香港の市場経済に適した制度が必要~香港科技大学名誉教授雷鼎鳴氏インタビュー

香港科技大学経済学部名誉教授の雷鼎鳴氏はこのほど、中国新聞社の独占インタビューに応じ、香港の経済・社会に対する見方を語った。その中で香港の発展のうえで最も重要なことについて、政府と市場の関係を明確にすることと指摘。香港版国家安全法施行、選挙制度改善後も香港が市場経済を維持する中、香港独自の道を歩みつつ市場経済に適した制度を持つことは、香港の将来の発展に極めて重要で唯一の長期的な選択であるという。
インタビューの要約は以下の通り:


中国新聞社:香港は「一国二制度」の下、資本主義制度を実施しているが、香港の発展をどうみているか?また、どんな優位性や問題点があるのか?


雷氏:一般的な中国本土の香港に対する理解は、香港は経済面では自由市場とみなし、資本家同士が互いに競争する構造をとっていると考えられている。政治面では自由主義的な民主主義制度に近いとみられている。
但し、一般的に経済学者は市場競争の面に重点を置き、政治制度面で香港が西側の自由主義的な民主主義を必ず実施しなければならないのかは議論がある。個人的には、自由主義的民主主義または西洋式民主主義は、必ずしも絶対条件ではないとみている。


市場競争を重点に置いてみると、香港は成功している面がある一方、問題もある。
香港の成功したところ、または古典的な自由主義経済の条件を満たしている部分は3つある。一つ目は、国際貿易で基本的に関税がないこと。これは自由競争に属するといえる。二つ目は資金の流出入に制限がないこと。三つ目は、域内総生産(GDP)に占める政府支出の比率を高くしてはならないことで、政府は市場を監督する中で中小企業の市場競争への参加を保障する必要がある。


香港が抱える問題は、過去に統治者が一部の法律に縛られて思い切った行動が取れなかったことにある。また、香港政府の政治面での力不足で推進できない政策があった。こうした点を踏まえると、香港経済に問題が生じるのは、必ずしも市場経済そのものの問題ではないといえる。

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中国新聞社:香港の市場経済は東洋と西洋の影響をどのように受けているか?


雷氏:香港の最も重要な特徴は自由市場だが、その自由市場が西洋に属すのか東洋に属すのか、明確な線引きは難しい。
「市場」という概念は中国では長い歴史がある。『史記・貨殖列伝』では経済学の理論が詳しく記され、多くの内容は現在の市場経済と密接な関係があり、アダム・スミスの『国富論』の多くの考え方と通じるところもある。漢王朝の古典『淮南子』の中には市場について記されているところもあり、現代経済学と需給関係の面で通じるところがある。


だから香港の自由市場は「東」なのか「西」なのか明言できない。香港は西洋の現代経済理論や市場理論、考え方の影響を受けている。一方、中国人の考え方の中にも市場経済に似た要素がある。香港では両者が融合している形となっている。

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中国新聞社:香港を統治するうえでの重要な点、難しい点は?香港版国家安全法が施行され、選挙制度が改善された後、香港の統治に変化はあったか?


雷氏:香港の発展において明確にしなければならないのは、政府と市場の関係である。資本主義は無政府主義ではなく、またそうであるべきではない。また、政府はその合理的な機能を有する。効率的に機能する自由市場や社会において、政府の役割は明確にしなければならない。


政府の最も基本的な責任は、法の支配と治安を保障し、私有財産権を保護することである。香港では2019年に抗議活動が起こって治安が悪化し、一部の商店や地下鉄が破壊された。今は香港版国家安全法があることで市民は守られている。香港版国家安全法の役割の一つは治安を守ることで、治安が守られることで私有財産権が保護される。そしてこれは、香港の市場経済を保護することに等しい。


香港版国家安全法の施行と選挙制度の改善のもう一つの役割は、政府の政策推進で直面していた立法会での妨害圧力を弱めることができた点である。今後は立法会での政策の可決は、よりスムーズになるだろう。


香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は2021年の施政報告の中で北部メトロポリス構想など長期的な計画を打ち出した。こうした方向性は正しく、香港政府は長期的な視野で長期的な発展を見据えるべきだと考える。しかし、懸念しているのは、計画を実施する過程で解决しなければならない問題があることだ。北部メトロポリスは新界に位置し、新界の原住民や一部開発業者の利益に絡むため、これらの問題の処理方法を打ち出す必要がある。また民間企業などの参画を促すインセンティブを提供することも重要となる。

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中国新聞社:全国政治協商会副主席兼国務院香港マカオ事務弁公室主任の夏宝龍氏が先日の演説の中で、香港の資本主義の発展について、すでに多くの矛盾が蓄積し、立法会が香港社会の各階層、各界の異なる利益に客観的に配慮する必要がある。特に資本主義の発展に有利であると同時に、香港全体、各界、地域の利益のバランスをとる必要がある、と語っている。これについてどう思うか?


雷氏:香港社会はすでにかなり複雑な段階にきており、多くの異なる利益集団が政治、政策決定の面で異なる影響力を持ち、政府の計画に影響を及ぼすに至っている。しかし、一つの社会が良好な統治を実現するためには、異なる利益集団のバランスをとるとともに、社会全体の利益に配慮しなければならない。社会全体の利益に配慮した場合、小規模な団体の利益が看過される可能性も指摘されるが、経済全体が繁栄すれば全ての人が何らかの恩恵を受けることができよう。


懸念しているのは、ここ2~3年は抗議活動、コロナ流行により、政府が財政出動で景気を刺激し、社会の運営を維持しなければならなかったことだ。コロナ収束後、香港政府は支出を正常に戻し「慎重な財政運営」の理念を維持し、今後は高齢化問題に主体的に取り組まなければならない。


また、香港の若者の問題もある。香港の教育は長期にわたり理工系の分野が弱かった。金融センターという位置づけの下、優秀な学生は金融、法律、医学などを選択する傾向にあり、科学技術の人材が不足している。但し、この問題は粤港澳大湾区の発展と結びつけ、香港の若者に新天地を提供することで解決できよう。無論それには香港政府も教育面で何らかの対策が必要となろう。


香港では過去の教育の影響もあり、本土に心理的な抵抗心がある若者や本土に行ったことがない若者がいる。このため、香港の若者に本土のことや、本土での発展余地について知ってもらう必要がある。

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中国新聞社:香港の今後についての展望は?


雷氏:市場経済の維持、政治制度の発展の面で香港は良い方向に向かっていると思う。過去、香港は政治的に西洋式の自由主義的民主主義を追求した結果、経済運営に集中できず回り道をし、多くの時間を無駄にしてきた。今は経済運営に目を戻すことが非常に重要だ。


いかなる制度も真の持続性を保つためには、それが市民に利益をもたらすものでなければならない。「一国二制度」の実施が香港、本土双方に利益をもたらせば、香港の市場経済、関連制度を長期にわたり維持していくことが可能であろう。無論、香港独自の特徴を維持すると同時に、反中拠点にさせてはならない。


今後も香港は市場の自由競争によって経済を成長させていく必要がある。但し、政治制度面では、問題が出ている西側の自由主義的民主主義に盲目的に追随するのではなく、「香港独自の道を歩む」ことが重要で、これは唯一の長期的な選択であろう。(翻訳:香港ポスト)

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