新たなコーヒーブームが席捲 —— 中国ブランドの店舗数は世界最多に
「茶の国であった中国が、今ではアメリカ以上のブランドコーヒー店を抱えている」
「この1年に、世界で中国のコーヒーブランドの店舗総数は初めてアメリカを超え、4万9700店で世界一に躍り出た」
昨年12月13日、「World Coffee Portal」〔コーヒー産業に関する情報ポータルサイト〕が発表した最新の報告によると、中国はすでにアメリカを追い抜き、世界最大のブランドコーヒー店市場となった。同じ時期に、アメリカのブランドコーヒー店数の伸びは4万62店で、わずか4%の伸びにとどまっている。
「茶の国であった中国が、今ではアメリカ以上のブランドコーヒー店を抱えている」。アメリカのケーブルニュースネットワーク(C N N)はこう報じた。
上述のポータルサイトによると、中国のコーヒーブランドが世界の市場に進出させたおよそ1万8000店のうち、1万1000店近くの新規店舗は、ラッキンコーヒー〔瑞幸咖啡、Luckin Coffee〕とコッティコーヒー〔庫迪咖啡、Cotti Coffee〕で占められている。昨年、このツートップが、中国の店舗提供型コーヒーブランドとして、その規模、風味の革新性、「下沈市場〔3級都市=地方都市以下の地域と農村部〕」の開拓といった面の競争を牽引した。
加熱し続ける巨大市場
外食産業の企業で長年にわたりブランド市場開拓のキャリアを積んだ趙薇(ジャオ・ウェイ)さんは昨年、友人と意気投合して北京に自主ブランドのレストランを開業した。この店の独自な点は「ショップインショップ」型の経営モデルにある。昼間はスペシャリティコーヒーとスイーツを出し、夜にはカクテルとディナーに切り替える。そのほか「秘密」のバーで特製カクテルも提供する。彼女の創業理念は、「何事にも絶対的な“レッド・オーシャン”はなく、需要は作り出すもの、起業家はレースにおいて自身の独自性を探るべき」というものだ。
新機軸、多元化、大衆化……中国の都市部では、コーヒーの「現地化」の波が席捲している。一線・二線都市〔政治・経済活動において全国的に重要な影響力を持つ都市〕では、ビジネスエリアと地下鉄の駅に密集するコーヒーチェーン店と、路地に入れば出会う個人経営のクラフトコーヒー店とが、人々の「街歩き」コースですでに繋がっている。県級都市〔県レベルの都市で、地方の政治経済の中心〕でも、コーヒー店の創業ブームが起こっている。
これまで長い間、値段的にも店の数的にも敷居が高いせいで中国本土になかなか根付かなかった。一貫して普及率が低い、低成長業界だったのだ。
転換点は、2021年4月のことだった。「生ココナッツラテ」が発売されるや爆発的な人気商品になったのだ。発売後の8カ月で、単品で12億6000万元の売り上げをラッキンコーヒーにもたらし、年間の販売数は7000万杯を超えた。コーヒーはミルクティーとコラボする機会を得て、より多くの中国人に受け入れられるようになった。
「過去2年、国内の店舗提供型コーヒーの普及率は急速に上昇し、店舗数は猛烈な勢いで増加して、需要と供給が相乗効果を発揮して高まりました」。信達証券研究センターの劉嘉仁(リウ・ジアーレン)副総経理はこう評価する。
ラッキンコーヒーの財務報告データをまとめると、2022年の第4四半期から翌昨年の第3四半期にかけて、実質新規開店数は5412店舗にのぼる。昨年9月までに、その店舗総数は1万3273店に達し、前期比22・5%増となっている。
一方、ラッキンコーヒーの創業者グループがスタートしたコッティーコーヒーも、誕生から激しい攻勢を仕掛け続けている。昨年10月22日、開業1周年の日には世界での店舗総数が6061店となったことを宣言し、2025年に2万店を達成すると目標を掲げた。
