25年以上中国映画・ドラマの配給に 携わる「華流」のプロフェッショナル【株式会社フォーカスピクチャーズ代表取締役・仲偉江氏インタビュー】

90年代、映画業界に入り日本の版権を購入

1989年に日本へ留学し経済学を学んだ仲氏は、日本に残りコンピュータ関係の上場企業に就職してマーケティング関連業務を担当した。90年代に入り、日本市場で取り扱われる中国映画の数が非常に少ないことに気づいた仲氏は、市場参入の可能性を感じ、社内で配給など関連業務の立ち上げを提案した。会社は仲氏の考えを支持し、中国映画を専門に扱う子会社を設立することになった。当時、NHKが毎週日曜日の午後3時から放送していた番組に仲氏が推薦した『桃源鎮』などの中国映画が放映され、当時の日本人が中国の風土や人情を知る重要な手段の1つとなった。 仲氏は、映画を選ぶ際に独自の厳しい基準を持っていた。 まず、映画の評判が良いこと。たとえば『看車人的七月』は第28回モントリオール映画祭で審査員大賞を受賞し、この作品の脚本家である張挺は茅盾文学賞を受賞している。また日本に作品を紹介する際、日本の映画ファンが直感的に内容を理解できるように原題から変更することも多く、例えば『看車人的七月』は『胡同愛歌』として公開した。

中国の大作映画の多くは価格が非常に高く、版権の購入から日本でのプロモーションまで各段階で多額の資金を必要とする。日本において中国映画はまだマイノリティーであり、投資リスクも高い。当時同社が紹介した映画の多くは純商業的ジャンルではなく文芸的ジャンルであり、作品の評判や質は高くても、題材の制約から大規模上映に至らないことが多かったという。一部の文芸に偏る作品は、規模が小さいために上映に適した映画館が見つからないこともしばしばであった。そこで仲氏は会社の業績を上げるため、中国のテレビドラマに特化した事業に転換することを決めた。同時に、日本の有名な映画の版権も購入することにした。 例えば、日本でよく知られている「男はつらいよ」シリーズ全50作品の版権を一気に購入して、中国の映画祭で上映された、またいくつかのテレビチャンネルで放映する機会を得た。さらに、日本の有名な映画『おくりびと』の版権を購入し、2021年に中国の映画館で公開された。

 

テレビドラマへの転換、中国ドラマを日本へ

会社の事業を転換した後、仲氏は独自の視野とセンスで『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』、『長安二十四時』、『コウラン伝 始皇帝の母』(DVD権)、『始皇帝 天下統一』などの歴史ドラマを購入し、日本で放送した。 日本で中国ドラマを放送することについて、仲氏は「日本人が中国文化を理解するのに非常に役立つし、映画やテレビを通じて国と国の距離を縮めることができる」と考えている。  仲氏はまた、日本で中国のテレビドラマを見るには主に3つの方法があると教えてくれた。まずはCSやBSなどのテレビ放送、次に動画サイト、最後に発売されるDVDである。中国のDVD市場は現在ほとんどなく、完全にインターネットに取って代わられている。一方、日本ではまだDVDの市場があるものの将来性はなく、数年後には消えてしまうだろうと予想している。  作品によっては版権を購入した後に字幕翻訳をつける過程があり、コストもかかる。そのコストを抑えるには通常は強みの異なる複数の会社と連携するという。  長年にわたる映画・ドラマ業界の経験を元に仲氏が紹介した多くの中国ドラマ作品が日本市場でヒットした。しかし仲氏は現状に満足することなく、日本にいながら中国国内のトレンドにも常にアンテナを張っている。最近では中国で大ヒットしたドラマ『夢中的那片海』もチェックしているという。

 

市場は変化し、チャンスと試練が共存する

仲氏によれば、中国では馴染みのある俳優が出演するドラマを追いかける傾向があるが、日本では一般的に中国の俳優が知られていないので、ドラマの内容で好きな作品を選ぶことが多いという。仲氏はさまざまなテーマの作品を紹介しようと試みたが、日本で最も人気のある中国の映画やドラマは依然として歴史物の時代劇ドラマである。その理由は、日本の文化的背景と関係があると仲氏は考えている。日本では、子どもからお年寄りまで歴史をテーマにした漫画やアニメ、本を読む。中国の定番の歴史物語は日本人もよく知っており、映画やテレビになっているものも多い。そのため中国の歴史物語は日本人に馴染みがあり、興味を持たれやすいのだろうと仲氏は分析する。例えば、三国志をテーマにした『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』や秦の始皇帝を題材にした「大秦帝国」シリーズなどは、日本でも一定のインパクトを与えている。    日本における「華流」は年々拡大しているが、仲氏のように第一線で活躍する実務家にとってはまだまだ巨大な試練が待ち受けているという。オンライン情報技術の出現により、海を渡って映画を買う時代は過去のものとなり、インターネットやストリーミングメディアに取って代わられた。ネットフリックスに代表されるオンライン配信会社が自主制作のドラマを開始し、中国国内企業のテンセントや愛奇芸も日本市場への参入を始めている。これらのことは、日本で中国ドラマを配給する企業にとって、かなりの難題となっている。なぜなら、彼らの自主制作ドラマは日本のプラットフォームに上陸して放送され、全話を一気に視聴できるのに対し、輸入して翻訳・制作するドラマは週に1、2話しか放送されないことが多いからだ。  しかし、「市場は常に変化するが、そこにはチャンスと試練が共存している」 と仲氏は言う。仲氏自身は市場に迎合するのではなく、常に市場を引っ張っていこうと考えている。そのため、大量の時代劇ドラマだけでなく、より多くの現代中国の現実を反映した映画やドラマを日本に紹介したいと望んでいる。インタビューの最後に仲氏は、韓国ドラマを扱うのは市場のためで、中国の映画・ドラマを扱うのは一種の心情だと語った。前途は多難だが、仲氏は率先してさらに多くの質の高い中国の映画やドラマを日本の観客に提供し続けたいと考えている。

 

 

株式会社フォーカスピクチャーズ 代表取締役 仲 偉江

黒龍江大学卒業後、大慶石油総廠外事弁公室に就職。在職中に通訳として数回にわたり中国の代表団と同行して日本を訪問する。その後、日本での留学を経て、現地企業に就職。2000年4月株式会社フォーカスピクチャーズを設立。『上海家族』『チベットの女』など40作品の中国映画を買い付け、日本で上映・放送をする。現在では『三国志~司馬懿軍師連盟~』や『寵妃の秘密』シリーズ、『長安二十四時』など数多くの中国ドラマを買い付け、国内で展開する。

 

 

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