駐中国日本大使が講演 日中交流の現状と展望を語る

2025年3月13日、東京都文京区にある日中友好会館にて「今の中国を体感して」と題した特別講演会が開催された。登壇者は、駐中華人民共和国日本特命全権大使の金杉憲治氏。本講演は、一般財団法人日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)が主催。会場には100名以上の日中関係者が集い、日中関係の現状と未来について考える貴重な機会となった。

中国大使就任後、日本で初の講演会に登壇する金杉大使

日中交流の現状と課題

講演の冒頭、金杉大使は日中間の人的交流に言及し、ビザ免除の再開にもかかわらず、日本からの訪中者が少ない現状を指摘した。経済界の訪中は活発である一方、文化関係者や学者の訪問は依然として少ないとし、より幅広い層の訪中を促した。

また、中国の生活環境について、自身の経験を交えて紹介。特に、スマートフォン決済の普及率の高さを強調し、現金をほとんど使わない社会の実態を語った。「1年3カ月住んで、現金を見たのは2回だけだった」というエピソードは、会場の関心を引いた。

中国経済の現状と展望

中国経済について、金杉大使は「スケールの大きさ」と「スピード感」を強調した。加えて、高速鉄道網の発展や、国内移動が春節期間中に90億人分に達することなど、中国の圧倒的な規模感を改めて実感したと語った。

イノベーション分野では、大学卒業者の多さや、DeepSeekなど中国のイノベーションについて触れ、これらのイノベーションを支えているエンジニアたちについて「今の中国のエンジニアは24時間戦っている」と表現。また自動運転や無人デリバリー技術の進展にも驚きを示した。

日系企業の動向と中国市場の変化

中国市場における日系企業の動向についても言及。デフレ時代を生き抜いた日本企業が中国市場でも成功を収めている例として、ニトリ、無印良品、スシローなどを挙げた。特にスシローは、開店当日に10時間待ちの行列ができるほどの人気を博しているという。

また、製造業の生産拠点が沿岸部から内陸部へと移動している現状を説明。昨年の実質GDP成長率が高かった都市の多くが内陸部であったことを踏まえ、今後の日系企業の進出先として内陸部の可能性について言及した。

中国の外交戦略と世界情勢

中国の外交について、金杉大使は「中国はこの数年、自国に有利な国際環境を作るように働きかけてきた」と分析。

米中関係については、中国がトランプ大統領再登壇を見据えて多くの準備をしていたことを指摘し、今後米中サミットの開催時期がいつになるか、日本を始め諸外国が注目をしていると語った。

また、3月下旬に開催予定の日中韓外相会談についても触れ、王毅外交部長の訪日を通じて関係強化が図られる可能性を示唆し、その後李強首相の訪日も目指したいと語った。加えて、大阪・関西万博における中国の関心の高さに言及し、上海万博以来の成功体験を活かし、積極的に関与していると述べた。

日中関係の未来に向けて

最後に、金杉大使は日中関係の課題として、言論NPOの調査結果をもとに、国民感情の悪化を挙げた。特に、福島第一原発のALPS処理水放出が、中国における日本のイメージが悪化している点を指摘。両国にとっていい話、いい案件を積み重ね、日中関係が自分たちの生活に直結して良くなるように、効果を生むようなことができたらいいと考え、また何をやったら国民感情が良くなるか常に考えて仕事をしていきたいと語った。

本講演は、日中関係の現状を知る上で貴重な機会となった。経済・技術・外交と多角的な視点からの分析を通じて、日中の未来に向けた展望が示された。

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