東西問|莫関耀:中国はなぜ麻薬取り締まりの国際協力に積極的に関わるのか
-中国雲南師範大学法学・社会学学院莫関耀教授独占インタビュー
中新社記者 繆超
今日の世界では、グローバル化した麻薬問題が人類の生存と発展に大きな脅威となっている。麻薬に対して、一国が独善的になるのではなく、麻薬の取り締まりには各国の協力を強化する必要がある。中国は一貫して麻薬取り締まりの国際協力に積極的に参加し、推進しており、世界の麻薬取り締まりの分野で重要な役割を果たしている。
今年の6月26日は、第35回「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」であった。中国の麻薬取り締まりの最前線で主戦場である雲南省で中新社の「東西問」は雲南師範大学法学・社会学学院の莫関耀教授に独占インタビューを行い、中国が麻薬取り締まりの国際協力へ参加し推進する理念と方法について語ってもらった。
インタビューの概要は以下のとおり:
中新社記者:中国の麻薬問題はどこから始まり、麻薬は中国の歴史にどのような影響を与えましたか。
莫関耀:中国の麻薬問題は、唐代にアヘンが輸入されたことに端を発しています。初唐にアラビア商人が北方陸路の「シルクロード」を経て中国皇帝に朝貢したことにより次第に広まっていきました。明代は、麻薬問題の重要な転換点です。鄭和が「西洋下り」といわれる南方海上の「シルクロード」を切り開きました。それにより中国と西洋の貿易が拡大し、アヘンの輸入が増加しました。明代の中期から末期にかけて、アヘンは薬用から快楽的な嗜好品に密かに転用され、民間へ拡散し始めました。宮中には贅沢で、欲の赴くままという雰囲気が漂っており、アヘンはまさにこのような雰囲気の中で貴族たちが夢中になる「至高の品」となり、皇帝も例外ではありませんでした。これも明が最終的に滅亡する一因となりました。
清代になると、アヘンはさらに中国に輸入されるようになりました。1800年に英国の東インド会社がアヘン政策を打ち出してからアヘン戦争が勃発する前年の1839年までの間、英国を中心とする植民地主義者が中国に638,119箱のアヘンを輸入し、中国のアヘン吸飲者が急増し、2500万人に達しました。アヘンは中華民族の幸福を脅かす深刻な社会問題となりました。
アヘン禍を解決するため、清朝政府は、林則徐を広州に派遣しアヘンを取り締まりました。林則徐により「虎門銷烟」といわれるアヘンの廃棄が行われました。これが英国の利益を脅かしたとして、1840年に第一次アヘン戦争が勃発し、中国近現代史の屈辱的幕開けとなったのです。不平等条約、領土割譲、賠償金により、中国は半植民地、半封建国家になりました。
中新社:近代、アヘンは中国の人々にかつてない屈辱をもたらしましたが、これは中国人の麻薬に対する態度にどのような影響を及ぼしたでしょうか。
莫関耀:歴史的観点から、中国の人々は、麻薬問題が国家の安全、領土保全、民族の盛衰、国民の幸福、経済発展、社会問題を脅かす重大な社会問題であると考えています。中国の人々は麻薬の害を切実に感じており、中国は麻薬犯罪を断固として厳しく処罰する態度で法に基づいて麻薬を禁止してきました。
1949年の中華人民共和国の成立後、中国政府は国民の先頭に立って勢力的に麻薬撲滅運動を展開し、3年間で100年に及んだアヘン禍を根絶させました。
しかし、中国の南西部国境である雲南省は、世界の主要な麻薬供給源である「ゴールデントライアングル」に隣接しています。1970年代後半以降、国際的な麻薬ブームが中国に侵入し、麻薬の密輸によって引き起こされた麻薬犯罪が息を吹き返しました。
新たな麻薬問題に直面し、40年以上にわたって中国政府は国、民族、国民および全人類に対して強い責任感を持って、厳しい麻薬禁止の立場を堅持し、全ての必要な措置をとり、麻薬撲滅と人々の幸福のために最善を尽くしてきました。
中新社記者:中国の麻薬撲滅運動は「麻薬撲滅の人民戦争」の形式で展開されましたが、これの特徴は何ですか。
莫関耀:麻薬問題は、化学、医学、社会学、法学、社会統治などの分野が含まれています。麻薬統制システムおよび統制能力の構築は、複雑で困難な長期的社会プロジェクトです。科学的で効果的な構築活動は、厳格な統制、システム統制、発生源統制、総合統制及び法に基づいた統制の原則を重点的に把握しなければなりません。
麻薬撲滅の社会統治は、中国国家統治体系の重要な部分であり、麻薬取締法には「麻薬撲滅は社会全体の共同責任である」と明記されています。「麻薬撲滅の人民戦争」は中国独自の麻薬取り締まりの方法になっており、国民全体が幅広く参加するメカニズムと麻薬撲滅の社会統治理念を十分に発揮し、麻薬撲滅の社会統治を国家統治システムに組み込み重要な部分となりました。
中国は2005年に第1次「麻薬撲滅の人民戦争」を始めて、現在第5次に入っており、大きな成果を上げています。中国の麻薬取り締まりの最前線で主戦場である雲南省では、2005年以降、市民の通報に基づき1万800件以上の麻薬事件を解決してきました。「麻薬撲滅の人民戦争」を展開することは、中国の制度的および政治的優位性を十分に発揮し、各方面の力を動員して麻薬問題の解決に成功した実践であり、麻薬撲滅闘争で常に勝利を収める有効な方法であることが証明されています。
