気候経済学の父、中国の「カーボン」政策に賛辞
現在、世界中で異常気象が頻発している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書によると、気候変動対策は急務であり、新型コロナのパンデミックの影響により、低・中所得国が気候変動に取り組むことはさらに困難な状況になっている。気候変動という喫緊の課題に直面し、世界的な気候ガバナンス(合意を作り守っていく体制)の行き詰まりをどのように打開するのか。 先進国と途上国が信頼を高め、疑念を解消し、よりよい協力関係を築くにはどうしたらよいのか。「ダブルカーボン」目標の導入が、世界的な気候ガバナンスにおける中国の役割をさらに際立たせているのはなぜか。
中新社「東西問・中外対話」では、このほど英国ロンドン大学政治経済学院(LSE)グランサム気候変動環境研究所所長のニコラス・スターン卿(Lord Nicholas Stern)と中新社の劉亮記者が地球規模の気候変動のガバナンスに関する対談を行った。
ニコラス・スターン卿は、「気候変動を経済学の観点からみた」最初の人物であり、「気候経済学の父」と呼ばれている。
スターン卿は、新型コロナのパンデミックは、すべての国が感染症、生物多様性の損失、気候変動などの地球規模の脅威に直面しており、すべての国が人類のリスクを認識する必要があると述べている。 気候変動によりよく対処するために、先進国と途上国は協力と行動を強化する必要があり、同時に、先進国は気候変動対策資金に関する約束を一刻も早く実現する必要がある。
スターン卿は、近年の中国の気候変動ガバナンスに対する取り組みに言及し、中国は気候変動に対する取り組みを強化し続けており、「ダブルカーボン目標」の導入によって、中国が気候ガバナンスへの責務をさらに示す良い機会を得たと語った。
インタビューの概要は以下のとおり
劉亮:国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に基づく、「共通ではあるが差異のある責任」は、地球全体の気候ガバナンスの重要な礎となるものです。 気候ガバナンスの問題において、締約国がこの原則に従うことの重要性はどこにあると思いますか。
スターン卿:「共通ではあるが差異のある責任」の原則については、1992年の国連気候変動枠組条約で、先進国が気候変動対策で主導的な役割を果たすべきだと明記されています。それは、産業革命以降、温室効果ガスの累積排出量のかなりの部分について歴史的責任があるからです。また、気候変動の緩和策や適応策に利用できる資金も有しているからです。二酸化炭素排出量実質ゼロを達成し、これ以上の地球温暖化を防ぐためには、豊かな国も貧しい国も、すべての国が強い行動をとる必要があることを認識すべきです。
注意すべきことは、すべての国が、持続可能で包括的かつ弾力的な経済移行プロセスから利益を得ることです。 当初の枠組みでは、グリーン成長はよりコストのかかる開発モデルとして捉えられていましたが、現在では明らかに状況が改善されています。
劉亮:気候資金は、気候変動への国際的対応における難題です。これまで先進国は、2020年までに年間1,000億米ドルの気候資金を途上国に提供することを約束していました。しかし、最初に約束したこの気候資金との間には、まだ大きな隔たりがあります。この状況をどのように捉えていまか。先進国と発展途上国の間の気候資金提供メカニズムをより完全なものにするにはどうしたらいいでしょうか。
スターン卿:先進国が2020年までに開発途上国への資金支援を1,000億ドルに引き上げるという共同の約束を果たせなかったことは、背信行為であり、一刻も早く是正されるべきです。 COP26(国連気候変動枠組条約締約国会議、略称COP)に先立ちカナダ政府とドイツ政府が策定した拠出計画は、2022年または2023年までに1,000億ドルの目標を達成すると示唆しています。 しかし、現在、豊かな国々が貧しい国々と協力して、持続可能な開発の分野への投資レベルを大幅に引き上げることも同時に重要です。 そのためには、すべての当事者が資金調達の構成にもっと注意を払い、先進国が今後数年間で約束をよりよく果たせるような投資のための環境を整える必要があるのです。
劉亮:『パリ協定』では、国が決定する貢献(INDC)メカニズムを構築することが求められています。 しかし、現在国が決定する貢献(INDC)と温度抑制目標とのギャップをいかに埋めるかが依然として交渉上の難題になっています。国が決定する貢献(INDC)は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「共通だが差異ある責任」の礎を揺るがすことになりますか。 両者のギャップを埋めるにはどうしたらよいでしょうか。
