中華文化はいかような力を頼りに世界に進出できたのか――瀋陽故宮博物院の元院長武斌にインタビュー

長い歴史の中で、東西文明の交流と衝突は、いずれも互いに強い刺激と影響を与えており、各々発展の軌跡にもお互いの痕跡が見られる。東西文明は価値の中核は異なっていると言えども、いずれも人類の美と知恵の結晶である。数千年来、中華文化はどのような力によって世界に進出し、中華文明と西洋文明の交流・交渉の中で調和と共生を実現したのだろうか。

歴史文化学者である、瀋陽故宮博物院元院長の武斌氏はこのほど、中国新聞社の「東西問」単独インタビューに応じた。

ここで、インタビューの内容を以下のように要約する。

中国新聞社記者:世界文明の視点から中華文明を認識し、中華文明が世界文明に与えた価値と意義を深く理解するにはどうすればよいでしょうか。

武斌:中国と西洋は物質面においての交換と交流から、芸術、思想、文化の交流と共有にまで発展しました。中華民族が創造した精神文化(非物質的文化製品)は次第にヨーロッパ大陸に浸透し、「公共財産」となり、「世界文化」となりました。西洋にとって、東洋文化は神秘的で不思議な存在として、人々の歴史文化心理の深層に深く記憶されています。西洋の歴史文化を深く理解した上で、初めて我々は当時の東西文明の交流がにぎわう光景を思い描くことができ、中華文明の西洋文明に対する刺激と啓発を深く理解することができます。

中華文化の世界的影響力を論じるには、中華文化が閉鎖的な環境の中で独自に成長したのではなく、世界文化という大きな枠組みの中で、他の民族、他の文化との交流、対話、そして相互に激しく揺さ振り合いながら成長や発展してきたことを理解する必要があります。世界文化の構成要素として、中華文化は非常に重要で、不可欠です。自国、自民族以外の視点から中華文化を認識するべきです。「他者」の視点、すなわち世界文明の立場から中華文化を認識すれば、自然にそれを更に広く深く理解でき、中華文化が世界文化史上に占める地位と影響をより明らかにすることができます。

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中国新聞社記者:中華文化はどういう力によって世界に進出し、中華文明と西洋文明の交流・交渉の中で調和と共生を実現したのでしょうか。

武斌:一国の文化が世界に影響を与えられるかどうかは、総合的な国力に大きく左右されます。中華文化の海外伝播の歴史においては、何度か著しい伝播の高揚期があります。その高揚期の出現にはそれぞれの原因と特徴がありますが、共通の特徴や原則としては、いずれも中国の国力が強く、領土が広く、平和的に発展している時期に現れたということです。漢、唐は中国の歴史上の強大な帝国を形成し、元の時代では更に世界的な大帝国となり、ユーラシア大陸の交通が大きく開きました。そして明清の時代に至ると、特に康熙乾隆の盛世には、更に中国の封建社会発展の最後のピークに達しました。強盛なる国力は当時の社会、文化、各分野の革新と進歩を牽引し、それによって文化の大繁栄、大発展を遂げました。

潜在力の高い文化として、全世界から注目が集められ、各国の民衆は自ら中国に来て中華文化を学び、理解し、積極的に優れた文明に近づこうとしました。受け入れ側にとって、特に自国の社会文化の発展が大変革、大激動の時期にあたって、外来の優秀な文化の魅力と影響力は一層巨大なものになるはずです。例えば、日本は大化の改新を経たからこそ、内乱の絶えず、経済も文化も成長しなかった奴隷制から徐々に封建制社会に移行できました。そのため、自ずと日本は、この時期の豊かで奥深い盛唐文化に強い魅力を感じ、中国の先進的な文化を進んで摂取する意識もますます強くなりました。

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中華文化が海外で広く伝播し、深遠な影響を及ぼしているのは、次の3つの要因があります。

まずは、中華文化の豊かさです。中華民族が人類に貢献した知恵として、顕著に現れ出ているのは、豊かな物産です。例えばシルク、磁器、茶の三大物産は人々の生活様式に大きく影響し、変化させました。物質から精神的なものまで、生産から生活まで、政治から芸術まで、宗教から民俗まで、いずれも多かれ少なかれ、遠方でも近隣諸国でも、海外に伝播し、世界の各民族の文化に様々な面で影響を及ぼしています。

次に、中華文化の開放性です。数千年にわたる中華文化発展の全体的趨勢を見てみると、この開放性は中華文化に健全な文化交流の態勢、文化伝播と受け入れ構造を保持させました。これこそが中華文化に強大な生命力を持たせる要因だと言えるでしょう。

