中国の鍼灸はいかに発展し、全世界に広まったか―専門家が詳しく分かりやすく解説
現代の日本でも、古い時代に中国から伝わった鍼灸(しんきゅう)治療は広く行われている。鍼灸は中国でどのような歴史をたどったのだろうか。世界にはどのように伝わっているのだろうか。中国伝統医学に長年に渡り携わってきた四川省の成都中医薬大学の梁繁栄首席教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて鍼灸の歴史の現状について説明した。以下は梁首席教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■新石器時代に発生した鍼灸は、歴史を通じて進化し続けた
鍼灸は中華民族の数千年の医療や生活における実践の中で育まれた伝統的な医療だ。出土品により、その起源は新石器時代にまでさかのぼることが分かった。最初は主に石器や竹針を用いて病気の痛みを治療した。殷時代には青銅の針が広く使用されるようになった。
春秋戦国時代には鉄製の鍼が登場した。また鍼灸はしっかりとした理論体系を持つようになった。前漢時代(紀元前202年-紀元8年)に編さんされた「黄帝内経」(こうていだいきょう)には豊富な鍼灸治療法が記載されている。
四川省の成都老官山にある前漢時代(紀元前202年-紀元8年)の墓では2013年、920本余りの医学竹簡、50本の木簡が見つかった。さらに「心」「肺」などの線刻文字がある人体の「ツボ」、すなわち経穴(けいけつ、「穴」とも)を示す人体像も出土した。高さ約14センチで五感や肢体が正確に描かれており、これまで発見された中で最も古い完全な経穴人体医学模型だ。
施術法でも時代ごとの改良があった。例えば明代(1368-1644年)から清代(1644-1912年)には、それまでは灸の施術のたびにもぐさを成形していたのが、あらかじめ棒状にして乾燥した艾条灸が使われるようになった。鍼は患者に痛みを感じさせない方向に進歩した。さらに、伝来した西洋医学と鍼灸の結合が発生した。
鍼灸は、隋代(589-618年)や唐代(618-907年)に日本や韓国、ベトナムなどのアジア諸国に伝わり始めた。鑑真和上(688-763年)は「黄帝内経」、「神農本草経」、「鍼灸甲乙経」などを携えて日本に渡った。明代には鍼灸がフランスに伝わり、そこから欧州全体に広まりはじめた。
ニクソン米大統領が1972年に中国を訪問した際には、同行したジャーナリストのジェームズ・ライストン氏が急性虫垂炎のため北京協和病院で手術を受けた。手術翌日には腹部膨満感と痛みの症状が出た。中国の医師団は鍼灸療法を行うことにした。まず中国人鍼灸師が右肘と両膝の下に3針を打ち、次に灸で腹部に熱刺激を与えた。
■鍼灸が海外に広まる際に存在した「三つの関門」
ライストン氏は後に、「(施術後に)腹部膨満の症状が明らかに軽減した」と紹介した。ライストン氏が中国での「不思議な体験」を紹介したことで、鍼灸は欧米でさらに注目されることになった。
大まかな統計によると、世界では現在193の国と地域が鍼灸の施術が行われており、59の国と地域が立法措置で鍼灸を認めている。米国では1972年に一部の州で鍼灸治療が合法化され、現在までに40以上の州とワシントンD.C.で鍼灸を認める法律が制定された。鍼灸施術の費用を保険金支払の対象にした保険会社もある。
アジアでは日本やタイ、シンガポール、インドネシア、韓国などが、アフリカではエジプトや南アフリカ、ガーナ、ジンバブエ、ナミビア、モーリシャスなどでも鍼灸が公的地位を獲得している。
世界保健機関(WHO)の調査によると、鍼灸は世界で最も人気がある伝統的な医学療法だ。その理由としては、理論や方法、用具などが中国における長い実践の歴史を通じて確立されていることがある。さらに針灸には高級な薬剤などを必要としないので治療費を抑えられる面もある。
鍼灸の海外進出には「関門」が3点あった、鍼を刺す際の痛み、鍼などの衛生管理、さらに法制度の問題だ。現在までにこの3点はほぼ解決された。鍼はより細くなり、鍼を細い管に挿入して正確に素早く打つことで、患者がほとんど痛みを感じないようになった。再利用していた鍼は、感染症のリスクを避けるために使い捨てになった。また、ますます多くの国が立法措置で鍼灸を認めており、法律上の制約も除かれてきた。
■西洋由来の現代科学を活用して、鍼灸療法が有効なメカニズムを探求
ただし、鍼灸の理論や概念については、海外で理解が欠ける場合がある。中国周辺の国ならば中国の医学には昔からなじみがあるが、多くの西洋人が知らなかった概念や用語は多い。例えば、人体において「気血」が運行したり臓腑(西洋医学の臓器の概念とはやや異なる)を連結するなどで全身の上下内外を結ぶ通路となる経絡(経脈+絡絡)いう概念、さらに経絡と関連する「経穴」などだ。ドイツなど海外の研究チームが西洋医学の研究方法を用いて、鍼灸における「穴」とツボでない部分、つまり「非穴」に顕著な差はないと結論付けたこともある。
中国では鍼灸の治療効果が実在し、根拠があることを証明するため2006年に鍼灸分野で973の項目からなる「臨床に基づく経穴効果特異性基礎研究」が始まった。十数年の間に10以上の大学と科学研究機関の200人以上の研究者が、全国の5000人以上の患者に対して臨床試験を行った。「穴」と「非穴」、同じ経脈の異なる「穴」、および経脈の異なる「穴」についての治療効果を比較したのだ。結果として、片頭痛、狭心症、機能性消化不良などの治療で、鍼灸の有効率は70%から90%に達することが証明された。
研究により、経穴効果の特異性は経脈のつながりと経穴の状態に関係があることが分かった。経穴が生理的な「静寂状態」から病理情況の「励起状態」に転化することが、特異な経穴効果が出現する鍵だ。経穴と非経穴は肥満細胞の分布、コラーゲンの形態、元素の含有量などの面で違いが存在する。中でも肥満細胞がある種の物質を放出する脱顆粒(かりゅう)という現象が、経穴効果の特異性発揮の重要な起動信号の一つであることが証明された。
「穴」の存在は広く認知されるようになったが、経絡が存在するかどうかは国際的に懐疑の声がある。鍼灸界ではよく「その『穴』を失うことありとても、その『経』を失うなかれ」と言う。鍼を打つ際に「穴」から多少は外れてもいいが、経絡から外れてはいけないという意味だ。われわれは現代科学を用いて、中国医学が重視してきた経絡の有効性を証明する努力を続けている。
鍼灸学は閉鎖的な体系ではない。現代科学の多くの分野と交わってこそ鍼灸に対する科学的認識を促進でき、鍼灸のメカニズムを深く解明できる可能性が出てくる。さまざまな科学分野の閉鎖性を打破してこそ、古い鍼灸をより速く、より良く発展させることができる。(翻訳:Record China)