中国は今後も世界の工場か     

                      

 中国国家統計局が17日に発表したデータによると、初歩的な試算で、2022年通年の中国の国内総生産〈GDP〉は121兆207億元〈1元=約19円〉で、不変価格で計算すると前年に比べ3・0%成長し、経済成長率が大半の主要な経済体〈エコノミー〉を上回った。これと同時に、昨年中国の人口は減少した。

19日の中国新聞電子版は「中国は今後も世界の工場ならびに世界の市場でいられるのか」と題する次のような記事を配信した。

 中国は今後も世界の工場であり、なおかつ世界の市場であることができるのか。世界的な新型コロナの流行、地政学的競争、さらに今なお収束のめどが立たない中米貿易戦争は、中米両国企業の相手国市場に対する見方と計画にどのような影響を及ぼすのか。

 中国新聞社の「東西問・中外対話」コーナーは、上海米国商工会議所の鄭芸・会長と「胡潤百富」の創刊者ならびに首席研究員であるルパート・フーゲワーフ氏を招き、関連のトピックについて語ってもらった。

 対談の実録要旨は以下の通り。

 ◇外資は依然として中国市場を重視

 中新社記者:米国企業は中国での経営の将来性をどう見ているか。

 鄭芸:米国は現在深刻なインフレ問題に直面しており、インフレ率が過去40年で最高レベルに達している。連邦準備制度理事会〈FRB〉はずっと積極的に金利を引き上げ、インフレレベルの緩和と労働力市場のっ回復に力を注いでいる。

 同時に、政策制定者は米国企業に対し「リショアリング」または「ニアショア」を求めている。「リショアリング」とは企業を米国に呼び戻すこと、「ニアショア」とは、企業の移転先を米国に近い場所にするということである。皮肉なのは、今や「グローバル化」という言葉は(ワシントンでは)すでに良い言葉ではなくなっているということだ。

 現在、米中関係は谷間の時期にあり、米国政府は中国をターゲットにした法案を多く打ち出しているが、米国企業は引き続き中国を非常に重要な戦略市場と見ており、米国商工会議所を含む多くのメンバーも同様に考えている。

 中新社記者:中国商務省のデータによると、昨年上半期の米国の中国に対する投資実行額は前年同期比26・1%増で、これは実際に非常にハイレベルな数値だった。あなたはこれをどう見るか。

 フーゲワーフ:データは外国企業が中国に対する新たな投資について依然として強い興味を抱いていることを示している。中国の外資および香港・マカオ・台湾トップ100企業を見ればわかるように、これらの企業の中国大陸における経営期間は平均57年で、平均「年齢〈社齢〉」は91歳だ。おおよそ15から20社の企業は中国での経営期間が100年を超えている。

 これらの企業には非常に長期的な戦略があり、中国はこうした企業にとって重要な市場である。こうした企業は中国で価値を増やすことができ、また貢献を果たすことができる。わたしにとって最も印象的だったのは、これらの企業の長期投資と長期的視点である。これは「ここでカネを稼いだらとっとと失せる」という点から見れば、一部の企業はそうかもしれないが、これらトップ100企業はそうではないということだ。

 鄭芸:米国企業は間違いなく引き続き中国を最重要の戦略市場とみなすだろう。米国商工会議所のメンバーはすでに中国で長年にわたり商売をしており、中国に対し長期にわたって投資している。彼らの中国での経営は、中国の発展にも貢献しており、これらはもはやグローバルサプライチェーンの一部だけではなくなっている。中国市場は潜在力が非常に大きいため、米国企業は中国で優れた売上を示している。外資は中国市場に対し依然として興味を抱いている。

 ◇米国の中国に対する非難が「日常茶飯事」になるのは商業にとって不利

 中新社記者:現在の米国の中米関係に対する見方はどのようなものか。中米関係は中米両国のビジネス・投資環境にどのような影響を与えるか。

 鄭芸:残念ながら、米国国内には、中国は戦略的ライバルであり、そのためあらゆる政策がこの点を基準にして制定されなければならないというコンセンサスがある。これまで中国に対する非難は一般的に選挙期間だけのことだったが、今では中国に対する非難が「日常茶飯事」になっており、これは二国間の商業関係にとって不利である。

 われわれは、商業的なインタラクションと交流は両国どちらにとっても良いことであるとずっと考えている。中国の投資家が米国にいることは、米国にとっても良いことである。これは確実に米国経済にとってプラスになっており、雇用のチャンスをもたらし、税收をもたらし、なおかつ消費者の味方にもなっている。しかし現在の政治的な環境の焦点はそれ以上に自身の市場を守ることに置かれている。米国は現在、保護的な性質がきわめて強い政策を実施しているため、ある程度の時間をおいてからでないと、事態は好転しないだろう。中国企業は必ず次の段階でどうすべきかをはっきりと判断しなければならないが、われわれは引き続き中国企業と協力し、中国市場を発展させる考えに傾いており、なおかつ中国企業が米国でうまくやることに期待している。