中新社記者:中国はどのようにして世界的な麻薬統制に積極的に参加して、麻薬取り締まりの国際協力を全面的に推進しているのですか。
莫関耀:近年、経済のグローバル化、社会の情報化の急速な発展に伴い、世界的な麻薬問題も拡大、蔓延し、麻薬にかかわる国や地域はさらに拡大し、麻薬の種類、麻薬の生産量、麻薬使用者は増え続けており、麻薬はすでに人類の生存と発展に影響を与える重要な問題となっております。
このような背景から、中国の麻薬撲滅闘争は楽観視できません。中国政府は、全人類が直面する世界的な害悪であり、麻薬撲滅は国際社会の緊急かつ共通の責任であると考えています。世界的な麻薬撲滅闘争を推進し、根本から中国の麻薬問題を解決するためには、国際的な麻薬取り締まりの協力を強化することが必要です。そのため、中国は一貫して麻薬取り締まりの国際協力に積極的に参加し、世界の麻薬取り締まりの分野で重要な役割を果たしてきました。
中国が展開している国際麻薬取り締まりに関する協力の主な形式は以下のとおりです。
一つ目は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の調整の下で国際的な麻薬取り締まりに協力することです。二つ目は「上海協力機構」の麻薬取り締まりの協力メカニズム、「BRICS」の麻薬取り締まり協力メカニズム、「瀾滄江―メコン川流域総合法執行安全協力センター」の麻薬取り締まり協力メカニズムです。三つ目は、中国と東南アジア諸国連盟(ASEAN)の麻薬取り締まり協力メカニズムのような中国と地域組織間の麻薬取り締まりへの協力です。四つ目は、中国とタイ、ミヤンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアの麻薬取り締まり協力メカニズム、瀾滄江メコン川共同巡航メカニズムのような多国間の麻薬取り締まりへの協力です。五つ目は、中国―ミヤンマー、中国ベトナム、中国―ラオス、中国―フィリピンの2国間での麻薬取り締まり協力メカニズムです。
また、国際刑事警察機構(インターポール)を通じた麻薬取り締まりへの協力、国境地帯での麻薬取り締まりへの協力があります。
中新社記者:現在の国際的な麻薬取り締まりの状況はどうですか。中国はどのように対応していますか。
莫関耀:現在、中国国内の麻薬関連の犯罪は抑制され、麻薬の状況は改善されさらに強化が拡大しています。現在、麻薬使用者の減少、麻薬の大量生産の減少、麻薬製品の流失の減少、流出型麻薬密売の減少など「4つの減少」というプラスの変化が現れています。
しかし、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響を受けて、世界的に麻薬が蔓延るという状況がさらに拡大しています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によると、新型コロナウイルスの流行は世界的な経済、公衆衛生、人々の生活方式に重大な影響を与えるだけでなく、世界的な麻薬生産供給、販売方法や消費需要などに多くの新しい変化をもたらしました。「ゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)」「ゴールデンクレセント(黄金の三日月地帯)」「シルバートライアングル(銀の三角地帯)」などの麻薬供給地では、麻薬取り締まりの弱体化、景気衰退により多くの農民たちが麻薬栽培に転向し、世界の麻薬生産量は高止まりしています。失業率の上昇により、多くの貧困・弱者層が麻薬使用者になり麻薬による犯罪を犯しています。全世界では現在約2億7500万人が麻薬使用者です。
このような状況を受けて、中国の麻薬取り締まり活動は新たなリスクと課題に直面しています。これについて、麻薬防止教育の内容や形式を常に更新する必要があります。麻薬防止教育は対象別、レベル別に実施する必要があり、麻薬取り締まりの知識をカバーし認識度を上げる余地があります。密輸、輸送、販売、麻薬製造犯罪に対して、麻薬取締法の高圧的な態勢を維持し、動揺することなく麻薬犯罪に厳しい打撃を与えることが必要です。地域社会での麻薬依存治療やリハビリの早急な強化、麻薬取り締まりの社会活動組織と人材不足への補充、麻薬依存治療とリハビリや支援サポートを強化し、社会復帰を成し遂げなければなりません。同時に、グローバル化、ネットワーク化している麻薬犯罪に対応するために、麻薬取り締まりの国際協力を全方位的に展開し、国際的な麻薬取り締まりの場において中国の知恵とパワーにより貢献する必要があります。(完)
莫関耀氏略歴:
中国雲南師範大学法学・社会学学院教授、元雲南警察学院麻薬取り締まり系主任、中国国家麻薬統制委員会専門家委員。中国国家麻薬統制委員会ネットワーク専門家人材データバンク構成員、中国麻薬統制ネットシンクタンク構成員、中国薬物乱用防止協会理事および専門家委員会委員、中国社会奉仕連合会麻薬統制社会奉仕専門委員会首席専門家、アジア薬物乱用研究学会理事。出版物『禁毒学』『禁毒法』『麻薬犯罪事件捜査』『禁毒の社会奉仕』『麻薬防止教育』など30以上の教材執筆。『薬物禁止法』『薬物依存治療条例』の起草および改正にかかわる。『麻薬使用検査手順規定』『薬物依存治療に関する法律文書の様式』など国家および省部級の多くの研究プロジェクト代表を務める。
【編集:黄鈺涵】