2024年中国経済の基調――中央経済工作会議

中央経済工作会議は12月11日~12日に北京で開催された。習近平総書記の重要講話があり、李強、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李希の各氏が出席した。 写真/新華社

2023年12月に中央経済工作会議が開催され、2024年の経済政策の概要が示された。「安定」を重視しつつも「積極的」に打って出る――そこからは正しい危機感をもって経済を好転させるという強い意志が伺える。

「経済の回復・好転をより一層推し進めるにはいくつかの困難と課題を克服しなければならない。その主なものは有効需要の不足、一部の産業における過剰生産能力、社会の先行きに対するマインドの弱さ、依然として多い隠れたリスクである。国内大循環にはまだ目詰まりが存在し、外部環境の複雑さ、厳しさ、不確実性は高まっている。危機感を強くもち、これらの問題に効果的に対処、解決していかなくてはならない。総じていうなら、わが国の成長が目の前にしている有利な条件はマイナス要因を凌駕しており、経済の回復と長期的な好転基調が変わることはない。もっと自信と意欲をもたなければならない」

これは、昨年12月11日から翌12日にかけて開催された中央経済工作会議の、現下の中国経済の動向に対する評価だ。習近平総書記は席上、重要講話を発表し、昨年の経済活動を全面的に総括するとともに、現下の経済情勢を深く分析、今年の経済任務を体系的に配置した。

今回の中央経済工作会議は、経済の回復・好転を引き続き進めていくために、これまでよりも積極的な基本方針を対外的に打ち出したといえる。

「積極性」が任務の基調

2024年の経済の基本方針について、今回の中央経済工作会議は昨年とは違う提起の仕方をしているところが多い。「2024年は『穏中求進〔安定の中で進展を求める〕、以進促穏〔進めることで安定を促す〕、先立後破〔先に構築し、後に壊す、新しいものを作ってから古いものをやめる〕』を堅持しなければならない」、「カウンターシクリカル〔逆周期〕とクロスシクリカル〔周期を跨ぐ〕のマクロ政策調整を強化する」などだ。

なかでも目を引くのが、12月9日の中央政治局会議ですでに出されていた「穏中求進、以進促穏、先立後破」のスローガンである。実は、「先立後破」の言葉が出てくるのはこれが初めてではない。2021年の中央経済工作会議でも、「『穏中求進』を堅持しなければならない。政策の調整と改革の推進ではタイミング、程度、効果をしっかりと把握し、『先立後破、穏扎穏打〔ゆっくり着実に進める〕』を堅持しなければならない」と提起されていた。しかし、翌2022年末の中央経済工作会議と昨年4月と7月に2回おこなわれた経済を主議題とする中央政治局会議の任務基調に関わる表現は「穏字当頭〔安定を第一とする〕」または「穏中求進」である。

つまり、2024年経済方針の基調にはまた新たな変化があるわけだが、これをどう理解すればいいだろうか。広発証券〔GF・セキュリティーズ〕のチーフエコノミスト・郭磊(グオ・レイ)氏は、より積極的にマインドを誘導したいという意味だと指摘する。政策の文脈でいう「安定」と「進歩」は弁証法的関係にある。「穏中求進」が政策全体の基調、一貫して変わらない政策を示し、その他の「穏字当頭」「以穏促進〔安定を通じて進歩する〕」は「安定」の方に重きがあり、「以進促穏」は進歩の方に重点がある。

粤開証券のチーフエコノミスト・羅志恒(ルオ・ジーホン)氏は次のようにみる。短期的にみた場合、2024年の経済と経済政策に対する会議のトーンは非常に前向きで、安定と進歩の関係をより詳しく説明するものになっている。「穏字当頭」と「マクロコントロール力の強化」は2024年の経済の好転を推し進め、回復の基盤を固めるのにプラスになると。

こうした積極的な基調表現は優先順位の変化も意味している。「経済政策においては長期的目標と短期的変動の抑制・安定を一体的に達成・実現することが求められるが、両者には相反する部分があり、両立は難しく、直面する問題を優先的に解決する必要がある。そこから出てきたのが『以進促穏、先立後破』だ」〔中央財経大学中国公共財政・政策研究院院長・喬宝雲氏〕

長城証券産業金融研究院の蒋飛チームが出しているレポートも次のような認識だ。新旧の成長エネルギーの転換期にあるいま、長期的な視点をもつことはもとより必要である。市場主体の活性化、労働生産性の向上も必要である。構造改革を通じて長く存在する問題を解決する、これがすなわち「破=破壊」である。しかし短期的にはまだ市場のマインドを安定させ、経済が負のスパイラルに陥るのを防がなければならない。すなわち「穏=安定」である。したがって、今回の中央経済工作会議が提起する「以進促穏、先立後破」は事実上、長期的問題と短期的問題の優先順位を組みなおそうとするものだ、と。

