私たちはなぜパンダを愛してやまないのか?(その1)
人はなぜパンダを愛するのだろう。答えはもちろん「かわいいから」
花花の公式プロフィールには 「手足が短いコロコロ体型、毛はフワフワで、動きはゆっくり、木登りは苦手」とある。花花はそのゆるキャラっぷりとおっとりした性格で、多くの人のハートをわしづかみにしている。剥いたばかりのタケノコを他のパンダに奪われても、通りすがりのパンダにいきなり何発も殴られても、花花は何が起こったか分からないという顔で相手を見つめるだけだ。当然、パンダ舎の外にいる人間たちが、自分目当てにやって来ていることも分かっていない。
パンダの世界ではしばしばスターが誕生するが、その理由は実に様々だ。例えば、奥莉奥(オリオ)はそのイケメンぶりで、小丫(シアオヤー)はボサボサの耳で、萌蘭(モンラン)はいたずら好きで、福菀(フーワン)はひたむきさで、七仔(チーザイ)は珍しい褐色の体毛で人気を集めた。人はなぜパンダを愛するのだろう。答えはもちろん「かわいいから」だが、元々山奥に暮らし、ほとんどその存在を知られることのなかったこの生き物が、世界中に知られ、数えきれないほどの物語を生んだ背景には、かわいいだけではない何かがあるはずだ。
生まれながらの愛されキャラ
頭と目が大きく、鼻がぺちゃんこで、フサフサの毛をしたパンダは、愛されるキャラクターの特徴に完全に当てはまっている。アニメでは、頭と目が大きい幼い顔立ちが皆に愛される役どころで、その逆の顔立ちが嫌われキャラと相場が決まっている。パンダは体に比べて頭が大きいだけでなく、目の周りの毛が黒いことから目の大きさが強調されており、さらに、不器用で危なっかしいところも相まって、見ているこちらが、ついほっこりする愛らしさを生まれながらに備えている。
パンダは遊ぶことが大好きで、ネットで最も人気を集めているパンダ動画は、飼育員との「知恵比べ」だ。飼育員が手にしている物を不意打ちで奪い去ったり、追いかけっこで右往左往させたり、かと思えばいきなり飼育員の足にしがみつき、頑として離さなかったり。そんなとき、飼育員は一瞬の隙を突いてダッシュで逃げるしかない。以前、ニューメディアで動画撮影をしていた図図(トゥートゥー)には、幸運なことに、何年もパンダと近距離で接する機会があった。図図がパンダについてかわいいと感じるところは、人を困らせるのが大好きという点だ。「パンダは、何をしているんだろう?というような好奇心に満ちた目でこちらを見てきます。そしてこちらが持っている物を奪おうと駆け寄ってくるのです。なんともかわいらしいですよね」
パンダがかわいらしいのは、本来人間とは何の関係もないことだったが、彼らのかわいらしさが人間に発見されてしまった時点で、大いに関係が生じてしまった。
パンダの生活や習性を間近でのぞき、めったに見られない瞬間を目撃できるようになったのは、大多数の人にとって、ここ数年のことだ。以前は、動物園に行かなければパンダを見ることができず、多くの人にとってそれはすぐに実現できることではなかった。だが、ニューメディアやSNSの発達により、パンダの日常生活は容易に人々の目に触れるようになり、それを拡散したり加工したりする人も大勢現れ、ネット上にはいまや無数のパンダ萌えコンテンツが転がっている。
2013年以降、CCTV.com「iPandaパンダチャンネル」は、制作チームPANDAPIAと、パンダの保護研究および繁殖施設に関する提携を結び、近距離でパンダの映像を撮影し、ライブ配信をおこなっている。同チャンネルからは、たくさんのスターパンダが誕生した。24時間365日ライブ配信する「iPandaパンダチャンネル」は、ナレーションなどが一切ないにも関わらず視聴者数には事欠かず、世界各地で暮らす人々がほっと和める映像をとぎれることなく提供し続けている。
図図はPANDAPIAチームの立ち上げ時からのメンバーの1人だ。成都パンダ繁殖研究基地のオープンな考え方によって、パンダがニューメディアで幾度もブレイクしたことに、図図は深い感銘を受けた。例えば2015年9月のパンダの出産ライブ配信。出産には一定のリスクが付きものであり、母親はうっかり赤ちゃんパンダを踏んだり傷つけたりするかもしれないし、死産の可能性だってある。自然現象であるとは言え、世間の批判を呼ぶリスクがあったわけだ。当時の基地の部門責任者と飼育員はそのことを懸念していたが、最終的に基地の統括責任者がゴーサインを出した。PANDAPIAチームはすぐさま分娩室に入り、4時間に及ぶライブ配信を敢行し、パンダ誕生の全プロセスを初めて世間に公開したのだった。
