ウクライナ紛争で脱ドル化加速

 (中国通信=東京)5月27日の中国新聞社電子版は、「なぜロシア・ウクライナ紛争がグローバルな脱ドル化を加速させるか」と題する次のような記事を配信した。


 数カ月にわたって続いているロシア・ウクライナ紛争はドルのグローバル霸権にどのような影響を与えるのか。人民元の国際化はチャンスを迎えているのか。米国が力を入れている「インド太平洋戦略」は功を奏するのか。中米関係は雲を抜けて日が差し込み、新たな方向性を見いだせるのか。


 中国新聞社の「東西問・中外対話」コーナーはこのほど、米国ワシントンのシンクタンク、グローバル安全保障分析研究所(the Institute for the Analysis of Global Security)共同所長で米国エネルギー安全保障委員会上級顧問のガル・ルフト氏(Gal Luft)と、中国人民大学国際通貨研究所(IMI)所長補佐・研究員の曲強氏に、こうした問題について対談してもらった。


 ルフト氏は次のような見解を示した。近年米国がロングアーム管轄と「でたらめ掃射」のような制裁を盛んにやるため、ドルにはすでに「神棚」から引きずり降ろされるかもしれないというすう勢が見られる。ウクライナ危機はこうしたプロセスを一段と加速させた。


 曲氏は次のように指摘している。中米の競争はいいことないではない。両国は以前から経済・金融・テクノロジーなどの分野で競争を繰り広げているが、競争の圧力は両国の絶え間ない革新を促してもおり、その成果は中米両国に恩恵をもたらすだけでなく、全人類にも恩恵をもたらし、中米の両国関係により良い未来をもたらすだろう。
 対談実録の要旨は以下の通り。

◇ロシア・ウクライナ紛争と貿易戦がドルの「神棚降ろし」を加速させる


 中新社記者:あなたは少し前に、ワシントンの「でたらめ掃射」のような制裁は、より多くの国にドルに対する依存からの脱却を促す可能性があると指摘していたが、これについて詳しくお聞きしたい。


 ルフト氏:米国に世界における真の力をもたらしているのは軍事力ではなく、ドルである。米国は現在、ウクライナを通して間接的にロシアと戦争しているが、米国が使用する真の兵器は金融面での懲罰、制裁、SWIFT(国際銀行間通信協会)体系からの排除、セカンダリー・サンクション〈二次的制裁〉などだ。まさしくこれら(「兵器」)が米国に第二次世界大戦後の国際舞台における権力をもたらしている。


 しかしながら、近年米国はロングアーム管轄と「でたらめ掃射」のような制裁を盛んにやっており、10カ国に1国は米国の制裁を受けている状態にある。これは非常に驚くべき数字であり、ますます多くの国が今まさに制裁リストに加えられようとしている。われわれはまた、少し前まで、米国がドイツとインドまでも制裁対象に加えようとしていたことを忘れてはならない。米国の制裁を免れることができる国などほとんどないのだ。


 私が思うに、ウクライナ危機勃発以降の米国の行動に、多くの国の中央銀行の高官が、「ドル本位制に過度に加わるべきではないのかもしれない」と再考させられている。一部のエネルギー輸出国も、ドル決済ですべての石油・天然ガス取引を行うのではなく、代替通貨を用意すべきなのではないかと考えるようになっている。世界にこれほどまでに強大な権力を持つ国家があり、なおかつその行動が時に無責任、過激であることを鑑みて、他の国はこのような世界でどのようにして生存していくかを考えている。私が思うに、すべてのこうした国がすでに取っている、あるいは今後取る可能性がある集団的な行動は、こんにち米国が持つ世界における地位の根幹を揺るがすことになるだろう。


 中新社記者:あなたとアン・コリン氏〈Anne Korin〉の共著「De-dollarization: The revolt against the dollar and the rise of a new financial world order〈脱ドル化:ドルに対する反乱と新しい国際金融秩序の台頭〉」では、ドルが準備通貨の神棚から引きずり降ろされるかもしれないと論じている。ロシア・ウクライナ紛争と中米間で続く貿易・テクノロジー紛争はこうしたすう勢を加速させたのだろうか。


 ルフト氏:それは間違いない。例を挙げてみよう。米国はウクライナに400億ドルの援助を提供する計画だが、この金はどこからやってくるのか。それは米国自身の赤字である。米国の年間の赤字は約1兆㌦だ。それでは、1兆㌦の赤字はどのようにして賄うのか。債券を売ることによってである。米国は基本的に他国に「借用書」を売ってこれを金に換え、それを使って好き放題やっている。これには他国に兵器を輸送することも含まれている。では、ある日、これらの国がみな、われわれはもうこうした紙幣は必要ないと言い始めたとしたらどうなるだろうか。これらの債権国は、われわれは自身の金で何か別のことをしたいと言い出すかもしれない。例えば米国の「借用書」を買うのではなく、ラオス、カンボジア、あるいは中南米地域にインフラを建設するなどだ。


