神話の示す東西文明の純真と遺伝子--四川省社会科学院神話研究院の周明・特任研究員に聞く

神話は文明と文化の起源であり、民族の魂の担い手であり、どんな文化においてもかけがえのない重要な地位にある。今日、神話は習俗として、あるいは潜在的意識として現代人の生き方に大きな影響を与えている。東西の神話には違いがあり、民族によってはっきりと個性があるが、神話が描き出す文明の記憶には、全人類に共通のものもある。

2021 年 7 月、長沙市のあるビルにギリシャ神話の人物が投影された。撮影/楊華峰

記者:原始的な神話を知ることは、民族の文化の源を探る助けになります。では、東洋と西洋という異なる文化的文脈において、神話とは何でしょうか。


周明:神話は人類の幼年時代に生まれた独特の文化の1つです。長きにわたり、国内外の学術界は「神話とは何か」という問題について、それぞれの立場、観点、研究方法、角度からそれぞれの解釈をしてきました。


 西洋では、古代ギリシャの神話歴史学派・エウヘメロスが、神話を「変装した歴史」と言っており、神話比喩学派・クセノパネスは「古代人の寓話」と言っています。オーストリアの精神分析学者のジークムント・フロイトは、「神話は民族の想像と希望の変形した残骸であり、……幼年期の人類の古い幻想である」とするなど、多くの考えがあります。


 中国でも、神話とは何かについて多くの説と定義があります。魯迅は「かつて人々は、天地の万物が常に変化し、様々な現象を起こし、人の能力を超えるのを見て、それを様々な物語にして解釈した。この解釈を、神話という」とし、茅盾は、神話とは「古代の民間に広まった物語で、語られるのは人間の能力を超える神々の行いである。荒唐無稽ではあるが、古代の人々はそれを語り伝え、真実だと信じた」と言っています。

古代(古代ギリシャ、古代ローマ)の芸術作品。撮影/彭大偉

 私個人は、神話とは、古代の人々が自然を認識し、征服する過程で創り出した一種の総合的な概念であり、人々の思想、観念、信仰、幅広い社会生活を反映し、表現したものだと考えています。神話の特徴は、幻想的で、さまざまな解釈ができるということで、神霊、魔物、超自然の英雄神などを叙述の対象としています。


記者:世界の文明は多種多様ですが、天地開闢、人類の起源、世界を救う英雄など、驚くほど似た神話があります。この点についてどう思われますか。


周明:世界の文化に影響を与えた、いくつかの大きな古代文化体系には、よく似た神話の型があり、これらの神話の型を学術的に神話のモチーフと呼びます。


 起源から言うと、よく似たモチーフの出現は、社会の発展段階が似ていることと関係しています。地域が異なっても、経済・社会・心理・言語の基礎や条件、さらに創造者や巫女のような伝承者が似ていれば、同じ神話のモチーフが出現するのです。

2020年12月、『鯨夢奇縁・神隠山海経』という没入型投影芸術展が成都市で開催された。撮影/安源

 たとえば、ギリシャ神話では、世界の初めは混沌でした。混沌の神カオスが天地を開き、5人の子どもを産んで、宇宙が空、大地、地獄、闇、昼に分かれました。これは盤古が天地を開いたという中国の物語とそっくりです。


 プロメテウスは人類を創りました。彼は粘土で男を創り、アテナがそれに魂を吹き込み、後にゼウスが女を創りました。この物語は女媧が人を創ったという中国の話と瓜二つです。


 プロメテウスは太陽からこっそりと火を盗み、人間に与えたので、ゼウスは彼をコーカサスの岩山に鎖でつないでしまいました。中国の神話では、閼伯という火の神がおり、天から火を盗んで人間に与え、人間界に落とされたと言われます。神話の似たモチーフはこれらの文化の中で重要な地位を占めており、後の文化に大きく影響しています。

2020年9月、江西省婺源県江湾観光エリアで古代都市・婺源の先住民が口伝する神話「婺女、蛟竜を斬る」の場面が描かれた。撮影/残弓摄

記者:『山海経』を代表とする中国の古代神話を西洋の神話と比べたときに、異なる特徴は何で しょうか。


周明:まず全体的に言えば、西洋の神話の最大の特徴は、伝えられる過程で何度も修正され、補足され、整備されていったことで、比較的完全な叙事体になっており、人物やエピソードが多く、論理的に強い構成を持っています。それに対して中国の『山海経』など秦・漢の古典に記載された神話は、形が決まると基本的に改編されず、内容がシンプルで断片的であり、互いにあまり関連性がありません。


 次に、西洋の神話に記述され、表現されている神は非常に「人間的」です。つまり、神の世界と人間の世界が一体となり、神は人間のように喜怒哀楽があり、食べたり排泄したりします。しかし先秦から前漢・後漢の文献に記載された中国の神話では、神は基本的に「半獣半人」という特徴を持っています。天地開闢の盤古のイメージは「竜の首と蛇の身体」です。人を創った女媧は「蛇の身体と人の首」です。東方の木の神・句芒は「鳥の身体と人の顔」です。


 第三に、「人間化」と「神化」の基本的な違いが、西洋の神話をより写実へ、中国の神話をより虚構へ向かわせました。比較すると、西洋の神話はより現実世界の事実に近く、中国古代の神話は「超自然」的特徴がより強く、現実世界から離れています。


 最後に、叙述方式において、西洋の神話はより詳細で完全であり、神と神、神と人との関係が緊密です。中国の古代神話は西洋に比べてより素朴です。この点も、中国と西洋の神話の最大の違いの1つでしょう。


 近年では世界各地で考古学が進んで多くの古代遺跡が発掘され、大量の文物が出土して、神話と現実にはっきりとした関連があることが示されるようになりました。(翻訳:月刊中国ニュース)

【プロフィール】


周明(ジョウ・ミン)
1957 年生まれ、成都市出身。中国民間文芸家協会神話専門委員会委員、四川省民俗学会常務理事、四川省社会科学院神話研究院特任研究員、『神話研究集刊』副主編。1982年、南充師範学院(現・西華師範大学)中文学科卒業、1983年、四川省社会科学院神話文学研究所に入所。神話学者・袁珂氏の学術助手を長年務め、『中国神話伝説詞典』『中国神話伝説』『中国文学史簡綱』『中国民族神話詞典』『中国神話史』『山海経校注(修訂版)』など袁珂氏の学術的成果の著述と出版を補佐した。主な研究テーマは神話学、民俗学、民間文学研究。

You may also like...

Leave a Reply

Your email address will not be published.