中国時代劇ドラマには欠かせない伝統工芸【京繡(けいしゅう)】
京繡(けいしゅう)
京繡は「宮繡」とも呼ばれ、北京およびその周辺地域で発展した刺繍技術の総称です。元代には、燕京(現在の北京)に京繡を専門とする官営機関「繡苑(しゅうえん)」が設立されました。明・清時代には、皇室や宮廷のために龍袍(皇帝の礼服)や補服(官服の胸や背に付ける刺繍の紋章)などが刺繍され、京繡の技術はさらに発展しました。この技術は宮廷文化だけでなく民間にも広まり、特に京劇の衣装には京繡が多く用いられるようになりました。その結果、「燕京八絶(えんけいはちぜつ)」(北京の八つの絶品)の一つとして広く知られるようになりました。
京繡の特徴
京繡の最大の特徴は、精巧な技術と高級な素材の使用にあります。緞子(どんす)や絹などの高級生地を使用するだけでなく、刺繍糸にも特別な材料が用いられます。例えば、皇帝の龍袍には本物の金や銀を使った金銀糸が使用され、極めて豪華な仕上がりとなります。また、真珠や孔雀の羽を使った糸など、貴重な素材も多く用いられます。さらに、京繡の模様は非常に規則正しく、宮廷の服飾制度に基づいて厳格にデザインされるのも特徴です。
京繡の図案と意味
「図には必ず意味があり、模様は必ず吉祥である」という言葉が示すように、京繡の図案には縁起の良い意味が込められています。象徴や比喩、音の響きを利用した表現などを用いて、刺繍の意匠に深い意味を持たせています。例えば、牡丹は高貴さや華やかさを象徴し、梅・蘭・竹・菊(四君子)は高潔で優雅な品格を表しています。このように、京繡の刺繍には単なる装飾を超えた精神的な価値があります。
京繡の刺繍製品
京繡は、宮廷や皇室だけでなく、高官や貴族の間でも広く愛用され、さまざまな用途の刺繍製品が作られました。
服飾類
主に皇室の衣装や官僚の官服に使われました。皇帝の龍袍や妃嬪の礼服、官僚の補服などが代表的です。
生活用品
刺繍が施された小物や室内装飾品も多く作られました。例えば、刺繍入りの巾着(荷包)、帳幔(寝具のカーテン)、刺繍のれん(繡簾)、刺繍ハンカチ(繡帕)などがあります。
戯曲衣装
京繡は、後に京劇などの伝統演劇の衣装にも用いられるようになり、華麗な刺繍が施された舞台衣装が作られるようになりました。これにより、京繡は舞台芸術の華やかさをさらに引き立てる重要な役割を果たすこととなりました。
京繡は、その精緻な技術と伝統的な美しさによって、中国刺繍文化の中でも特に高く評価されています。現在でもその技法は受け継がれ、芸術品としても高い価値を持っています。
江蘇人民出版社「天上取様人間織ー≪玉楼春≫里的服飾之美ー」より引用(筆者翻訳)