中国の水土流出対策から世界が学ぶべきものは
現在、生態環境に由来する課題が世界中で増加する一方、福建省長汀県の水土流出総合対策および生態修復をめぐる実践は昨年10月に国連生物多様性条約〔CBD〕の第15回締約国会〔COP15〕で生態修復典型事例に選ばれ、1つのケーススタディーとして世界で公開・推進されている。中国が世界にシェアできる水土流出対策の内容とは。国家林草局(国家公園管理局)の諮問専門家で福建農林大学の蘭思仁(ラン・スーレン)学長が解説する。
記者:中国の水土流出の現状について教えてください。またその対策から得られた経験とは。
蘭思仁:状况は総体的に好転しています。以前から流出面積と流出強度の同時減少および水食と風食が揃って減少する傾向がみられ、生態環境の改善が続いています。黄河流域の黄土地区の水土流出面積は半分近くまで減少し、同地区の主な色調が「黄色」から「緑色」へと変化しました。
モニタリング結果によると、中国の水土流出面積は1980年代の367万km²から昨年には269万km²にまで減少しました。また水土流出面積が国土面積に占める割合は38.48%から28.15%に、流出レベルが強度以上の水土流出面積比率は28.16%から19.48%にまで減少しました。
中国が水土流出対策から得た基本的な教訓として以下のことがあげられます。
まず市民第一という点があります。民衆の生産・生活問題の解決を重点かつ着地点とし、水・土壌資源の集約や高効率な利用により、農業生産能力の向上および特色ある産業の発展などを水土流出対策と緊密に連携させてきました。
次に最も厳格な制度と法治によって水・土壌資源を保護することです。共産党第18回全国代表大会以降、水土保全に関する厳格な事前保護・監督管理制度を構築・整備し、制度の実効性と硬直的拘束性を強化し、法律規則違反に対する法的調査・処分の程度を高め、経済活動、人的行為を確実に水・土壌資源の許容範囲内に制限しています。
さらには山・川・森林・田畑・湖・草原・砂漠の体系的な整備に取り組んでいます。土木工事・植生・農業対策を結合し、生態・経済・社会的公益を一元化した、小流域単位の水土流出総合対策技術ロードマップをまとめる試みをおこなっているのです。また福建省長汀県水土流出総合対策、陝西省米脂県高西溝など複数の典型事例を打ち出し、対外的な交流や連携、そのためのプレゼンではこれらが水土保全の「中国ブランド」になりました。
記者:福建省長汀県の水土流出整備の経験はどのように「中国ブランド」となりましたか。世界にとってどのようなモデルケースとなったのでしょうか。
蘭思仁:長汀県はかつて中国南方の紅土地区で水土流出が最も深刻な県のひとつで、植物は育たず、赤土が一面に露出し連なる山々も赤色に染まっていました。「山は枯れ、水は濁り、田畑は痩せ、人々は貧しい」。これは当時の自然生態の悪化と人々の貧しい生活の真実を描いたものです。1985年以来、長汀県では水土流出減少面積が累計114.68万ムーに、また水土流出率は1985年の31.5%から2020年の6.78%にまで減少し、生態環境は根本的に改善しています。
過去の「火焔山」は青々と実り豊かな山に変わり、長汀県は中国の水土流出対策と国家生態文明試験区建設の重要なモデルになりました。この緑の奇跡は主に以下の努力に由来します。
第1に「生態優先」で水土を管理することで荒れ山を緑化することに成功しました。豊かになるにはまず荒れた土地を修復するということです。徹底的に民衆に依拠し、その行動を広範に促すことで初めて環境問題と貧困がからみあう世界的な難題を根本的に解決することができるのです。
第2に、「富民為本〔国民の豊かさと幸福を第一義にすること〕」で産業を興し、その結果民衆が豊かになり始めたことです。長汀県の水土流出対策は一貫して貧困対策およびグリーン産業の発展との連携を堅持しており、これまで森林伐採に携わっていた人々が植林に着手し、見渡す限りの「はげ山」「火焔山」が鬱蒼と茂る「緑の山」「実り豊かな山」に変わりました。
具体的には特産果樹を突破口にしました。楊梅(ヤマモモ)やツバキなど適応性の高い特産果 樹に照準を定め、果樹農業発展に対する人々のモチベーションを刺激し、三洲楊梅、河田栗といった特産果樹農業を育成しました。
