古代から北京五輪まで、受け継がれた平和遺伝子の理由
スポーツは人類の共通言語であり、国際オリンピックムーブメントの規約「オリンピック憲章」は、平和でより美しい世界の構築を何度も強調している。古代オリンピックから北京オリンピックまで、平和遺伝子はオリンピックスピリットの中に蓄積されてきた。
人類文明史の視点から見て、なぜオリンピックは平和遺伝子を伝承し続けているのだろうか。スポーツを媒介とする東西の対話は、文明交流にどのような示唆を与えているのだろうか。中華文化とオリンピック文化にはどんな共通言語があるのだろうか。
中国人民大学人文北京(人文五輪)研究センター研究員の高富貴氏は先日、中国新聞社の独占インタビューを受け、これを深く解読してくれた。
記者:古代オリンピックは1170年の間に290回以上にわたって開催されました。現在、夏季オリンピックは32回開催され、そして、第24回冬季オリンピックが北京で開幕されます。オリンピックを代表とするスポーツマンシップは、人類の文明発展のためにどのような役割を果たしていますか。
高富貴:古代オリンピックに関する伝説は多くありますが、オリンピックスピリットに対する各界の認識はかなり一致していて、すなわち、公平な競争、平和の尊重、健康の向上です。神話の影響を受けているためか、古代ギリシャの人々は、競技運動を通じて英雄への崇敬を表現してきました。ルネッサンス以降は、古代オリンピックにおける人の自然特性に対する肯定が啓蒙精神と相互に刺激し合い、それぞれの時代において、人々は古代オリンピックスピリットに対する模索をしていました。
近代オリンピックムーブメント創始者のピエール・ド・クーベルタン男爵がオリンピックムーブメント復興を提唱した時期は、まさに西洋の植民地の拡大のピークにありました。近代化の波は科学技術の進歩と人類の交流をある程度促進しましたが、近代民族及び国家が必然的にもたらしたものは、後発国家に対する主権の侵略と資源の略奪でした。
1月15日、「迎冬奥・美在逐夢」中国美術館蔵スポーツ題材美術作品展覧会の彫刻作品「微笑のクーベルタン」中新社記者・満会喬撮影。
クーベルタン男爵は「スポーツ賛歌」の中で、「スポーツは正義だ!社会生活では求められない公平と合理だ」とつづっています。近代オリンピックムーブメントは、当初から、見識がある人が西洋文明に内在する矛盾を改めて考え、古代オリンピックスピリットから多様性ある文明の平和共存の知恵を吸収しようとしました。
このことから、文明史の観点から見ると、オリンピックムーブメントはギリシャから始まりましたが、最初から、人類文明の基礎となる価値観を示し、いじめ、略奪、弱小民族への差別に反対していたことがわかります。オリンピックムーブメントは、国籍、民族、政治、宗教、肌の色と言語の制限を超え、人類社会の平和、団結、友情と進歩を促進することを目的としています。
記者:近代オリンピックでは、オリンピックの目的は停戦の伝統とセットになっています。76回国連総会でオリンピック休戦決議が採択され、平和と外交手段で衝突を解決することが呼びかけられました。オリンピックはなぜ平和遺伝子を伝承してきたのでしょうか。
高富貴:平和は全人類の共通の願いであり、追求する目標です。起源、目的、精神、目標からも、オリンピックムーブメントの個々の細胞には平和遺伝子が浸透しています。
古代ギリシャでは、オリンピックが開催されるたびに、都市間が停戦をして、各地の選手が試合に参加しました。また、各地から観戦に行くことは許可されていますが、違反者は参加を禁止されます。「聖なる休戦」は、戦乱に苦しむ人々の平和への渇望に満ちていました。近代オリンピックも同様に、戦争に脅かされた環境の中で誕生しているため、オリンピックムーブメントは、人類の平和という崇高な理想を自身の追求としてきました。言いかえれば、平和の要素が欠けてしまえば、オリンピックムーブメントは輝きを失うでしょう。
クーベルタン男爵は、近代オリンピックの主な目的を「平和、友情、進歩」と定め、国際スポーツ競技を「未来の自由貿易」、スポーツ選手を「平和の使者」と呼んでいます。スポーツは人間本来の権利で、全ての人が享受しなければなりません。これは、本能的な体験を追求する人間の努力だと言えます。オリンピックは、人類がみずからをアピールし、平和に酔いしれる精神的なよりどころを提供しています。
古代ギリシャ人は、「聖なる休戦」を通じて平和を呼びかけ、オリンピックを行うことで都市間交流を強化していました。近代オリンピックは、国と国との交流を強化し、人と人との間の理解を深め、団結の精神と楽観主義を通じて、より平和で美しい世界を構築することを主張しています。だから、オリンピックムーブメントが追求する平和は、その生存と発展のかなめなのです。
世界が多くの紛争と新型コロナウイルスに直面している現在、北京オリンピックは人類の団結、強靱さ、協力の価値を示す貴重なきっかけとなります。北京オリンピックの公式モットー「未来に向かって一緒に」が示すように、オリンピック旗の下で団結、協力して、困難を乗り越え、人類の希望に火をともし、一緒に未来を目指すべきなのです。
2021年9月17日、北京オリンピック・パラリンピックの公式モットー「Together for a Shared Future(未来に向かって一緒に)」正式発表。北京冬季オリンピック組織委員会写真提供。
記者:2021年、国際オリンピック委員会は、オリンピックモットー「より速く、より高く、より強く」の後に「より団結する」を加えることを決定しました。オリンピックムーブメントが平和と団結を提唱し、人類がグローバルな挑戦に共同で対処することにはどのような示唆を与えていますか。