最後に、中華文化の先進性です。18世紀の産業革命以前、中華文化は世界で最も先進的な文化形態で、海外の注目を広く集めていました。明・清時代を例にすると、ヨーロッパの思想家ヴォルテール、ディドロ、ライプニッツなどは、中華文化に対して熱烈な称賛と傾慕の情を示し、「中国」を理想の「ユートピア」と考えています。

強調しておくべき点があります。大規模に海外に伝播することができ、重要な影響を与える文化は、往々にして先進的な文化形態で、単純な文化記号や異国情緒的な調整や気晴らし的なものではないということです。

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中国新聞社記者:中華文化は域外に伝播し、他の民族に受け入れられ、創造的転化を経てその民族文化の一部、ひいては世界文明の一部になるということに関してはどう思いますか。

武斌:中華文化は輝きを四方に放って、直接的、または間接的に様々なルートを通じて、広く世界各地に伝播し、そして飛躍的に全人類の共通の財産となって、世界各民族の文化の進歩と繁栄を促進しました。

中華文化が世界文化史の中で顕著な位置を占めているのは、中華文化の内発的な創造的原動力と豊富な内包、および各分野で得た輝かしい成果に起因します。しかし、一つの民族文化は、かつてはいかに豊かでも、いかに先進的でも、いかに偉大でも、いかに輝かしいものでも、もし自己を閉鎖し、外部の世界と完全に隔絶し、他の民族と文化的に交流しなければ、発展の原動力を失ってしまうだけでなく、自己更新、自己発展の生命力を保つことができず、世界的文化価値と意義を認められることもできません。したがって、中華文化の世界文化史における顕著な地位は、まさに中華文化の開放性により、そして多種多様な国際文化交流により、または中華文化の広範かつ永続的な伝播と重要な影響によって獲得できたのです。

私は、海外における中華文化の認知度については、さまざまな角度から検討すべきだと考えています。例えば、海外の人々がどのような分野、どのようなルートから中華文化を理解し、認知しているか、中華文化が海外においてどの程度広がり、どの程度人々に届いているか、中華文化に対する理解をどの程度深めているかなどです。また、伝播は受容とは不可分の関係にあり、伝播の効果は受容の結果に依存し、文化伝播は実際には文化受容の過程です。中華文化の海外への伝播には、理解・消化・受容の過程が含まれています。もちろん、理解と消化は、全面的に受け入れることではありません。仏教を例にすると、私たちが受け入れている仏教もインドの原始仏教ではなく、中国の仏教学者が自分の認識と理解に基づいて中国の伝統文化と結びつけ、中国化させた仏教です。中華文化の海外伝播も同様で、伝播の効果は海外の受容者にどの程度受け入れられているかにかかっています。

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中国新聞社記者:ヨーロッパの啓蒙思想家から「理性の光」と認められた中華文化は、啓蒙運動を通じて、どのように世界文化の歴史的変遷に参与しているのでしょうか。中華文化と西洋文化の調和と共生はどのように実現して、その意義はどこにあるのでしょうか。

武斌:私は400万余りの文字で綴った『新編中華文化海外伝播史』全6巻を出版したばかりですが、その中で、中華文化の海外への伝播は非常に広範であるという観点を述べました。いわゆる「広範」、その含意は二つあります。1つ目は伝播する内容の広さで、2つ目は、伝播する範囲の広さです。偉大な創造としての中華文化は中華民族の独立した思考、独立した成果であるだけではなく、他の民族との文化交流を積極的に展開し、他の民族が創造した優れた文化的成果をも大規模に導入、吸収したのです。

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中華文化はその草創期から、開放的で包容力が高く、積極的な開拓精神を持ち、自身が成長すると同時に周辺地域にも着々と広まり、他の民族文化と接触、交流、融合してきました。神農、尭、舜それぞれの西南部の地域を収める話、箕子朝鮮の話、周穆王の西域諸国を巡遊する話、徐福の渡日の話など、これらの物語から、その時中国人がすでに草創期の中華文化を域外に伝えていたと分かります。中華文化自身の発展、成長、成熟に伴い、交通の発達、対外交流の拡大に伴い、中華文化が海外に伝播する内容はより豊富に、伝播する範囲はより広くなり、影響もますます大きくなっています。中華文化の海外への伝播の歴史は長いものです。滔々と絶え間なく流れる川の如く、数千年も途切れず発展し、伝播の範囲は日増しに広くなり、内容は日増しに豊富になり、影響は日増しに拡大しています。海外への伝播の歴史は中華文化の発展の歴史と一致しており、中華文化は自身の歴史を発展させると同時に、人類の文明にも貢献しています。(完)

【訳者 郭木蘭 陳延 華僑大学准教授】

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