加えて、「三産融合〔農村における第1次、第2次、第3次産業の融合的発展〕」の新局面を開いたことです。長汀県では「林下経済〔森林副産物――シイタケの原木栽培や養蜂など――で山地住民の収入を増やすこと〕、アグリツーリズム、「崩崗経済〔風化浸食の激しい土地に経済作物を植えて山地住民の収入を増やすこと〕などを大々的に発展させ、自然環境の強みを発展の起爆剤とし、「水土流出区域を観光スポットに、生産物を商品に」変えてみせました。長汀県三洲鎮三洲村の山頂には1万ムーに及ぶ高生産楊梅栽培基地があり、ふもとは多くの人々が訪れる汀江国家湿地公園になっています。
長汀県は生態経済に向かってアップグレードしています。同県は近年、税の減免、工場の賃料援助、低コストでの土地の提供などの一連の措置により、企業を誘致し、水土流出地区の農業人口を工場に吸収することで生態環境への負荷を軽減しています。
第3に「緑化と貧困撲滅を共に達成すれば莫大な利益が解き放たれる」と考えた結果、生態の価値が高まり始めていることです。環境保護と経済発展を有機的に統一させ、それらが互いに補完し合っているのです。グリーン発展が長汀にもたらしたものは民衆の生活水準の顕著な向上に加え、生態システムの機能の大幅な改善です。発展を遂げた長汀県は経済発展のボーナスを絶えず放出し、それを生態環境整備に還元し、人と自然が平和に共生する近代化への道を進めるよう努めています。
水土流出に大いに苦しんでいる地区にとって、長汀水土流出総合対策の成果は、生態系の回復と生態保護事業による脱貧困、さらには生態系を活用した産業振興へと至る新たなモデルになります。「長汀の経験」は中国にとってのロールモデルにとどまらず、中国の生態文明建設ストーリーを世界に語るうえでの絶好のモデルになっています。つまり、中国のエコロジカルな知恵を広めるという点でも、中国の環境保護の歴史に寄与するという点でも意義が大きいのです。
記者:西洋の水土流出対策と生態回復の経験か ら中国が学ぶべきものは。
蘭思仁:中国と西洋の水土流出対策には共通点と相違点があり、相互に学び合うべきです。中国は独自の政治的・制度的アドバンテージがあり、生態、社会経済の持続可能な発展に関わる重大な民生問題 ――水土流出管理など―― において強力な動員能力を有しており、これにより歴史上の重大な未解決問題を解消しています。一方で西洋は民衆の自発性や水土流出危機の予防、水土流出対策計画の総合性や関連性により注力しています。
近年、西洋各国の水土保全でも多くの取り組みがなされており、中国が参考にする価値があります。
米国政府は生態環境の構築と保護を重視しており、大部分の資金は政府が負担しているうえ、農民に対する技術的サポートやサービスの提供を主体的責務としています。さらに対策においては農民の積極性を考慮し、ガバナンスと開発を融合させています。
オーストラリアは主要な水土流出エリアに対し、レーダーセンシングシステム、コンピュータ、データベース、数理モデルといった先進的な科学技術と設備を使用し、水土流出の程度、範囲、形態、進行傾向のモニタリングおよび分析をおこなっており、即時通報による予防措置を講じています。また州、区から流域管理機構や各農場・牧場までに至る一連のリアル観測データシステムを構築し、これを通じて各所の水土流出状況が全面的、正確かつ即時に科学研究部門さらには意思決定層に報告される仕組みとなっています。
カナダの水土保全、生態環境構築は計画から実施まで総合的であり、土地資源の全面的評価をベースに水土流出の状況、原因および改善措置を分析することに注力しており、複数の専門的知見を運用して計画を総合的に制定しています。(翻訳:月刊中国ニュース)
蘭思仁(ラン・スーレン)
福建農林大学学長、国家林草局(国家公園管理局)諮問専門家、教育部科学技術委員会農林学部委員、国務院学位委員会風景園林学科評議構成員。生物多様性保護、庭園や生態文明などに関する研究に長年従事し、福建省科学技術協会副主席、中国旅行改革発展諮問委員会委員、中国森林風 景資源評価委員会委員、中国林学会森林公園・森林旅行分科会理事長、中国植物学会蘭分科会理事長などの社会的職務を兼任。国家科学技術サポート計画事業などの省クラス以上の科学研究事業を数多く主宰。著書は『国家森林公園理論と実践』など10冊を超える。