RCEP発効の中国経済にとっての意味、陳波華中科技大教授に聞く
北京8日発中国新聞社電は、「RCEPの発効は中国経済にとって何を意味しているか」と題して、陳波・華中科技大学教授へのインタビュー記事を配信した。陳氏はその中で、▽RCEPによって中国と日本の間に初のFTAが結ばれ、中国の自由貿易ネットワークが一段と拡大した▽協定の発効は、中日の2大エコノミー間で初めてFTAができ、日本が中国の輸出産品の88%の関税をすぐにもゼロにすることを意味しているーと述べている。内容次の通り。
2022年1月1日、「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)が正式に発効した。世界最大の自由貿易圏の船出を示すものだ。RCEPの発効は中国経済にとって何を意味しているか?華中科技大学教授で、光谷自由貿易研究院院長の陳波氏がこのほど中国新聞社「東西問」記者のインタビューに応じ、RCEPがもたらす発展の新たなチャンスについて踏み込んで解説した。
以下はインタビュー記録の要旨である。
記者 8年の交渉を経て、2020年にRCEPの署名が行われ、22年に正式に発効した。あなたから見て、RCEPの署名と発効は中国にとってどんな特別な意義があるか?
陳波 RCEPの署名と発効は中国にとって重要な意義があり、それは主に次の四つの面に現れている。一、RCEPは中国の対外経済貿易協力の一大突破であり、グローバルな経済貿易の枠組みの「新たな窓口」を開いた。二、RCEPは世界最大の地域的自由貿易協定(FTA)であり、国際経済貿易ルール再構築の過程で中国の声を発するのに役立ち、国内に改革を迫るのにも役立つ。三、RCEPの署名と発効は、世界に向けて中国は決して「内巻」〈閉鎖的Involution〉にはなっておらず、国内の経済循環を固めると同時に、引き続きグローバル化に参加し、グローバル化の奥深い発展を後押ししていることを証明するもので、外国企業の中国投資への自信を強固にし、中国の「包括的進歩的環太平洋パートナシップ協定」(CPTPP)など高い水準の経済貿易協力加入交渉に助力するうえで役に立つ。四、RCEPによって中国と日本の間に初のFTAが結ばれ、中国の自由貿易ネットワークが一段と拡大した。
記者 RCEPの発効は、アジア全体がグローバルな経済貿易システムの中で、自らが主導する統一的地域秩序を擁するようなったことを意味するという声もある。これをどう見るか。またRCEP発効は世界経済の発展にとって何を意味しているだろうか?
陳波 RCEPはモノ貿易、サービス貿易、投資自由化三位一体の、高い基準の自由貿易協定で、参加国がすべてアジア太平洋地域にある。その発効はアジアがグローバルな経済貿易システムの中で初めて、自らが主導する統一的地域秩序を擁するようなったとみなすことができ、加盟国に対し開かれた協力のかなりの収益をもたらすだろう。
モノ貿易面では、10年以内に加盟国間の90%のモノの自由な移動と関税ゼロに到ることで合意している。サービス貿易と投資の面では、中国とこれらの国が単独で結んだ二国間FTAに比べ、RCEPの開放度はより高く、しかも知的財産権保護、電子商取引(EC)の競争政策、政府調達などの議題も盛り込んでいる。世界の有名シンクタンクの試算では、2025年までにRCEPは加盟国の輸出、対外投資ストック、GDPの伸びをベースラインよりそれぞり10・4%、2・6%、1・8%押し上げる見通しという。
留意すべきは、RCEPの総人口が22・7億人、GDPが26兆㌦、輸出総額が5・5兆㌦に達し、いずれも全世界の総量の約30%を占め、巨大な経済ウェイトと発展の余地を秘めていることだ。その中には日本、韓国、オーストラリアなど先進国も含まれれば、東南アジアの中低所得水準の発展途上国も含まれている。言い換えれば、RCEPは世界貿易機関(WTO)の縮小版のようなもので、それが成功すれば、WTOの経済・貿易協力改革の参考や手本になる可能性がある。
記者 RCEPの構成を見ると、ASEAN諸国や東アジア諸国もあれば、大洋州諸国もある。こうした加盟国構成をどう見るか?