前瞻産業研究院〔シンクタンク〕のデータによれば、昨年9月時点で、中国市場のコーヒーチェーン店ブランドの店舗数での上位10社のうち、ラッキンコーヒー、スターバックス、コッティコーヒーがトップ3となっている。4位以下は幸運咖、Manner Coffee、挪瓦〔Nowwa〕咖啡、本来不該有咖啡〔There Was No Coffee〕となり、外国ブランドであるティムホートンズ〔Tims天好咖啡〕、コスタコーヒー〔Costa Coffee〕を凌いでいる。
昨年の下半期に、コーヒーブランドは価格合戦を繰り広げた。ラッキンコーヒーは「毎週9・9元」、コッティコーヒーは「どこでも8・8元、2杯目半額」、幸運咖は「9・9元で2杯」さえ打ち出した。
その一方で、中国のコーヒーブランドは商品の「バラエティーの創造」にも長けている。昨年、爆発的なヒットを飛ばした「売れ筋商品」は、ラッキンコーヒーと茅台集団が提携した「醤香ラテ」〔茅台酒入りカフェラテ。醤香は白酒の種類の一つ〕だ。9月の発売初日には542万杯の販売を記録し、売り上げは1億元を突破した。
アメリカン、カフェラテ、エスプレッソに需要が偏る海外市場とは違い、中国ではミルクコーヒーとフレーバーコーヒーが好まれる。そのため、中国ブランドが競争にしのぎを削るのは豆ではなく、風味のバラエティを生み出すことだ。茶、酒、米、フルーツ風味のほか、都市の特色に基づいて凉茶〔漢方薬材入りの清涼飲料水〕、花椒〔四川料理などに使われる山椒の一種〕、酸角〔雲南省産の果物。タマリンド〕コーヒーなどマニアックな風味も登場した。
地方都市のコーヒー市場の冬
中国のコーヒー店の急速な成長は、各ブランドのチェーン店が「下沈市場」を猛烈な勢いで席捲していることと切り離せない。フランチャイズ方式によって拡大中のラッキンコーヒーとコッティコーヒーは、中国の県城〔県庁所在地の都市〕でコーヒーブームを巻き起こしている。
市場全体のヒートアップと同時に、コーヒー業界の「内部競争」も過激化している。窄門餐眼〔外食産業専門のデータ調査サイト〕の統計によれば、コーヒー業界の新規開店数は昨年9月までの直近1年で7万7000店にのぼる。そのうち3万5000店はすでに閉店しており、非上位ブランドのチェーン店や有力でない独立系店舗は苦境に立たされ続けている。
昨年に初めてフランチャイズに加盟したコーヒー店主、とりわけ県城の店長たちにとっては、現地でのコーヒーの普及率・商品化率の低さに加え、閑散期に入った影響もあって、業界に参入して初めての厳しい冬となっている。
浙江省のある県級市で4軒のコッティコーヒーのフランチャイズ店を抱えている陳墨(ルビ:チェン・モー)さんによれば、夏の繁忙期には1日におよそ400~500杯ほど売れ、3万元前後の利益があるが、最近の閑散期にはそれが100杯程度になるという。「1杯で2元ほどしか儲けがないのに、どうやって採算を取れと? 家賃にしかならない」と嘆く。
フランチャイズ店の生き残りの厳しさは、今に始まったことではない。昨年末には、コッティコーヒーの加盟店主たちが小紅書〔RED、SNS型ECアプリ〕で公開書簡を発表した。それによれば、ブランドには供給チェーンの欠陥、関連商品の不足、研究開発やフランチャイズ効果の低さ、低利潤、営業管理部門が専門的でないといった問題があるという。
コッティコーヒー側はなおも大胆に市場への攻略を続けており、今年1月3日には新たに人とロボットとの協働戦略を正式に発表した。店舗での商業ロボットの運用を世界的な規模で推し進め、営業時間を24時間まで拡大可能とするものだ。だが、1台15万元もするロボットアームを導入できる加盟店はないだろうと陳墨は言う。
その一方で、Uターンして起業し、県城で独立系のクラフトコーヒー店を開く若者もますます増えている。