スターン卿:『パリ協定』では、すべての国が協力して世界の気温上昇を(産業革命以前に比べて)2℃より低く抑え、1.5℃以内に抑えるよう努力し、今世紀後半までに世界二酸化炭素排出量実質ゼロを実現することを約束しています。 同時に、科学的研究は、温度抑制目標を1.5℃以内抑えることが気候問題にとって重要であることも示しています。 しかし、現在、国が決定する貢献(INDC)はこれらの目標に合致しておらず、すべての国が協力して努力し、約束を実現するという志をよりはっきり示さなければなりません。
劉亮: 『京都議定書』から『パリ協定』に至るまで、世界的な気候ガバナンス問題は、マイルストーンとなるブレイクスルーを達成しました。この過程において、中国も重要な推進役として役割を果たしました。気候ガバナンス問題において中国の過去と現在の働きにはどのような違いがありますか。この地位の変化は何を意味していますか。考えをお聞かせください。
スターン卿:中国は、気候変動に対応するための行動を強化し続けており、特に過去数年、中国は、多くの約束をしてきました。 たとえば、2060年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を達成し、他国の石炭火力発電所への資金提供を停止することなどの誓約を掲げています。 同時に、中国が他の開発途上国のロールモデルとしての役割を果たすことも重要です。
今まさに、中国が自らの気候ガバナンスの責務を示すチャンスを得ました。もし中国が2030年までにカーボンピークアウトを達成できれば、2060年までにカーボンニュートラルの目標を達成することも容易となり、中国と世界の双方に利益をもたらすことになるでしょう。
劉亮:中国の「ダブルカーボン」目標の導入は、エネルギー消費を削減するために地方レベルで生産制限するなどの急進的な措置がとられ、安定した経済成長に影響を与えることを懸念する声があります。これについてどのようにお考えですか。
スターン卿:「ダブルカーボン」目標の導入は、中国が持続可能で包括的、かつ弾力的な経済成長を達成することに役立ちます。
低炭素化の発展と経済成長は矛盾するものではありません。低炭素目標を追求することは、より強く、よりよい方法で経済発展を推進することができます。しかし、ゼロカーボンや気候変動適応型経済への移行には、その過程において、富裕層と貧困層の間、消費者、企業と政府間の関係がより公平に扱われるよう適切な管理が必要です。たとえば、高炭素企業の従業員を再教育した上で新たな組織および事業所に配置転換することなどが必要になります。
エネルギー転換は、経済発展と成長を促進するだけでなく、新たな開発のチャンスと雇用を提供します。同時に、クリーン技術の投資とゼロカーボン転換の加速は、中国に大きな経済的チャンスをもたらし、世界経済における中国の競争力をさらに高めることになるでしょう。
劉亮:現在、『パリ協定』の発効から5年がたちました。パンデミックに直面して、気候変動問題に関する考え方に変化がありましたか。ポストパンデミックの時代において、注目すべき気候ガバナンスの問題は何ですか。
スターン卿:この6年間で、気候変動の影響はますます大きくなり、私たちの身の回りに影響を及ぼすようになってきました。
多くの国々がより持続可能で包括的、かつ弾力的な経済発展と成長モデルの魅力に気づくことができたと思います。今回のパンデミックは、どの国も感染症、生物多様性の喪失や気候変動などの地球規模の脅威に直面していることを表しています。すべての国は、私たちが直面しているリスクと、より持続可能な経済発展の道へ踏み出すために関連分野への投資を拡大することが急務であることを認識する必要があります。
投資の観点からは、ポストコロナの経済回復への投資は、持続可能で弾力のある包括的な成長を達成するために、今まさに必要なものです。
劉亮:COP26は、昨年英国グラスゴーで開催されました。この会議での進捗状況をどのように評価しますか。これが今年のCOP27にとってどのような意味をもちますか。
スターン卿:COP26では、中国と米国が気候変動対策で協力する共同声明を出すなど、大きな進展がありました。
しかし、COP26に提出された改訂版国別貢献と『パリ協定』の目標との間に依然として大きな隔たりがあり、先進国も2020年までに毎年1,000億米ドルを調達して開発途上国の気候変動対策を支援するという約束を達成できていません。
COP26の進展が2022年末までにより強力な排出削減の誓約を提出し、今後開発途上国への資金援助を強化するための新しい気候ファイナンス計画を共同で策定することを各国に促すことになるはずです。
【編集:姜雨薇】