「パンダは動物ですから、健康なときもあれば病気のときもあり、生も死もあります。これらを包み隠さず見せることで、パンダはただかわいいだけでなく、1つの生命であり、彼らなりの一生があるということを伝えたかったのです」。図図はあのときの話し合いで交わされたこの言葉をいまでも忘れていない。
数々のライブ配信や動画、写真でパンダを目にする機会が増えたことで、人々は一見どれも同じように見えるパンダの、それぞれの特徴で名前を呼び、性格を把握できるようになった。
「ガチ」なパンダマニアに言わせれば、パンダは一頭一頭顔が違うという。雅雅(ヤーヤー)は長年のパンダマニアとして、いまや300頭以上のパンダを識別できるようになった。顔だけでなく、それぞれ性格もかわいいところも違うという。「まあ私はどちらかと言えば博愛主義者で、どの子も好きなんですけどね」と雅雅。
雅雅の目に映る花花は、オトボケであるだけでなく、とても頑張り屋なのだという。花花は早産で生まれ、普通のパンダよりやや反応が鈍く、ものを覚えるのも遅いが、いつも一生懸命に学ぼうとしている。花花が初めて木登りに成功したときの動画は、雅雅が撮影しネットに上げたものだ。手足が短く、力も弱い花花は、何度登ってもずり落ちてきてしまうが、それでもめげずに、最後は見事に登りきった。「すごく感動をもらいました! パンダだってこんなに頑張っているのに、私たちも負けていられないって思いましたよ」。雅雅のようなパンダマニアは、パンダの話になると、とても優しい口調になり、パンダの気持ちを傷つけないよう慎重に言葉を選ぶ。「ネットでは花花は障害があると言われていたりもしますが、そんな話、花花のお母さんはきっと聞きたくないですよね」
さらに雅雅を感動させたのは、福菀だった。福菀は生まれつき下半身不随で、初めて木登りに挑戦したときは、細く低い木にしか登れなかった。全身の力を前足に込め、ぶら下がるようにして、一生懸命登っていった。このとき、雅雅はカメラを構えてシャッターを押しながら、涙を流していた。ふと周りを見渡してみると、皆同じようにすすり泣きながら見守っていた。
人が最も感銘を受けるのは、こうした「人間味」あふれる場面なのだ。
パンダマニアの小喬(シアオチアオ)は、先代のトップスター・奥莉奥が子どもの頃に遭った事故のことを思い出す。おりに頭を挟まれてしまった奥莉奥をなんとか助けようと、仲間の子パンダ数匹が奥莉奥の元に集まったが、どうしてよいかわからず、ただ鳴きわめくばかりだった。その声を耳にした飼育員「ママ」が駆けつけ、奥莉奥はようやく助けられた。この出来事をライブ配信で見ていた小喬は、パンダの「情」をひしひしと感じた。「パンダの知能は犬や猫ほど高くありませんが、非常に人間らしい一面もあるんです」
母親と赤ちゃんとのやり取りも、感動的な瞬間がてんこ盛りだ。パンダは木登りが大好きな生き物だが、幼すぎる赤ちゃんが木に登ろうとしても、ママパンダに止められてしまう。反面、ママパンダは、赤ちゃんパンダを鍛えるため、わざと坂の上から突き飛ばして転ばせることもある。また、赤ちゃんパンダは大きくなると、断乳のため、強制的にママから引き離される。その瞬間のママパンダの別れの苦しみは画面からあふれ出さんばかりになり、赤ちゃんを探して鳴き叫ぶ様子は、見ているだけで心が痛む。
現在の中国パンダ界のトップスターといえば、南の花花、北の萌蘭だろう。萌蘭は「美人」で有名な萌萌(モンモン)と帰国子女パンダの美蘭(メイラン)の息子だ。父方、母方それぞれの系譜で3番目の子どもに当たり、また、北京動物園は北京市の西城区西直門外大街にあるため、「西直門の三太子(3番目の王子)」という高貴なニックネームで呼ばれている。萌蘭は活発で社交的な性格。幼少期に独特かつ大物感漂う仰向けの寝姿で一気にスターダムにのし上がったツワモノで、小さい頃からエピソードには事欠かず、今日に至るまでスターの座を守っている。ネット界隈では、北京動物園は「三太子」1匹の力で株式上場も夢ではないとまことしやかにささやかれている。
※月刊中国Newsより転載