BYDは値上げ、テスラは値下げ~販売状況の相違を反映
中国で電気自動車(EV)大手のBYDがこのほど、値上げを発表した。一方、テスラはこれより先の10月に値下げを発表。ここにきて、中国のEV市場をけん引する両社が異なった価格戦略をとるのは、両社の今年の販売動向の相違が背景にある。
比亜迪(BYD)は11月23日、傘下のEVブランド「王朝」、「海洋」、「騰勢」について、価格を引き上げると発表。値上げ幅は2,000元から6,000元となる。一方のテスラは10月に値下げを発表。値下げ幅は1万4,000元から3万7,000元だった。テスラの値下げで、市場で「EVの価格競争が広がる」と懸念されていた矢先、BYDは値上げに踏み切った。BYDが値上げの理由として挙げたのは、2022年末のNEV補助金政策の終了と電池原材料コストの上昇だ。これらの理由はBYD特有のものではなく、EVメーカー全体に共通するもの。にもかかわらず、BYDが値上げ、テスラが値下げと異なる価格戦略を打ち出した背景には、両社の今年の販売状況の相違がある。
■販売好調のBYD
BYDは年初来、販売が好調だ。10月の販売台数は21万7,800万台。前年比で168.78%増、前月比では8.2%増で、2か月連続で20万台を突破した。販売台数は毎月1~2万台のペースで増加しており、NEV市場全体に占めるシェアは30%に達する。今年の累計販売台数はすでに約140万台に達し、年初の目標である150万台の達成は確実な状況にある。今年初めの数回の値上げ後も人気は衰えず、販売圧力は大きくない。
利益も増加傾向にある。今年の各四半期の1台当たり利益は、第1四半期が0.24万元、第2四半期が0.7万元、第3四半期が0.95万元。今回の値上げ幅(2,000元~6,000元)が消費者に受け入れられれば、第4四半期は1万元の大台を突破する可能性が高く、来年からのNEV補助金政策廃止によるマイナス影響を相殺できるだけの体力がある。
■販売目標実現が厳しいテスラ
一方、テスラは今年の販売目標の達成が難しい状況にある。同社は、年初に定めた年間生産・販売台数目標が約150万台。これに対して、9月末時点の累計生産台数は93万台、販売台数は91万2,500台となっている。つまり、年間目標を達成するには、第4四半期の生産台数が57万台、販売台数が59万台に達する必要がある。
生産台数については、テスラの世界4大工場の生産能力(上海工場が75万台、カリフォルニア工場が65万台、ベルリン工場が10万台、テキサス工場が10万台)に鑑みると、目標を達成できる可能性はある。ただ、販売台数については目標達成はかなり厳しい状況にある。というのも、生産能力を急激に拡大したものの、需要が相応に増加していないためだ。テスラ中国は従来、生産台数と販売台数がほぼ同じ(2021年の年間販売台数は93万400台、販売台数は93万6,200台)だった。しかし今年は1~10月の実績で、生産台数57万9,200台に対して、販売台数は55万4,800台。生産台数が販売台数を2万4,400台上回り、在庫が増加している。
NEV補助金政策が終了する年末にかけて、駆け込み需要が高まると予想される中、テスラは値下げによる販売促進に踏み切った格好だ。
テスラが値下げする一方、BYDが値上げすることで、今後、両社の販売台数にどのような変化が起きるのか。テスラが再び販売台数の優位性を取り戻すのか、BYDが販売好調を維持できるのか。BYDにとっては一つの試金石になるともいえそうだ。