピオン』の父ヘルマン・シモン氏」と題する次のような記事を配信した。

 ドイツなど欧州の国は多くの「隠れたチャンピオン」企業を育ててきた。こうした企業は市場占有率がトップクラスだがあまり有名ではない。これに比べ、中国企業は往々にして規模の拡大と最終的な上場を夢見ている。これは中国と欧州のビジネススタイルのどのような違いを反映しているのだろうか。「隠れたチャンピオン」は中国企業に何らかの啓示をもたらすのだろうか。中国はドイツの「隠れたチャンピオン」にとっての最も強大なライバルになりうるのだろうか。

 こうした問題について、中国新聞社「東西問・中外対話」コーナーは「隠れたチャンピオン」の父であり、ドイツの有名なマネジメント学者でもあるヘルマン・シモン氏と、清華大学経済管理学院革新起業・戦略学部教授で技術革新研究センター主任の陳勁氏を招き、対談を行った。

 シモン氏は次のような見解を示した。大志、専門性と精密性、グローバル化という三つの支柱と長期戦略を結び付けることこそ「隠れたチャンピオン」の成功の秘訣だ。ドイツの優位性はハイテクと専門性・精密性にあり、中国企業の優位性は発展の速度と消費者が革新に対しより好意的な点にある。中国はすでに革新、特にデジタル革新にとっての最良の試験場になっている。

 陳氏は次のように述べた。米国企業の強みは戦略の革新にあり、ドイツ企業の長所は技術革新にあるが、中国企業は資源を整理統合してビジネスモデルの革新に長けている。グローバル化経営のすう勢に順応し、異なる文化・文明が融合した多国籍企業を建設し、中・独・米の協力協同発展を実現することができれば、世界全体の経済発展に対し非常に大きな貢献ができるだろう。

 対談の要旨は以下の通り。

 ◇中国の「隠れたチャンピオン」はドイツのてごわいライバルになる

 中国新聞社記者:シモン教授が提起した「隠れたチャンピオン」理論は世界的に有名だ。ドイツなどの欧州の国には多くの「隠れたチャンピオン」企業がある。中国企業が総じて規模の拡大と最終的な上場を夢見ているのに比べて、これは中国と欧州のビジネスのスタイルのどういった違いを反映しているのか。

 シモン氏:「隠れたチャンピオン」とは、グローバル市場においてトップ3にランクインし、利益が50億㌦以下の有名ではない企業のことだ。こうした企業は特殊かつニッチ市場に特化した中型企業であり、とても地味だがセグメンテーション(細分化)された市場におけるリーダーである。

 中国とドイツの経済は異なる発展段階にあるため、「隠れたチャンピオン」についても差異がある。第一に、グローバル化という観点から見て、ドイツはグローバル化のプロセスにおいて先を進んでいる。ドイツの「隠れたチャンピオン」は通常50社以上の国際的な支店機関を擁しているが、中国の「隠れたチャンピオン」の国際的な支店機関は一般的に10社以下だ。

 第二に、革新という観点から見て、中国の「隠れたチャンピオン」は現在革新と研究開発に大きく投資している。ノキアが神棚から転落し、ファーウェイが世界をリードするようになったことが示しているのは、革新は未来の礎石であり、中国の「隠れたチャンピオン」が今後、ドイツ(などの欧州諸国)の「隠れたチャンピオン」のてごわいライバルになるということだ。

 陳氏:ドイツの「隠れたチャンピオン」はパフォーマンスが卓越している。これはドイツの工業化レベルが比較的高いからだ。中国はまだ工業化の中後期にあり、技術の深度の方面に一段と投入を拡大しなければならない。現在、中国の一部の企業は専精特新〈専門化・精密化・特徴化・斬新化〉または「隠れたチャンピオン」としての発展に力を入れているが、「隠れたチャンピオン」の数と発展レベルではドイツと比較的大きな差がある。

 中国新聞社記者:シモン教授は、中国は今後、ドイツの「隠れたチャンピオン」のてごわいライバルになると繰り返し述べている。双方の企業には競争だけでなく、十分に大きな協力ウィンウィンの余地もあるのではないか。

 シモン氏:独中の企業間には間違いなく協力ウィンウィンの余地が存在している。ドイツの「隠れたチャンピオン」はすでに中国に根を下ろしており、中国に2000以上の工場を有し、中国企業と緊密な協力を展開している。

 これに対し、中国企業がドイツ企業を買収する現象も少なからず発生している。過去7年間で、300社以上のドイツ企業が中国企業によって買収され、そのうちのおおよそ50社が「隠れたチャンピオン」だった。現在、多くのドイツ企業は実際には中国企業が所有していてもドイツブランドとして経営を行っており、こうしたモデルはうまく回っている。とはいえ、中国企業がドイツに建設した新しい工場の数は非常に少なく、合計で五つしかないのに対し、ドイツ企業の中国における工場は2000に上っている。これは両国がグローバル化において異なる発展段階に属していることをあらためて示している。われわれはドイツが中国からの強じんな投資の波を迎えることを期待している。