 中国が「一帯一路」〈シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード〉イニシアチブを提起してから、私はずっとかなりの程度その本質が中国の経済多様化計画であると考えている。すなわち中国は米国債を買い続けることをやめ、外貨を使って他国のインフラの発展を支援し、それによってこれらの国の経済発展にも貢献するということだ。私が思うに、こうしたプロセスは現在、ますます大きな経済的推進力を生み出しており、ますます多くの国がこうした結論を出している。私が思うに、「一帯一路」イニシアチブはより多くの支持者を得ることになるだろう。


 ◇金融の兵器化:米国は「自ら長城を壊している」


 中新社記者:金融の兵器化をどう見るか。


 曲氏:金融の兵器化は諸刃の剣である。トランプ政権はかつて貿易障壁の兵器化を試みるとともに、中国から輸出された貨物に対し追徴関税を課した。しかしその結果、中国の貨物に対し1㌦多く税を徴収すると、そのうち80セントは米国の消費者が支払うことになった。


 現在、米国では物価が一様に上昇しており、米国の消費者は自らの国が徴収した関税のツケを払わされている。そのため、私が思うにこれは一種の無責任な考え方だ。このほかに、グローバル自由貿易体系は米国がこれをつくり、主導している。米国のやり方は自らが手ずからつくり上げた体系を破壊することであり、考え直す必要がある。


 ルフト氏:大多数の国はすでに米国債の購入を減らし始めている。これと同時に、米国は巨大な赤字を埋め合わせるためより多くの国債を発行する必要がある。これ(金融の兵器化)は賢明な行動ではない。金を借りる相手とは友人となり、良好な関係を保つ必要があるが、米国政府がやっていることはむしろその逆だ。私が思うに、現在米国に出現している問題は、ある程度その「民主」の本質と議会が掌握する権力に由来するものだ。これは最も破壊力を持つ事柄である。


 米国の議会には100人の上院議員と数百人の下院議員がおり、どの議員も自らのそろばんを弾いている。彼らはさまざまな法案を採択するが、中核となる指導者が欠けており、協調・一致しているわけではない。その結果、制裁対象となる個人・実体・国家がますます増えていく。このますます長くなるリストから逃れられる者はいないだろう。制裁を受ける対象の数が増え続けて臨界点に達した時、反乱が起きるだろう。私が思うに、われわれが現在見ているのはこうした反乱の始まりである。


 ◇「インド太平洋戦略」はアジアの人々を惹きつけない


 中新社記者:英国の学者オルブロー氏(Martin Albrow〉はかつて、「民主国家連盟」を構築しようと試みているバイデン大統領のやり方はほとんど笑い話である、なぜなら彼は基本的にすべての「中国が嫌いな国」をその中に招こうとしているのであって、これらの国が結局のところどのような政体であるかにはこだわっていないからだと述べた。あなたはこれについてどう見るか。


 ルフト氏:こうした見解はある程度道理が通っているが、米国の最大の問題はアジアの人民の興味をひきつけるような経済貿易のアジェンダを持っていないことだ。そのため彼らは現在「インド太平洋経済枠組み〈IPEF〉」を打ち出そうと試みている。このアジェンダは非常にあいまいなもので、これが結局のところ何なのか、どのような役割があるのかを本当に知っている者は誰一人いない。米国は先ごろすべての東南アジア諸国連合〈ASEAN〉加盟国に資金援助を提供すると約束したが、それはわずか1・5億㌦だった。その一方で、米国は現在法案に署名し、ウクライナに数十億、ひいては100億㌦を支給しようとしている。そのため私はこうした行動が米国に多くの好感と信頼をもたらすとは思わない。


 ◇人民元の国際化はチャンスをはらんでいる


 中新社記者:人民元の国際化は新たなチャンスを迎えているのだろうか。


 ルフト氏:私はますます多くの国が人民元を自国の準備通貨バスケットに組み込むようになると確信している。国際通貨基金〈IMF〉も人民元の保有を増やすだろう。この他に、私は大口商品市場が徐々に人民元を受け入れるようになるとともに、人民元を貿易通貨とするようになると考えている。なぜなら中国は最大の消費市場であり、食物とエネルギーの輸入量が最多の国(の一つ)でもあるからだ。


 曲氏:私が思うに、人民元の国際化の見通しは明るい。これは目下の地政学的衝突がはらんでいるチャンスである。現在、米国はベネズエラ、中東諸国など多くの原材料生産国との関係において新たな変化が出現しており、ロシアとの関係も更に対立に向かっている。これらの国の米国に対する信頼感は大幅に低下している。これらの国は安全保障の観点から、決済通貨を多様化することを考えているため、人民元もその選択肢の一つになっている。これは人民元がグローバル通貨市場における比重を高めた重要な理由の一つであり、それはドルのかつての高い信頼性がなくなったからだ。(完)
                     

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