レポートは続ける。2024年のGDP成長率の目標は5%前後、「中速成長」を維持する、すなわち「進=進歩」と「立=構築」である。しかし、「中速成長」を短期的に維持するにはカウンターシクリカルとクロスシクリカル調整のマクロ政策を引き続き強化し、積極的な財政政策と安定的な金融政策を続けなければならない。

復旦大学経済学院の張軍(ジャン・ジュン)院長は「2024年経済政策の全体的基調は依然として安定である。いまよりリスクを増やさないという前提の下、需要サイドの政策を強化する」という。2016年以降、政策担当者はマクロ管理における中長期政策と短期政策のバランスをより強調し、政策的重点は次第に需要サイドから供給サイドへとシフトしてきた。これは、カウンターシクリカルとクロスシクリカル調整を頻繁に活用し、経済がひとたび収縮すれば拡張政策をとってきたそれまでの態度とは異なる。しかし、なかにはこの転換にまだ適応できていない市場主体もあり、依然として政策的テコ入れを期待しているが、それでは往々にして空振り状態になる、ということだ。

張軍氏はこうみる。「2024年の経済政策の重点は引き続き『脱コロナ』であり、さらなる回復を期して、供給と需要どちらのサイドの政策も発動される可能性がある。ただし、これ以上リスクを増やさないことが条件だ。過度な拡張政策でリスクが積み重なる→収縮政策でリスクを管理するという循環に再び陥ることは避けなければならない」。いまの経済はコロナ禍で生じた「重苦しさ」に直面しているので、需要方面の政策を用いるだろうが、過度な政策はとらないだろう。

供給サイドの政策と需要サイドの政策の関係に関して、中央経済工作会議は「供給サイド構造改革の深化と内需拡大を統一する」と表現している。

また、羅志恒氏は以前の分析で次のような指摘もしている。拡張政策は「適度」でなければならない、積極的な財政政策は「適度」に強化し、質と効率を高めなければならない、安定的な金融政策は柔軟かつ「適度」、しかも正確かつ効果的でなければならない――中央経済工作会議はこれらの点も明確にした。「経済の質の効果的な向上と量の合理的な成長を持続的に推進」し、「ばらまき」方式や景気刺激策が原因で新たな反動期リスクが生じないようすることが最終的な目的、ということだ。

マクロ政策にいかに注力するのか

拡張政策は必ず財政・金融政策として具現化する。

財政・金融政策に対する今回の中央経済工作会議の言及は基本的にこれまでと変わらない。すなわち、積極的な財政政策を適度に強化し、質と効率を高めなければならない、安定的な金融政策は柔軟かつ「適度」、しかも正確かつ効果的でなければならない、というものだ。また、一貫して市場はどちらかというと金融政策よりも財政政策への注力を期待する。

実際、財政政策へと次第に傾注していく流れは昨年下半期からすでにみられた。中央政府は1兆元の特別国債発行を発表、これにより一般財政の赤字比率は3.8%に上昇する。「今年の財政赤字はどこまで許容されるのか」は、積極的な財政政策の「強化」の程度を計る重要な指標だと外部にみられている。

羅志恒氏は、積極的な財政政策の基調は変わらず、今年の財政赤字比率は必然的に3%を超えるかもしれない、赤字の規模は中央の専権事項だという。中央は昨年の第4四半期に1兆元の国債を増発し、同時に前もって地方債の限度枠を部分的に下げておいた。これは実物の成果量をできるだけ早急に形成し、2024年のスタートを幸先よく切るうえでプラスになる。しかし、政策が途切れないように注意しなければならないし、「息切れ」の局面が生じるのは避けなければならない。同氏はそう考える。

蒋飛チームも「中央はレバレッジ・シフト」の傾向という認識だ。「実際、昨年10月末に1兆元の国債を増発し、中央財政の赤字比率を高めると同時にそれをすべて地方財政にふりむけている。財政の効果を最大化し、中央のレバレッジで地方のデレバレッジに対処するという傾向が徐々にはっきりしてきている。国内財政は一方の手で『地方財政の負債を低減』し、もう一方の手で『中央財政をレバレッジにシフト』していく――これが今後比較的長きにわたる財政政策のアウトラインになるかもしれない。2024年、狭義の赤字比率は3・5%か、あるいはもっと高め――3%台の壁を超える――に設定されているかもしれないとわれわれはみている」

喬宝雲氏は、今年の財政政策全体の基調は昨年とは異なる点があるという。「2022年末、コロナ後の経済は自ずと回復するという高い期待があった。したがって翌2023年の財政政策は、これまで長きにわたって積み重なってきた問題への受動的対応により注力することになった。地方財政の債務問題はその一例である。2023年の経済は回復・好転したが、直面する課題は決して少なくない。2024年の財政政策はより能動的でなければならず、注力の度合も上げていかなければならない」