 陳氏:中独は協力の余地が比較的大きい。これは中国が巨大な人口を抱える発展途上国で、なおかつ消費が高度化しつつあるからで、巨大な市場規模が良好なチャンスをもたらしている。伝統的なインフラにせよデジタル化されたプラットフォームに基づく新型インフラにせよ、どちらも中独企業の協力に千載一遇のチャンスをもたらすだろう。

 ◇中国はドイツ以上に良好なチャンスと市場環境を提供している

 中国新聞社記者:中・米・独の企業の革新能力におけるそれぞれの長短をどう見るか。

 シモン氏:ハイテクと専門性・精密性はドイツの二つの際立った競争力だ。米国はプロセスの構築と国際標準の制定に熱心だ。これに対し、中国企業には発展のスピードが速いなどの優位性がある。わたしはいつも中国の企業家のパワフルな実行力に驚かされている。現在、中国の消費者はドイツの消費者以上に革新を受け入れ、取り入れることを望んでいるという一つの新しい見方がある。そのため中国はすでに革新、特にデジタル革新にとっての最良の試験地となっている。(中国で)企業は自身が成功できるかどうかを試すことができる。

 中国は高速鉄道や人工知能〈AI〉など多くの分野でリーダー的な地位にある。例えば、ドイツのある「隠れたチャンピオン」企業は現在上海にAIセンターを建設している。同企業は、中国がドイツ以上に良好なチャンスと環境を提供していると考えている。

 陳氏:米国企業の強みは戦略の革新にあり、ドイツ企業の長所は技術革新にあるが、中国企業は資源を整理統合してビジネスモデルの革新に長けている。3国はそれぞれの優位性を学び、長所を取り入れて短所を補うことでより良い発展を実現するべきだ。グローバル化経営のすう勢に順応し、異なる文化・文明が融合した多国籍企業を建設し、中・独・米の協力協同発展を実現することができれば、世界全体の経済発展に対し非常に大きな貢献ができるだろう。

 中国新聞社記者:中国企業はどのようにすれば、ドイツの「隠れたチャンピオン」の成功を鑑として、「長期主義」、「専精特新」の自主革新の道を進むことができるのか。

 シモン氏:大志、専門性・精密性、グローバル化という三つの支柱と長期戦略を結び付けることこそ「隠れたチャンピオン」の成功の秘訣だ。

 グローバル市場において傑出した企業になる志を抱くのと同時に、専門性・精密性を実現しなければならない。専門性と精密性があってこそ世界の一流レベルと肩を並べることができるが、専門性・精密性は市場を小さくするため、グローバル化によって市場を大きくする必要がある。グローバル化によって、ニッチな市場を相手にする中型企業であってもある程度の規模にまで発展することができる。これらは「隠れたチャンピオン」の最も重要な指導方針である。

 同時に、真にハイテクを発展させ、長期戦略を堅持しなければならない。長期戦略におけるもう一つの重要な側面は従業員の忠誠度の向上である。ドイツの「隠れたチャンピオン」は年間の従業員流失率が2・7%しかなく、従業員の忠誠度がきわめて高い。

 陳氏:中国の一部の企業はすでにコア技術への投入を強化し始めており、中国政府はすでに中小企業が「隠れたチャンピオン」の道を進むべきであると意識している。中小企業を市場の強者に変えるべきであって、大企業の追随者ではない。革新能力を精強にし、経営思想において長期的な発展と持続可能な発展に目を向ける必要がある。

 中国新聞社記者:「隠れたチャンピオン」に成功をもたらしたゲームのルールはこんにちでも有効なのだろうか。

 シモン氏:ゲームのルールには変化が発生しており、ますます多くの輸出が外国の直接投資に取って代わられている。新型コロナの流行下における中米貿易紛争、ウクライナ紛争はグローバルなサプライチェーンに打撃を与え、世界の企業の価値評価は新たにシャッフルされている。

 われわれは商品を世界各地に届けようとすることで、サプライチェーンのリスクを増やすのではなく、必ずターゲット市場に根を下ろさなければならない。そのため、これはまったく新しいゲームである。私が思うに、これはグローバル化のさらなる進展であり、より地域化された、より完全なバリューチェーンであり、より少ないクロスボーダー輸出である。

 ◇中独協力は米独協力よりも効果的

 中国新聞社記者:中独の企業家精神の違いをどう見るか。

 シモン氏:両国の人民は共に勤勉で努力家だ。われわれはさらに職人精神も兼ね備えている。わたしは中国で講演を行う際、しばしば「隠れたチャンピオン」になるという野心を持つ人はいますかと質問するが、半数の聴衆が手を挙げる。これはドイツよりも多い。両国企業の企業家精神と野心は非常によく似ており、私が思うに、これはすべて儒教思想とドイツの職業倫理などに由来するものだ。この点は製品連鎖のための堅実な基礎を築いており、協力ウィンウィンの実現にとって有益だ。実際のところ、中国とドイツの協力はドイツと米国の協力よりも効果的だ。

 陳氏:私が思うに、中国の企業家は儒教文化の影響を深く受けている。同時に、儒教文明の基礎の上で道家文明の思想も取り入れており、新儒教文明を形成し、秩序と柔軟性を兼ね備えている。中独の哲学者の思想の多くははからずも一致している。今後、われわれは博愛の心でもって世界中の商業企業を団結させ、共に協力していくことを強調していかなければならない。

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