高富貴:「より団結する」を加えることは、国際オリンピック委員会がグローバルな挑戦のもとで人類の平和と発展に対する考えを具現化したもので、オリンピックムーブメントに新しい内容を与え、全人類が共同体として団結することを呼びかけたものです。
オリンピックは、世界で数少ない、多くの国が集う大会プラットフォームとして、規模でもレベルでも、国際社会への発信力があります。グローバル化は、より多くの接触機会をもたらすとともに、異なる民族、異なる文明間の誤解や対立も先鋭化させています。その危機感のもと、オリンピックムーブメントには、もはや競技場での個人や団体のアピールの場でなく、人類に運命共同体として強い意志が与えられています。
2021年7月20日、第138回国際オリンピック委員会総会が東京で開催され、投票の結果、「より速く、より高く、より強く」というオリンピックモットーの後に「より団結する」を加えることを決定した。100年以上ぶりの修正。東京オリパラメインプレスセンターの放送画面より。中新社記者・韓海丹撮影
また、新型コロナウイルスに対する共通した危機を背景に加わった「より団結する」も、人類と自然を共同体として提唱する「より団結する」の意味と読み取れます。例えば、オリンピックではここ何大会も「グリーンオリンピック」が呼びかけられ、この持続可能なオリンピック理念は、人と自然の関係を改めて考えさせられます。
記者:近年、オリンピックムーブメントの発展に伴い、オリンピック文化の多元化が加速しています。スポーツを媒体とする異文化の対話は、文明の交流にどのような示唆を与えていますか。
高富貴:西洋諸国は、オリンピックムーブメントの発展に大きな推進作用を果たしました。オリンピックのスポーツ種目の多くは西洋を起源とし、近代オリンピック、冬季オリンピックも西洋諸国で開催されることが多いです。
多くの国及び地域の参加によって、オリンピック文化はますます多元化の方向へと発展し、オリンピックの視聴価値と魅力を向上させ、多文化に対する融和と尊重がなされています。
例えば、北京オリンピックでは、中国人歌手の劉歓がイギリスの女性歌手サラ・ブライトマンとテーマ曲「You and Me」を歌いました。東西文化が結びついた「国際的な模範」となっただけでなく、北京オリンピックの「一つの世界」を推進したいという期待もあらわれていました。
2008年8月8日夜、第29回夏季オリンピック大会が国家体育場「鳥の巣」で盛大に開幕された。劉歓(右)とイギリスの有名歌手サラ・ブライトマンが開会式で「You and Me」を歌った。中新社記者・任朝鳴撮影
スポーツを媒体とする交流において、オリンピックムーブメントの普遍的な評価は、決して標準化、近代化、単一化、非欧米化や西洋化を意味しているのではなく、多文化の相互作用の融合として捉えるべきなのです。
記者:2008年に北京で夏季オリンピックが開催され、現在、冬季オリンピックが開催され、中華文化とオリンピック文化の交流が著しく増えています。調和と共生精神を提唱する中華文化とオリンピック文化にはどのような共通言語がありますか。
高富貴:オリンピックムーブメントは、世界の多文化の交流と理解を促進しています。北京は夏季と冬季オリンピックを開催する唯一無二の都市です。北京夏季オリンピックでは「人文五輪」のスローガンが提出され、中国人民大学人文五輪研究センターがオリンピックの人文特性を発揚することを目的に設立されました。「人文五輪」とは、オリンピックスピリットを文化の根元から総括し、中国の伝統文化とスポーツ文化がどのようにオリンピックスピリットを豊かにするかを模索しようとするものです。
2008年8月8日夜、第29回オリンピック大会が北京で開幕した。きらびやかな花火が北京の夜空に咲き、そのきらめきが「鳥の巣」にも映り込む。中新社記者・毛建軍撮影
中華民族は天人合一の宇宙観を提唱しますが、それは、人と人、人と自然の調和と共生を強調するものです。オリンピックムーブメントの自由、平等などの核心的な価値が幾つかのグローバル化の「逆流」の中で衝撃を受けていますが、中国は、冬季オリンピックを開催することによって、オリンピックムーブメントの核心的な理念を安定させようとしています。
「和して同ぜず」の理念から見れば、よい社会は「白か黒か」のような価値判断に依存するわけではありません。社会形態の多様性を尊重した上で、各分野での対話の可能性を模索すべきなのです。世界各地の選手は、オリンピックというプラットフォーム上で、同じルールのもとで競争を展開します。それは、人類社会が違いを乗り越えて「融合」する能力があることを示しています。
中国は終始、「友好第一、試合第二」を提唱し、スポーツによって人類共存共栄の架け橋を築き、世界平和の理念からスポーツ大会を開催し世界に愛を与え、世界との互いに利益のある共存の立場を表明しています。中国の伝統的なスポーツ倫理観の中にある公正、仁愛、友好、誠実などの観念は、オリンピック文化における自由、競争、奮闘、開拓、進取、個体重視などの理念と相互に補完し合い、オリンピックスピリットをさらに促進し、豊かにするでしょう。(翻訳:李年古)
高富貴
中国人民大学人文北京(人文五輪)研究センター研究員。主要な研究領域は、スポーツ人文社会学、オリンピック文化研究。国家社会科学基金重大プロジェクト「2022北京冬季五輪氷雪運動普及と発展対策研究」に参画。著書に、「冬季オリンピックプロジェクト及び観戦ガイドライン」、「スポーツと健康」。