中国とASEANはブルーカーボンでの協力を強化すべきだ―専門家が状況を解説 

ブルーカーボンという概念がある。海浜および海洋生態系を利用して空気中の二酸化炭素を吸着して主に有機物の形で固定することだ。写真は海南省内にある東寨港マングローブ自然保護区。

 ブルーカーボンという概念がある。海浜および海洋生態系を利用して空気中の二酸化炭素を吸着して主に有機物の形で固定することで、国連環境計画(UNEP)が2009年に提唱し始めた。中国南海(南シナ海)研究所の王勝所長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の求めに応じて、ブルーカーボンについては国際協力が必要であり、中国の場合には特に東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力を強化すべきとする、自らの主張を説明した。以下は王所長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

 ■ブルーカーボンはカーボンニュートラル実現のために有効

 世界各国は2015年の国連気候変動会議で『パリ協定』に署名し、各国家が自主的に気候変動の緩和に貢献することを明確にした。重要な目標が、21世紀後半にはカーボンニュートラル(炭素中立)、つまり人類の活動で大気中に放出される炭素の量を吸収分と差し引きしてゼロにすることだ。そこで注目されているのがブルーカーボンだ。

 具体的な方法としては沿岸のマングローブ林を育成して大気中の二酸化炭素を吸収・固定する、海藻を増やして海水中の二酸化炭素を取り組む。海藻の増加で海水中の二酸化炭素の濃度が低下すれば、大気中の二酸化炭素がより多く海水に溶け込むことになる。植物プランクトンを増やしても同様の効果が得られる。植物プランクトンのかなりの部分は動物プランクトンに食べられるが、動物・植物を問わずプランクトンが死んで死骸が深い海に沈めば、長い年月に渡って大気中に炭素が再び放出されることはない。貝類は炭酸カルシウムを主成分とする殻を生成する際に、海水中の二酸化炭素を吸収する。

 これらの取り組みでは、国際協力が大切だ。中国の場合には、特にASEAN諸国との協力が重要だ。

 中国は、大気中への炭素削減を2030年までに最大にする、つまりそれ以降は減らしていくことを2020年9月に宣言した。同時に、2060年までにカーボンニュートラルを実現する目標も世界に向けて宣言した。これが中国の「ダブルカーボン」の目標だ。中国は「ダブルカーボン」の約束を果たすためにも、ブルーカーボンの国際協力を推進せねばならない。中国はブルーカーボンの推進で、海洋産業の「高い質へのモデルチェンジ」を実現する戦略も掲げている。

 大気中の二酸化炭素問題に取り組んでいるのは中国だけでない。ASEAN諸国の多くも、二酸化炭素排出削減についての目標を設定している。南シナ海は中国とASEAN諸国にとっての「わが故郷」だ。従って、ブルーカーボンへの取り組みで、中国とASEAN諸国の協力の余地は大きい。

 ■永続的なブルーカーボン実現には、「現世利益」的な仕組みも必要

 まずは、ブルーカーボンでの協力を強化すべきという、共通意識を形成させねばならない。ボアオ・アジアフォーラムなど既存の国際交流プラットフォームを利用すれば、ブルーカーボンの協力を議論し、学術研究を強化し、中国とASEAN各国の交流や協力を推進することができる。

 それ以外の国際会議やフォーラム、展覧会などでも、未来のブルーカーボン発展の新たな構想や新モデル、新産業を検討することができる。各国のシンクタンクによるブルーカーボン実務交流・協力プラットフォームの共同構築を推進し、科学知識の普及を強化し、関連学術議題を設置し、海南省と東南アジアに住む人々のブルーカーボン協力意識を強化することができる。

 次は現実面での協力だ。中国は世界最大の発展途上国であり、ASEANは急速に発展しつつある世界第5位の経済実体だ。中国とASEANは世界の気候変動に対応する上での発言力を強めるべきだ。各国は平等な立場で気候と海洋の問題での協力メカニズムを構築し、共同行動計画を制定し、海上実務協力プロジェクトを実施すべきだ。そうすることで、国際社会の理解と支持を得るよう努力すべきだ。