積極的な財政政策を「適度に強化する」というとき、それが目指す目的はいかなるものか。

喬宝雲氏は、財政政策を全面的に棚卸すべきだという。財政政策に注力するといっても目の前にある選択肢は1つではない。注力されるべきは中央財政なのか地方財政なのか、供給サイドに注力するのか需要サイドに力を入れるのか……財政政策にはより正確な選択が求められる、ということだ。

「注力されるのが中央財政なら、中央政府のバランスシートに影響することになる。地方財政なら、その効果を改めて考えなければならない。これまでわれわれは地方政府のほうが地方財政の現状をよく理解していると思ってきた。しかし現状をみると、注力されるのが地方財政なら、多少なりとも道徳的リスクをはらむことになる」

もう1つ重要な選択になるのが、供給サイドか需要サイドかだ。喬宝雲氏は次のようにいう。

これまでの財政政策は税収減免と行政事業性費用の削除、インフラ投資などの分野に偏ってきた。しかし、先ごろ発表された11月の消費者物価指数は前年同期比マイナス0・5%と依然として楽観を許さない。需要不足を目の前にして、考えなければならないのは個人消費拡大に資する財政政策ではないか、と。「政策は、経済システムが稼働しているさなかに生じる新たな問題にも適応していかなくてはならない。例えば、中央財政の資金が国民個々人に直接届くしくみはこれまで欠如していた。しかし、そういうしくみがあれば、政策はピンポイントで積極的に効果を生み出すことができる」

需要不足はいまなお経済回復の足かせになっている。先の中央経済工作会議において、「経済の回復・好転をより一層推し進めるにはいくつかの困難と課題を克服しなければならない」というときの「困難と課題」で真っ先に挙げられたのが「有効需要の不足」だった。これは需要、とくに個人消費を政策で下支えすることに対して、外部に引き続き期待をもたせるものだ。

野村証券・中国のチーフエコノミスト陸挺氏が「2024年に持ち越された課題」について言及した際、真っ先に挙げたのが、今後消費の回復が緩慢になるだろうという点だ。2023年はポストコロナで消費パフォーマンスがとりわけ目立ったが、2024年の消費の伸びは、前年のこの高い基数に影響される。しかも旅行などのリベンジ消費は次第に反発力が弱まる。不動産不況、株価低迷なども資産効果の目減りにつながる。つまり、消費需要は下振れ圧力にさらされるだろうということだ。

中央経済工作会議では内需拡大への注力が強調され、「消費はベース、投資はキーとなる役割を果たせるようにする」という前年の表現と違って「潜在的消費を刺激し、有効な投資を拡大し、消費と投資の相乗効果を生み出さなければならない」という言い方がされた。

国盛証券のチーフエコノミスト熊園氏は、その後の議論では投資と消費の転換がさらに強調されたという。具体的には、文化・観光インフラの整備や農村市場流通システムの構築など、消費関連のインフラ建設を強化すること、投資をもっと民生分野――保障性住宅・城中村〔農村が都市に周囲を囲まれることによって生まれた都市の中の「村部」〕再開発・平時緊急時両用の公共インフラ施設の「三大プロジェクト」などがこのカテゴリーに属する――に振り向けること、投資の拡大と消費の促進が雇用拡大や収入増によってプラスの循環を実現することなどだ。

「旅行、飲食など対面サービス型の業界はコロナの影響を最も受けたので、2023年の盛り返しが目立った。しかし、コロナによる収入の低下と先行き不安が原因で、消費全体の反発力は予想されたほどではなかった。だからこそ需要拡大の注力ポイントは個人の収入増だということになる。最も根本的な方法は賃金アップによる収入増だが、そこに至るまでは、家庭支出の削減も実質的な収入増につながる」と張軍氏は話す。

同氏は、2024年内需拡大の重点は消費にシフトするかもしれないとみる。しかしこれは、米国のようにキャッシュをばらまくということではない。そうではなく、育児、医療、高齢者介護など、家計を圧迫する比較的大きな支出を限られた条件のもとで補填するということだ。さらに例をあげるなら、税金である。各家庭の納税状況はすぐわかるのだから、税金の減免はピンポイントでできるはずだという。

これまでと違って今回の中央経済工作会議は、個々の政策の連携強化をとりわけ強調している。「財政、金融、雇用、産業、地域、科学技術、環境保護など、個々の政策をバランスよく組み合わせ、非経済政策をマクロ政策傾向の整合性評価に組み入れて政策の統一性を強化し、注力の方向が分散しないようにして相乗効果を発揮できるようにする」。あわせて指摘されているのが、幾重にも重なる関係を適切に処理することだ。「スピードと質、マクロデータとミクロな実感、経済成長と福祉の改善、成長と安全、これら両者の関係を注意深く把握して適切に処理し、経済の回復・好転の流れを絶えず固め強化する」

 

※月刊中国ニュースより

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