昨年7月、故郷の遼寧省鉄嶺市に戻った宝強(バオ・チアン)さんは、市の中心部にある胡同(フートン)で自身の店舗「天堂隔壁」〔「天国の隣」の意〕をオープンした。その営業モデルは、「昼はコーヒー、夜はアルコール」というものだ。だが、閑散期の実際の売り上げは惨憺たるものだという。
それでも、宝強は県城でのコーヒー消費習慣の普及に希望を抱いている。「すぐに利益を上げるつもりはありません。暖かくなるのを待って、売り上げの状況を見て考えます。やみくもに進む気はありませんが」
前出の劉嘉仁によれば、チェーン系と独立系のコーヒー店の土俵は同じではない。テイクアウト可能な店舗提供型コーヒーを主力とするラッキンコーヒーやコッティコーヒーは、商品のコストパフォーマンスを向上させ、風味のアレンジでより多くの顧客をカバーすることに重点を置いている。一方、「自営・起業系のブランドには、チェーン店系のコーヒーとは別に、依然として独自の需要があります。もちろん、地域によって「下沈市場」の顧客と消費シーンには大きな違いがあります」
「海外進出」へのチャレンジ
中国のコーヒー市場の「パイ」がますます大きくなる中で、ラッキンコーヒーとコッティコーヒーは昨年、海外進出にも踏み出した。
3月31日、ラッキンコーヒーはシンガポールの2つの新規店舗で試験的営業に入り、中国の店舗提供型コーヒーブランドとして海外進出の「第一砲」を鳴り響かせた。4カ月後の8月8日、コッティコーヒーはソウルの江南区で初の海外店舗をオープンし、国際化戦略の本格始動を宣言した。
だが海外初上陸の後、両社の歩みは全く異なるものとなった。ラッキンコーヒーはシンガポール市場に錨を下ろすにとどめ、現地で堅実に店舗数を増やし、12月25日には30番目の店舗を正式にオープンした。
一方、コッティコーヒーはインドネシア・日本・カナダ・香港などの地域を開拓して続々と第一号店を開いた。昨年12月にはベトナム・タイ・マレーシア・フィリピン・シンガポールにも新規開店しており、すでに東南アジア・日本・韓国・北米の地を踏んだことになる。
越境ECと比べ、オフラインでの営業が必要な店舗提供型コーヒーブランドは、巨額のコストに直面する。「供給チェーンの物流構築、店舗、水道や電気、人材などのコスト支出に加え、現地の飲食文化や消費習慣、商標登録や経営面での法律・法規も考慮しなければなりません」。アメリカで市場開拓業務に従事する李童(リー・トン)氏はこう語る。
中国国内の市場と同様に、コストパフォーマンスの追求と広告の投入も、コーヒーブランドの海外進出における主な戦略となる。価格に関しては、ラッキンコーヒーもコッティコーヒーも国内での「補貼+低価格」〔補貼は企業側が価格の一部を負担すること〕の手法を踏襲している。例えば、コッティコーヒーのマレーシア店では新規開店時の特別価格は「アメリカン3・9リンギット〔日本円で約120円〕、その他の商品は6・9リンギット」とした。ラッキンコーヒーのシンガポール店の開業時には、アプリをダウンロードすれば最初の1杯は0・99シンガポールドル〔日本円で約110円〕、2杯目は半額とした。
営業戦略の面でも、ブランドの野心が発揮されている。昨年6月、コッティコーヒーはアルゼンチンのナショナルサッカーチームのグローバルスポンサーとなったことを公式発表し、海外店舗ではメッシを起用したイメージ広告も大々的に設置された。
「コーヒーブランドがグローバル市場で激しい競争に直面したとき、国内での人気商品も海外で通用するとは限りません。現地に合わせた商品のアレンジも大きな課題です。消費財は主としてブランド、商品、販売チャネルの争いとなりますが、ブランドの価値は1日で育つものではありません。そのため、まず商品と販売チャネルの営業戦略で優位に立つことが先決です」と合煦智遠基金〔証券会社〕の研究チームは分析する。