 ブルーカーボンの取り組みは極めて重要だが、物事は現実問題として、理念だけでは継続できない。そこで中国とASEANは国際ブルーカーボン市場メカニズムの構築に積極的に参加すべきだ。世界のブルーカーボン取引市場の建設はまだ萌芽(ほうが)段階だ。中国とASEAN諸国は自らのブルーカーボン資源の優位性を利用して、積極的に世界のブルーカーボン取引市場建設の具体的なステップと戦略的枠組みに参与し、世界のブルーカーボン市場における発言権と価格交渉能力の向上を図るべきだ。

 ■ブルーカーボンでの国際協力で良好な国際環境を醸成できる可能性

 南シナ海をめぐっては、国際政治上デリケートな問題もある。しかし、大気中の二酸化炭素削減が必要ということで、各国の考えは一致している。すなわち、ブルーカーボンは各国が協力しやすい分野だ。またASEAN諸国は気候変動の影響が最も深刻な地域の一つであり、その一方ではブルーカーボンの取り組みを進めやすい条件がある。フィリピン、インドネシア、マレーシアなどのマングローブ林面積はいずれも世界上位だ。中国とASEAN諸国のブルーカーボン分野の協力を展開する余地は大きく、効果的な協力を推進できれば、中国とASEAN諸国が南シナ海での協力を進めるモデルの一つになるだろう。

 中国はブルーカーボンの手法の一つとして「炭素シンク漁業」を提唱している。重要な考え方は、動植物プランクトンなどを含めて海洋中の生物資源全体を豊かにしていきつつ、人の食用となる水産資源も得ようということだ。もちろん漁業のためのエネルギー使用にともなう二酸化炭素排出も減らしていく。

 東南アジアの多くの国にとって、漁業は重要な産業だ。「炭素シンク漁業」を普及させれば、漁業の質を高めることと炭素排出の削減が同時に実現する。また各国が協力して取り組むことは、南シナ海沿岸国の南シナ海における違法操業を減らし、国と国の漁業関連の紛争を回避することにつながるだろう。

 中国とASEANの南シナ海沿岸国は、海上新エネルギー産業分野の協力を推進することもできる。中国は2021年9月に、海外で新規の石炭火力プロジェクトは実施しないと宣言した。一方で、ASEANの南シナ海沿岸国にとって、海上風力エネルギー、海洋温度差エネルギー、海洋波エネルギー、海洋潮汐潮流エネルギーなど、海洋絡みのエネルギー資源は豊富だ。これらを積極的に利用して環境に負荷をかけないエネルギー供給体系を確立できれば、それぞれの国が自国国民の生活レベルを確保し、エネルギー関連の安全保障を強化できることにもなる。

 ■ブルーカーボンで「やることの順番」を示すロードマップ

 今後すべきこととしてはまず、ブルーカーボン技術、政策、規則の研究協力の強化がある。中国国内の良質な学術資源を統合し、国内外の関連シンクタンク・科学研究機関との多学科協同難関突破協力を強化し、ブルーカーボンの評価・モニタリング・計算基準を明確化し、ブルーカーボン取引の範囲と対象を明確にするための法整備も行う。世界に普及できるブルーカーボンのモデルと標準体系を早急に制定すべきだ。

 ブルーカーボンに取り組んでいるのは中国やASEAN諸国だけではない。さまざまな国際組織が「ブルーカーボン・イニシアチブ」についての提案を行い作業を進める状況がある。中国は個別の取り組みを研究し、状況に応じて参加すべきだ。中国国内の海洋関連のシンクタンクや科学研究機関は、関連する国外の機関と多層的な交流や協力を積極的に強化すべきだ。特に中国とASEAN諸国は、多国籍の科学研究協力チームを結成し、ブルーカーボンモデル協力プロジェクトを支援すべきだ。

 そして、中国は自国内外の先進的な技術やモデルを参考に、海浜湿地とマングローブ林、さらに生態に配慮した水産物の養殖を増やすべきだ。海洋微生物の増殖、貝類や藻類による炭素固定、海洋カーボンニュートラルモデルなどのブルーカーボンモデルプロジェクトを積極的に進めるべきだ。海洋エコツアー、や洋レジャー漁業、ブルーカーボン技術サービス、ブルーカーボン金融などの産業体系を構築して経済効果をもたらす仕組みを作ることも、ブルーカーボンの推進にとって有効だ。

(構成 / 如月隼人)

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