東西問・中外対話|米国は率先して対中政策戦略緩和の第一歩を踏み出すべきだ
中新社記者 彭大偉
米国のバイデン政権が発足して1年半経つが、中米関係はいまだに「底入れし上昇に転じる」関係に至っていない。米国のブリンケン国務長官は先ごろ対中政策に関する講演で「投資、連携、競争」という論調を打ち出したが、国際秩序を深刻に損なっているのは一体誰なのか。米国の対中政策はいかにして新たな道に踏み出すべきか。
中新社の「東西問・中外対話」では、先ごろ中国の曁南大学教授兼海国図智研究院院長の陳定定氏、マレーシア太平洋センター主席顧問兼シンガポール国際問題研究所上席研究員の胡逸山博士および米国の『ジャーナル・オブ・チャイニーズ・ポリティカル・サイエンス』副編集長兼中国の華東師範大学政治・国際関係学院教授のジョセフ・グレゴリー・マホニー氏の3氏による対談を行った。
中国が「国際秩序に対して最も深刻な長期的課題を突きつけている」という米国のブリンケン国務長官の主張に対して、胡逸山氏は、米国は「脱退」したが「棄権」したくないという国際的なジレンマに陥っており、国際秩序、国際的枠組みの中で、依然として一定の役割を果たしたいと考えていると指摘した。また、このような状況下では、米国の「既存の国際秩序を維持すべきである」というのは、説得力にかけると指摘した。
マホニー氏は、中国の政策の連続性と安定性に比べ、米国の外交政策は時間とともに不安定さを増していくと述べた。この傾向は、トランプ政権時代にすでに非常に顕著であり、現在も続いているとした。欧州に存在する米国との溝がウクライナ危機により消えたわけではなく、さらに、米国は新型コロナ感染症の最新のウイルスによる混乱に備えることもできず、国としての不安定さを増していると指摘した。
対談の概要は以下のとおり:
陳定定:米国のブリンケン国務長官は、最近の対中政策に関する講演で「中国が国際秩序に対して最も深刻な長期的課題を突きつけている」と主張しました。しかし、中国は国連やWTO(世界貿易機関)に代表される多国間主義体制を積極的に擁護し、グローバルガバナンスへの貢献度が高くなっていると国際的に認識されています。対象的に米国は国際法より国内法を優先して、次々に「脱退」し、一方的な制裁を行使しているが、これこそ真の国際秩序の破壊ではないでしょうか。
胡逸山:現在、米国は国際的なジレンマに陥っているかもしれません。一方、第二次世界大戦後の国際秩序全体が、主に米国によって決定され、主導されたことは否定できません。しかし、時には、ホワイトハウス、米国上院下院議会の間で国際問題に対する見解が異なることがあり、そのため、米国は過去数十年にわたって自ら構築した国際組織や国際的枠組みからの「脱退」という事態をもたらしました。
「脱退」は言い換えれば「棄権」ですが、米国は「脱退」したが「棄権」する気はなく、このような国際秩序、国際的枠組みの中で、依然として一定の役割を果たしたいと考えていることが問題なのです。
同時に、米国の主導により設立されたこれら組織や国際秩序において、中国はますます積極的になっており、米国は当然狼狽しています。中国が積極的に役割を果たす一方で、原加盟国である米国は「半脱退」の状態にあり、保護主義政策をとるなど、WTOの全体的な方向性と相反しています。このような状況下では、米国の「既存の国際秩序を維持すべきである」というのは、説得力にかけると思います。
マホニー:以前、トランプ大統領が就任前でさえ、米国は多国間組織が「腐敗しすぎている」「非効率的だ」と主張して、多国間組織へのコミットメントを選択的に関与し履行するだけでした。
ですから、米国が規則に基づく秩序を取り戻すと言いだしたとき、何を言っているのかよくわかりませんでした。トランプ前大統領の度重なる「脱退」の後、バイデン大統領は多国間組織と再び関わりを持ちました。しかし、バイデン大統領は中国にとってより公平な方向に改革を推進することに興味がないと思います。さらに、一方的な行動により、小集団をつくっています。今後、このような事例がさらに増えていくと思います。
陳定定:米国国務省に新たに設置された「チャイナ・ハウス」は、いわゆる中国との「競争と挑戦」に有効に対処できるのでしょうか。