だが、「現在の中国コーヒーブランドの海外進出は、多くは『試験段階』」だと劉嘉仁は語る。「現在は海外の華人が中国で運用した枠組みでチャレンジ的な営業をしているのかもしれず、その成否を検証できる段階ではありません」。トレンド消費分野のベテランアナリストである周恒(ジョウ・ホン)氏もこうコメントしている。
先が読めない海外市場
海外進出の道は順風満帆ではなく、初めて海外に踏み出したブランドは、水面化の「暗礁」にも用心する必要がある。
このほど、ラッキンコーヒーと「タイの偽ブランド」との商標権をめぐる紛争は、中国のスタートアップ起業に警鐘を鳴らした。昨年12月、中国のラッキンコーヒーがタイのRoyal 50R グループを商標権侵害で提訴していた事案は敗訴という結末を迎えた。相手側は、中国側に100億バーツの損害補償を求める裁判さえ起こしている。
世界知的所有権機関〔WIPO〕のデータベースによれば、タイのRoyal 50R グループは2018年に「タイ版ラッキンコーヒー」の商標を申請しており、2020年に取得に成功し、2028年までを期限としている。商標は「luckin coffee」の文字を完全にコピーしてタイ語を加え、鹿のマークを反転させたものだ。
さらに致命的なことに、「タイ版ラッキンコーヒー」ブランドはすでに中国の本家と同様の業務を開始していた。これは、通常の商標剽窃による悪意の登記行為よりも影響が甚大である。北京大成〔上海〕法律事務所の袁源(ユエン・ユエン)氏は、「中国のラッキンコーヒーブランドが大きくなるほど、タイ版ブランドの知名度も上昇し、本家は『他人のために花嫁衣装を作る』というジレンマに陥る」ことになるという。
ラッキンコーヒーが悪意で登録されたブランドに潜在的市場でのシェアを「奪われた」ことは、その海外進出の歩みのペースダウンを意味するのだろうか? アナリストたちの意見は、中国のコーヒーブランドの海外進出はそれほど「容易」ではないが「焦る」必要もなく、海外出店は現段階で最優先の方向性ではないというものだ。「今の段階では、インスタントコーヒーブランドに比べ、店舗提供型コーヒーブランドの海外進出には明確な比較優位性がありません」と劉嘉仁は指摘する。国内の市場空間が十分に巨大化した今、中国のコーヒーブランドはさらに重心を国内の市場規模の発展に置き、確実に供給チェーンを安定させるべきだという。
国内でコーヒー消費量が最も多い都市である上海でも、1人あたりの消費量は、アメリカ・韓国など年平均300杯レベルの成熟したコーヒー市場に比べて10倍以上の開きがある。民生証券が昨年8月に発表した研究報告によれば、国内の店舗提供型コーヒー店の発展空間はなお広く、ラッキンコーヒーなどの上位ブランドがより大きな市場シェアを得る見通しだ。将来的には、主要なチェーン店ブランドが拡大を加速し、業界の成熟度がしだいに高まるに従って、コーヒー業界のチェーン化の比率も急速に高まるだろうという。
とはいえ、トレンド消費業界の海外進出は大勢の赴くところではある。この点で、コーヒーの「兄弟」としてレースを走る新茶飲〔タピオカ、フルーツなど様々な材料でアレンジした新型の若者向け茶飲料〕ブランドは、すでに先を行っている。
2020年から2022年にかけて、中国国内の新茶飲市場の市場成長速度は急速に衰えた。喜茶〔HEYTEA〕、蜜雪冰城〔MIXUE〕など新茶飲ブランドの海外進出はすでに2018年から始まっており、現地消費者の嗜好に合わせたアレンジ、当該国でIP〔知的財産権〕を取得した営業戦略、フランチャイズ式の市場開拓などを展開している。
合煦智遠基金の研究チームはこう指摘する。「本質的に見れば、茶の起源は中国にあって、海外進出には『伝播』の意味合いが強く、中華スタイルの茶飲料で消費者の心を掴んだのです。一方、コーヒーは舶来品であって、海外進出は一種の『回帰』であり、激しい競争の中で有利な地位を占めなければなりません」
(※月刊中国ニュースより。文中の陳墨・宝強・李童・周恒は仮名)