中国の政府活動報告~「5%」、「1,200万人」などがキーワード

中国の李克強・首相が5日発表した政府活動報告では、今年の主な目標や重点課題を打ち出した。中でも「5%」、「1,200万人」などのキーワードがある中、キーワードに基づいた主な項目について以下に纏める。

■GDP成長率目標5%
まず、最も注目度が高かった国内総生産(GDP)の成長率目標。今年は「5%前後」とされた。この目標設定については「比較的手堅い目標」で、「安定を重視する現在の政策を体現したもの」と受け止められている。また、「政策の安定性と連続性に資する」とみられている。

■都市部雇用増加数1,200万人
今年の都市部雇用新規増加数の目標は1,200万人前後に設定。昨年の目標(1,100万人)を上回っているが、昨年の新規雇用増加数は1,206万人だったと試算されており、昨年実績に近い数値となっている。雇用は、安定した経済成長の基盤になるものだけに、雇用の創出・確保は政府にとって引き続き大きな課題。特に、若年層の雇用確保、労働者が安心して働ける社会保障の整備、人材育成などが大きな課題と指摘されている。

■財政赤字の対GDP比率3%、専項債3.8兆元
財政政策の主な目標は、◇財政赤字の対国内総生産(GDP)比3%(前年に比べて0.2ポイント引き上げ)、◇地方政府の専項債(地方債の一種で収益性のあるプロジェクトの資金調達用)発行額3兆8,000億元(同1,500億元の増加)。ともに前年を上回る水準に設定した。
財政政策の方針については、引き続き「積極的な財政政策」という大きな方針の下、「力を入れて効果を上げる」と明記。減税などの「量」を引き続き重視すると同時に、「質」の効果にも一段と配慮する必要があるとし、政策は継続すべきものは継続し、、最適化すべきものは最適化すると、微調整の必要性を訴えた。
専項債の用途については、インフラ投資だけでなく、科学技術イノベーションや環境、デジタル経済などの重点分野に、より使用できる枠組みが必要と指摘されている。特に、重点分野への投資は、経済規模の底上げだけでなく、中長期的には経済・産業構造の高度化につながるだけに、資金の有効活用が注視される。

■消費の回復・拡大
今年の優先課題として、まず挙げられたのは「消費の回復と拡大」。特に、「大口消費」の安定、「生活サービス消費」の回復を推進するとした。「大口消費」とは主に自動車類、住宅類(住宅、家電など)、「生活サービス消費」は主に観光、飲食などを指すとみられており、関連分野は消費促進策の重点になると予想されている。

■デジタル経済の推進
デジタル経済については、実体経済との深い融合が、今後の成長の牽引役になると指摘。デジタル経済と、製造業を中心とした従来型産業との融合で、生産力や生産性を引き上げる方向だ。

■国有企業改革と民営企業支援(ハイレベルな社会主義市場経済体制の構築)
国有企業と民営企業に関しては、「2つの揺るぎないこと」を着実に実行するとの方針が示された。「2つの揺るぎないこと」とは①国有企業改革の深化と国有企業の競争力向上、②民営企業の発展環境の最適化と民営経済の発展・拡大促進のこと。つまり、ハイレベルな社会主義市場体制の構築に向けた、国有企業改革と民営企業支援のことである。
民営企業を巡っては、2021年以降のプラットフォーム企業に対する統制強化などで、一時は先行きが懸念されていたが、昨年の中央経済工作会議でも「2つの揺るぎないこと」を堅持するとの方針を示すなどし、民営企業の発展の必要性を強調。政府活動報告でも「2つの揺るぎないこと」を実効する方針を踏襲し、国有経済と民営経済が共同で発展するための公正で公平な競争環境の創出につなげるとみられている。

■外資誘致・導入に一段と注力
外資の誘致・導入に、一段と力を入れる方針も盛り込まれた。外資に対しては◇市場参入を拡大する、◇現代サービス業分野の開放を強化する、◇内国民待遇を適切に実施するーーなどとし、国内市場の開放を一段と進める方針。また、包括的・先進的TPP協定(CPTPP)などハイレベルな経済連携協定への加入を積極的に推進するとともに、関連規則や規制、管理、基準などの制度面の開放拡大を通じて、外資企業がビジネスを行いやすい環境を整える。

■グリーン・トランスフォーメーション
環境問題への対応も重要事項の一つ。政府活動報告では「グリーン、低炭素、質の高い発展をこれまで以上に重要に位置づける」と明記し、「発展方式のグリーンモデル転換の推進」、「重点分野の省エネ・炭素削減の推進」といった目標や課題を明確に打ち出している。
この点を踏まえると、今後はエネルギー消費量の多い分野の炭素排出、グリーンモデル転換といった課題が一段と重要視されると指摘されている。

■住宅確保
住宅供給の保障も重要な課題の一つに挙げられた。政府活動報告では、「住宅保障システムの構築を強化し、実需や買い替え需要を支援し、新市民や青年などの住宅問題を解決する」と明記。また、高齢化の進展に対応すべく、養老機関の新設や拡充を増やし、高齢者への専門的で多元的なサービスを実施するとしている。
国民の住宅問題の解消は経済の安定化のために必須となるだけに、住宅政策は注目が集まりやすい。また高齢者サービスを強調したのは、人口構成の変化に対応したもの。すべての国民が安心して暮らせる住宅供給を目指す方向性が読み取れる。

■重大リスクの防止・解消
重大な経済・金融リスクを効果的に防止・解消することも重要な課題の一つ。重大リスクは主に不動産と地方政府の債務リスク。不動産では、デベロッパーに対する財務改善などに向けた支援。債務問題は、借入期間構造の最適化や金利負担を軽減させるべく、金融政策と財政政策の連携などが必要としている。

■食糧生産能力の向上
食糧生産の安定化も引き続き大きな課題。特に現在は、世界情勢の変化で、一部の国による食糧輸出の制限・禁止が、世界的な農産品の供給に影響を及ぼしているほか、世界的な異常気象が農業生産に影響を与えている。こうした状況下、中国は世界の農産物の重要な消費国としてこれらの不確定要素に対応す必要がある。また、小麦などの単位生産量を引き上げる余地が大きい中、農業への新技術の導入や機械化が進むと予想されている。

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