陳波 RCEPの基礎は「ASEAN+5」、つまりASEAN10カ国にASEANの5対話国、即ち中国、日本、韓国、オーストラリアおよびニュージーランドを加えたものだ。従って、現在RCEPの構成は「ASEAN+5」で、完全にアジア太平洋諸国である。
これらの加盟国は経済発展の差が極めて大きく、先進国もあれば途上国もある。しかし最大の貿易相手が中国である点で共通している。従って、中国はRCEPの形成で核心的推進作用を果たした。中国は世界最大の発展途上国でありまた第二の貿易国でもある。中国が推進するRCEPプランは、一方で国際経済貿易変革の要求を反映し、高い水準のFTAに達することができる。他方でまた、発展途上国の現実に配慮し、各国の発展の現状を考慮することもできる。
記者 いま中国は「ダブル循環」という新たな発展の枠組みを提起しているが、RCEPは中国の経済発展にどう助力すると考えるか?対外開放の新たな「高地」である中国の自由貿易区の数はすでに21に達している。RCEPは中国の自由貿易区の発展にどのような影響をもたらすだろうか?
陳波 全体的に見て、RCEPの着地〈誕生、実現〉は、中国と、世界で最も発展が速く経済が最も活発なアジア太平洋市場の一段の融合を図り、アジア太平洋の産業チェーンを打ち固めるのに有益で、中国の国内市場の全体的競争力を増強し、中国市場の優勝劣敗、産業転換・高度化を図るのに有益だ。従って、RCEPの着地は中国の「ダブル循環」という新たな発展の枠組みを強力に促進するだろう。
周知の通り、自由貿易区設立のそもそもの狙いは、中国が高い水準の国際貿易投資取り決めに適応するのを助ける実験田にして、中国の全面的開放の新たな枠組みを築くための先行実験を行うことだった。RCEPの条項中のネガティブリストは自由貿易区で真っ先に試行したものである。RCEPの条項の中には中国に対するいくつかの猶予措置があるが、自由貿易区内では直ちに実行すべきである。例えば、RCEPは中国にサービス業のネガティブリスト実行の6年間猶予を認めたが、自由貿易区での先行実験の任務はすぐに進めるべきだ。RCEPの着地は、全国的な対外開放がすでに新たな段階に入ったことを示している。それに合わせて、「試験田」たる自由貿易区は引き続きより高い基準の開放革新措置の試行を模索し、一層開放的な経済貿易にベンチマークする〈目標を定める〉べきだ。
記者 RCEPの関税譲許と貿易円滑化措置の「好材料」は主にどこに現れているのか?中国の企業と関連業界にどんな影響があるのか?
陳波 まず、RCEPの関税譲許でカバーされる商品の範囲が大きい。協定の着地後、中国からRCEP諸国に輸出される商品のうち、90%以上が今後10年以内に関税ゼロの待遇〈扱い〉を受けるようになる。それはまた、中日の2大エコノミー間で初めてFTAができて、日本がすぐにも中国の輸出産品の88%の関税をゼロにすることを意味している。RCEPの貿易円滑化に対する中国の措置は主に以下の四つの面に現れている。
一、RCEP諸国からの輸入商品について、通常48時間以内に通関を終えることを明確に打ち出した。無論、48時間は最低限度であり、税関は6時間スピード通関の実現を目指し、商品のスピード通関チャンネルができることになる。
二、原産地ルール面で、RCEP諸国は連続(back to back)原産地証明書の待遇〈扱い〉を受け、販売および物流能率が高まる。同時にRCEPの蓄積条項は産業チェーンの融合に役立つ。加盟国が多く、企業の生産に必要な投入品がほとんどRCEP諸国からくるため、関税免除政策を蓄積して受けることができ、域内の産業チェーンの強化が促される。
三、直接輸送で期間の制限がなく、販売および物流過程でRCEP加盟国での滞留期間が期間制限に算入されず、関税を納める必要がない。以前の規定では、滞留期間が半年以上になると所在国の商品とみなされ、関税を納めなければならないおそれがあった。
四、域内の価値の計算法に、異なる2種類の方法がある。一つはある国が付加価値の中で占める割合によって免税の部分を計算するもの、もう一つはすべてのRCEP諸国の、その商品の構成部分中の付加価値を合計して免税部分を計算するものだ。RCEPの域内において、加盟国間では生産、産業チェーン協力、価値蓄積の過程で免税待遇を受け、貿易を促進できる。
全体的に見て、RCEPはもとから国際分業協力に参加していた業界にとっては、増幅作用があり、国際的産業チェーンに依存していた産業や企業には有利だろう。RCEP諸国と競争していた企業は、短期的に新たな挑戦に適応する過程があるかもしれない。業種別に見ると、貨物運送、繊維、アパレル、軽工業、建材、農産物、採掘、EC、公共交通、インターネットなどの業界が受ける利益は大きく、自動車・同部品、石油・化学、医療、観光などの業界は一定の挑戦を受けるかもしれない。このほか、電子製品や機械設備など、いくつかの業界は産業チェーンが長いので、RCEPから受ける影響の全体的評価も比較的複雑である。(翻訳:中国通信社)