 中新社記者:中米両国間の商業貿易関係は「ガードレール」の一つになりうるのか。財界はなんらかの方式で関係を改善することができるのか。

 鄭芸:商業関係はずっと中米両国関係の礎石であり、両国間の貿易と投資が大きく成長したことは、二国間関係の強化という面で重要な役割を果たしてきた。

 中国は米国にとって、カナダとメキシコに次ぐ第三の貿易パートナーだ。また米国は中国にとってASEAN〈東南アジア諸国連合〉とEU〈欧州連合〉に次ぐ第三の貿易パートナーだ。新型コロナの影響を受けたものの、2022年の1~7月の中米間の貿易総額の実質成長率は12%近い。

 両国は貿易にせよ投資の分野にせよ経済的には非常に一体化している。こうした強大な商業関係を維持することは両国の最大利益に合致している。わたしは無論こうした商業関係が両国関係の前向きの発展の「ガードレール」になることを望んでいる。

 ◇中国は引き続き世界の工場ならびに世界の市場となる

 中新社記者:ドキュメンタリー映画「アメリカン・ファクトリー」は中米両国で活発な議論を呼び、さらに中米両国の生産コストに関する曹徳旺氏の比較が中国メディアに報道された後ホットな話題になった。中国は今後も依然として世界の工場たりうるのか。産業チェーンとバリューチェーンにおける中国と米国の地位はすでに変化したのだろうか。

 フーゲワーフ:過去20年余りに中国が生み出した富を見ると、最初は不動産業界が単独トップで、おおよそ10年前から製造業が不動産を超えた。今やフォーチュンのランキングでは不動産は下落し、製造業が引き続き強じんさを保っている。とはいえ、ここ2年間は医療保健業界の成長が顕著であるというトレンドも見られる。

 鄭芸:外国投資家の観点から見ると、中国は最初、低コストな製造基地で、廉価な労働力によって世界の工場になった。中米貿易戦争が始まると、米国は中国製品に対し高い関税を課したため、メーカーは一部の業務をベトナムなどの他の国に移転せざるを得なかった。新型コロナの流行が発生した後、メーカーはグローバルサプライチェーン戦略をいかにして見直すかを考え始めた。

 中国の観点から見ると、中国は単なる低コストな製造基地であり続ける気はなく、バリューチェーンの川上に向けて発展し、労働密集型・低コスト・重汚染・高エネルギー消費な産業から真によりハイエンドな製造に移行し、高付加価値な製造業に移行しようとしており、これは中国の利益に合致する。

 わたしが思うに、中国は引き続き多くの製品の主要な製造基地となるが、低コストの製造業からは距離を置くようになるだろう。中国には世界レベルのインフラとエコシステムがあり、製造能力の競争力が高い。そのため、中国はこれから長い道のりを経て、長い多月にわたって世界の工場であり続けるだろう。

 中新社記者:中国では感染予防政策の最適化と見直しにより、消費の活力が高まり続けている。今後、中国は世界の工場であるだけでなく、長期にわたって米国企業を含めた外国企業にとってのきわめて重要な戦略市場にもなるのだろうか。

 鄭芸:米国商工会議所のメンバーはすでに中国で長年経営しており、こうした企業が中国で行っているのは長期投資だ。これらの企業の中国での経営は、中国の発展に貢献している。1970~80年代、外国企業が中国に生産基地を建設したのは、主に中国以外の市場に輸出するためだったが、今では状況が変わっており、われわれの大多数の企業メンバーは中国でこの国の発展のために貢献している。まさしくフーゲワーフさんが先ほど指摘したように、中国市場は潜在力が非常に大きいため、米国企業も好調な売上を示している。思うに、こうした観点から見ると、外資は中国市場に対し依然として強い興味を抱いており、なおかつ引き続きこうした興味は維持されるだろう。

 中新社記者:フーゲワーフ氏は2013年に、中国は資産が10億㌦を超えるビリオネア〈億万長者〉の総数が米国を超えて世界トップになったが、中国の億万長者はチャリティー活動への参加率が高くないと指摘した。10年近くを経たが、中国の企業家のチャリティー活動はどういった方面で進歩しているのか。米国企業のチャリティー活動の成功経験で参照可能なものはあるのか。

 フーゲワーフ:チャリティー活動はわれわれがずっと関心を寄せてきたことであり、現在、富の創造の速度があまりにも速いため寄付が追いつかないというのが世界的な問題となっている。

 われわれはこの100年余りのグローバルな範囲での寄付額が最も多い慈善家のレポートを作成したが、中国人が数人いた。例えば曹徳旺氏は10億㌦以上を寄付しており、ほかにも一部の不動産デベロッパー、例えばすでに亡くなった香港の有名な慈善家の邵逸夫氏などがいる。米国は中国に比べ租税面での優位性があるが、問題の核心はいかにして非営利的な方式で効果的にこれらの資本を分配するかだ。

 鄭芸:わたしは中国にはより多くの曹徳旺氏やビル・ゲイツ氏が現れると信じている。米国には成熟したシステムがあり、チャリティー活動をサポートしている。まさしくフーゲワーフが言うように、中国には財界人がより多くチャリティー活動や寄付を行うようサポートするためのより有利な租税制度が必要だ。 (中国通信=東京)

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