マホニー:ある意味、これらの組織も一生懸命何かをやろうとしているという印象を与えるためにそれらしいふりをしているだけです。これまで中国情勢を扱う多くの異なる部署が編成されたのを忘れてはなりません。しかし、私が最も注目しているのは、米国中央情報局(CIA)と米国国防省の同様の部署と相互協力していると言われていることです。歴史的に見ても、これらの三つの組織は、極めて異なる組織文化を持っているので、非常に興味深いことだと思います。少なくともトランプ政権になるまでは、中国に対する立場が大きく異なっていました。このような異なる立場での争いは、ある程度、対中政策の策定にバランスをとるのに役立っていると思います。しかし現在懸念しているのは、米国政府全体がこのような中国問題におけるグループ・シンク(集団浅慮)の影響を受けており、実際には、誰が最も急進的であるかを確認するために互いに競争している可能性があるということです。
陳定定:「台湾支援」をめぐる最近の米国の一連の動きをどのように見ていますか。
マホニー:ワシントン(米国政府)は、新疆、チベット、香港や台湾にそんなに関心があるわけでなく、米ドルの覇権を維持することだけを考えていると思います。気にかけているのは、米国の長年にわたる管理の不備の後で、どのように経済システムの運用を維持するかということです。事実、政治的には米国国内の多くの問題はすでに解決が困難です。したがって、米国はある程度現状を維持するという非常に強い意志を持っています。正直に言うと、この重要な目標を維持するためには、必要な人を犠牲にすることをいとわないと思います。
陳定定:歴史学者のニーアル・ファーガソン氏は、中米関係は1970年代に行われた戦略緩和のようなことを復活させる時期に来ているという考えを示しています。この主張をどのように捉えますか。
胡逸山:米国は現在、社会経済面で大きな課題にぶつかっており、インフレ率が高く、経済発展も以前ほど理想的ではないと思われます。ですから、その解決法の一つはもちろん、トランプ政権時代に中国などに課した高い関税を徐々に引き下げ、自由貿易をより円滑に行うことです。これによる最大の受益者は米国なのです。
戦略緩和や相違の解消が必要なら、関税の引き下げから始めることが最良の方法です。われわれ東南アジア諸国の長年の経験から、貿易が増えれば、両国間の衝突の可能性は大きく減少します。
ですから、戦略緩和を行うには、米国は率先して一歩を踏み出し、本来課すべきでなかった関税を徐々に引き下げるべきで、できることなら撤廃するのが望ましいと思います。
陳定定:中国共産党第20回全国代表大会後、中国はどのように発展するのでしょうか。中国の世界的な影響力はどのように拡大していくのでしょうか。
マホニー:中国には連続性と安定性があり、米国と同じ外交政策を展開しようとはしていません。米国の外交政策は時間とともにますます不安定になっていくと思います。この傾向は、トランプ政権時代にすでに非常に顕著であり、現在も続いています。しかし、欧州に存在する米国との溝がウクライナ危機により消えたわけではありません。米国とその最も親密な同盟国の立場は、全体として深刻に損なわれています。
新型コロナウイルスのオミクロン変異株BA.4とBA.5の脅威とこの2つのウイルスの免疫逃避能力を世界が本当に感知しているとは思えません。そして米国自身がこれに対する準備がまだ十分にできていません。実際、私が話をしている米国の友人たちは、新型コロナウイルスにすでに3回感染しています。私の故郷では、日本企業の米国現地法人で働く友人から、新型コロナの影響で従業員の25%が失業したと聞きました。
胡逸山:中国は引き続き世界経済の発展のために主導的な役割を果たすことが期待されています。先ほども議論しましたが、米国は経済、貿易、ビジネスの分野で自分を顧みる暇すらないように見えます。自国の経済を維持していくことができるのはとてもいいことです。しかし世界各地、特に私たち発展途上国では、依然として外貨投資を必要としていると考えられます。
このような状況下で、中国は「一帯一路」構想などの取り組みが今後も続くことを改めて強調しており、中国共産党第20回全国代表大会以降、中国独自のこれらの大規模な取り組みが強化されることを期待しています。世界経済を発展させる取り組みがあれば、それも歓迎します。
(完)